30000hit御礼 沖千SS

「二人の秘め事」





今日は一番組に連れ立っての巡察。
いつものように幹部隊士の後に、今日は沖田さんの後ろについて市中を見廻る。
その途中、一軒のお茶屋さんが目に入って来た。

あそこは確か…
千鶴は一人、頭の中で考えたことに頷くと、ついその考えが顔に出てしまって少しだけ微笑んだ。

一方総司もその店に目が留まる。
あそこは確か…最近評判の店で…って誰か言ってたな。
うん。間違いない。と千鶴の方にちらっと目線だけを向ければ、何やら店の方を見て微笑んでいる。

・・・・・?何か好きなお菓子でもあるのかな?
それなら・・・

「千鶴ちゃん、巡察中なんだけど?」
「あっはい!すみません。」

ぼうっとしていたのが見つかったと、千鶴はばつの悪そうに首をすくめた後、慌てて背筋を伸ばした。
その様子見て、くすくす笑いながら総司は千鶴に目線を合わせてきた。

「何、あのお店のお菓子食べたいの?」
「え?あ、美味しそうですよね」

ちょうど店の前を通り過ぎようという時で、千鶴は軒下でお団子を食べあう人達に少しだけ目を向けて返事をした。
その言葉に、総司はじゃあさ、と、にこっと笑顔を作って顔を近づけると、

「帰りに買ってあげるから、帰ったら二人で食べようよ」
「あ、・・・・えっと、でも・・・・」

当然、はい!と嬉しそうに返事をする千鶴を想像していたのに、何故か困ったような表情で歯切れが悪い。
ああ、と総司は一言だけ声を漏らした後、意地悪な笑みを浮かべて、

「千鶴ちゃん、太ったの?でも全然そうは見えないけど」

と視線を胸のあたりに置いてくるからたまらない。
千鶴は真っ赤になって咄嗟に胸を隠しながら、勢いで本当の理由を話してしまった。

「違います!!今日は平助君とお団子食べるからです!」
「へえ・・・平助とねえ・・・」

はっと、言った途端にしまった!というような顔をする千鶴に、総司は眉を吊り上げた。

「何その顔、言ったらいけなかったの?」

なんだかむかむかする。

「いえ、いけないって言うわけじゃないと思うんですけど・・・・」
「けど、何?」

問い詰める総司の声はとげとげしくて、言わなければ場が収まるような雰囲気ではない。
千鶴はごめんね、平助君と心の中で呟きながら、総司にその理由を話した。

「屯所に来てまだ始めの方の頃、平助君と桜餅を二人で食べたんです。あの頃から気を使ってくれて…」
「へえ・・・(どうせ僕は気を使っていなかったよ)」
「それで、その時また二人で食べようねって」
「ふうん…」
「それから、たまに二人でこっそり食べていたんです」
「そう・・・」
「今日も、あそこのお店のお団子を買うから一緒に食べようって言われてて」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから沖田さんとは、また今度ご一緒させ、て・・・・・沖田さん?」

にこにこ前を見ながら話していた千鶴は、ふと横に何やら不穏な空気を感じて総司の方に目を向けると・・・
同じように、にこにこしながら千鶴を見ている総司の目はとっても笑ってない。全力で笑ってない。

「あ、あの・・・三人で食べましょうか!?沖田さん甘いもの好きなんですよね?」
「いいよ?気を遣わなくても・・・二人でどうぞ。」
「でも・・・」
「いいから、・・・じゃあ、巡察続けるよ。ついてきてね」
「は、はい」

千鶴の返事を聞くが早いが、総司はそのまま大股で早足でずんずん先に行ってしまう。
小柄な千鶴と、長身の総司では歩幅が全く違う。
千鶴が必死で小走りで付いて行くけど、総司はお構いなしにどんどん進んでいく。
後ろからぞろぞろ連れ立つ隊士達も、急に歩みが早くなったことで慌てて付いてくる。
その様子を息切れしそうになりながら、目に入れると、千鶴は必死で総司に追いつき、声をかける。

「お、・・・お、沖田さん・・・早いです・・皆さん遅れてますよ?」

ずっと小走り状態で、普段屯所にこもりきりで体力もそこまで自身のない千鶴は、途中声を切らせながら話す。
すると、総司は千鶴を一瞥して、

「・・・いつもこれくらいだよ?君も迷惑かけないように付いてきなよ」
(嘘っ!!ここまで早くないはず!!だって隊士さん達だって慌ててるし!!)

そんな千鶴の意図を汲んだのか、総司は目をすっと細めて、後ろに振り向いた。

「・・・いつも通りでしょ、送れず付いてきなよ、来れないのは明日びっちり鍛えるから」

ふんっとそれだけ言うとまたずんずん進む。
は、はいいい~!!と隊士達の悲鳴のような返事が聞こえる。

そのまま結局、立ち寄らなければならない店、怪しいと思われる者への詰問以外は、ずっとこの早さで見廻りを行った。
予定時間よりだいぶ早く屯所に戻った時には、隊士もへとへとで座り込むくらいで…
もちろん千鶴は声を出す気力もないくらい疲れていて、倒れこみそうだった。

「千鶴ちゃん、お疲れ様。疲れた?立てる?」

何故、この人はこうもすまして立っていられるのだろう…細くて体力もそこまでありそうには見えないのに…
声を出せずにひたすら、息を整えて、重くなった足をひきずろうとする千鶴は返事もできない。

「部屋まで運んであげようか?頑張ったからご褒美」

何のご褒美ですか。どうしてこうなってると思うんですか。
言いたいことは山ほどあるけど、声が出ない。
・・・・平助君との約束まで、とにかく部屋で休みたい・・・部屋に・・・部屋・・・
・・・・・・・・・・足が動かない・・・・・(泣)

「やっぱり動けないみたいだね、遠慮しなくていいよ」

言葉の終わりと同時に、重かった体がふわっと宙に浮く。
あまりに急に体が浮いたので、思わず目を瞑り、総司にしがみつく。
そのまま動くような感じに恐る恐る目を開ければ、至近距離に総司のご機嫌な顔があって。
何が嬉しいのかと思えば、連れられて来た場所は・・・・
事態の急変に千鶴はようやく叫ぶように声を出した。

「あの。あの、あのあの!!ここ・・・沖田さんの部屋ですよ?」
「そうだよ?部屋に運ぶって言ったでしょう?」
「沖田さん・・・私休みたいんです…戻り・・「だって動けないじゃない」

重ねられた言葉にうっと声が詰まる。
その表情を面白そうに見ながら総司は、千鶴を抱きかかえたまま腰をすとんと下ろした。

「ここで休めばいいよ。僕も疲れたから千鶴ちゃんもう運べないし」
「ここでって…できません!何でそうなるんですか!」
「僕が決めたから」

そう言ってぎゅっと抱きしめると千鶴の肩に顔を寄せてくる。
わがままで、自己中心的で、人の言うこと聞かなくて、ひどい人だと思うのに、どうして嫌じゃないんだろう。
勝手にドキドキする自分の気持ちがよくわからないけど、でも・・・気持ちいい。温かい。
そう思ってそのまま、しがみついたまま、疲れ切った体は眠りに就こうとしていたのだけど。

総司が急に頭をふるっと動かして千鶴から少しだけ離れる。

「?あの・・・?」

千鶴が声をかけると、巡察の時とはまるで違う微笑みをくれる。

「紐がね、なんかくすぐったかった」

そう言って、手を伸ばすと千鶴の髪を結んでいた紐を器用に取ってしまった。
それは一瞬のことで、千鶴は下りてきた髪をふぁさっと感じる。

「余計くすぐったいと思うんですけど…」
「う~ん・・・同じくすぐったいなら千鶴ちゃんの髪の方がいいし…それに」
「それに?」
「髪下ろした姿ってなかなか見れないしね」

うん、可愛いよ、と呟かれてそのまま抱き寄せられて横になる。
・・・・・本当にここで休むことになりそう・・・・どうしよう・・・

頭は反対してる。でも、無意識に総司の着物を掴んでいる自分の体は、ここにいたいと言っている。
迷う千鶴に、総司が自分の羽織を布団代わりとばかりに上にかけた。

「あの、羽織は片付けないと・・・」
「いいの、早く寝させないと、君逃げそうだしね」

心の中を読まれているような総司の言葉。続けられた言葉は、とても愛らしいものだった。

「ねえ、お昼寝する時はまたこうして寝ようね、気持ちいいし」
「ま、また!?」
「うん、そしたら、僕と君との秘め事もできるよね」
「はあ?」
「平助とお菓子は・・・もう僕に話したから二人の秘密じゃないし、これで君と秘密を持つのは僕だけかな~僕だけだよね?」

言葉尻に確かめるように身を寄せてくる総司に、思わずこくこくと頷く。
その様子に気を良くしたのか、髪を潜り入って首筋に顔を摺り寄せてくる。
そんな風に嬉しそうに懐かれたら、あまり無下には出来ない。
というか、したくないのだ。このままが愛らしくて…そのままでいいか、と思わせられてしまう。

・・・近藤さんの気持ちがよくわかります。

ふふっと笑いながらその心地いい温かさに瞼が重くなっていく。
そのまま、少しだけ、と寝入る千鶴。
すっと自分の着物を掴んでいた千鶴の手の力が抜けていくのがわかる。
千鶴の髪を梳きながら、腕の中の少女を閉じ込めるように、もう出してもやらないとでも言うように、足も絡めて体全部で抱き締めて。

「起きたら、怒るかな・・・」

きっとそのうち誰かが見つけに来る。邪魔はされてしまうけど…でも…その前に本当にの秘め事を。
少しでも離れたくはないけど、少しだけ隙間を開けて、唇に自分の唇を寄せる。
そっと重なった唇に、自分が少し震えていたのに気が付く。不安だから?嬉しいから?よくわからないけど、好きだから、というのは間違ってはいない。
千鶴が一瞬ぴくっと動いたけど、起きたら・・・起きてもいい。
それでもきっと受け入れてくれるような気がした。だから・・・
胸に溢れる想いは口付けでさらに増していく。その想いのままに今度は深く、自分の熱を伝えるように。

・・・ねえ、起きてよ。返事を頂戴・・・

その時、不意に着物がきゅっと掴まれた気がした。
確認するように、一度唇を離して、熱く濡れた唇に軽く啄むように。
また、きゅっと、掴まれた。
目を開ければ、桜色に染まった千鶴の頬と耳、あとは・・・不自然なほどに硬く閉じられた目。

「千鶴ちゃん」
「・・・・・・・・」
「・・・これ、秘め事にしたくないな~みんなに言おうかな」
「っ!?沖田さん・・・意地悪です」
「やっぱり起きてた」
「あ、あんなことされたら、誰だって…起きます…」
「あんなことって何?」
「~~~~それは・・・うう~…」

至近距離で、顔の全体は見えないのに、困った様子がよくわかる千鶴に、その素直さに、総司は破顔する。
ちゅっと軽く口付けて、これ?と聞けば、頷こうとする千鶴の顔をしっかり押さえて頷けないように。
それともこれかな?と笑って、また、違う口付けをして。
頷こうとしても無理だと察した千鶴は、恥ずかしいのを我慢して、口付けです、と小さく呟いた。

呟かれると同時に、総司の背中に回される千鶴の腕。
胸に顔を寄せて、恥ずかしさに耐えるようにしている千鶴に、その首筋にそっと優しく唇をおとしながら、総司は言った。

「ねえ、今度は千鶴ちゃんからして、君の想いを教えて?」

返事はないけど、胸に頷く感触がある。
羽織に包まれて、二人はそのまままどろんでいく。
目を開くまでずっと、抱きしめあった、そのままで…













おまけ。

「あ、なあ土方さん、一君、千鶴知らない?」
「千鶴?今日は見廻りだろう?まだ帰ってないんじゃねえか?」
「いえ、副長、本日は一番組ですが…大分前にすでに戻っております」
「あ、それはオレも知ってる。なんだかさ~一番組連中が廊下ではいずるように歩いててさ~…なんかあったのか?」
「いや…総司の馬鹿がまだ報告に来ていないからな・・・」
「千鶴は部屋にいないのか?」
「あ~うん。部屋にも庭にも勝手場にもいないし…どこ行ったのかな~外行くわきゃないしさ」
「・・ところで平助、千鶴に用とは?」
「え!?いや…な、なんでもない。なんでもないけど、ちょっとな?野暮用が・・・」
「野暮用とは?」
「いいじゃん何だって!男には言えないことだって・・・」
「尚更気になる」
「一君!それより千鶴の場所だって!どこにもいないっておかしいじゃん、な?」
「・・・・・・・・そういえば・・・」
「何?土方さん、心当たりでも?」
「千鶴千鶴って言葉を聞きつけては、首を突っ込む馬鹿が来ねえな」
「「・・・・・・・・・・・確かに」」
「総司の奴は・・・見廻り終わって、その後何やってんだ?」
「いえ、見ていませんが」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「おっみんなこんなところで何やってるんだ?」
「あっ左之さん…千鶴か…総司見なかった?」
「千鶴と総司?あ~見た見た」
「「「どこでっ!?」」」
「な、何だよ、顔近づけるんじゃねえよ・・・総司と千鶴なら・・・」
「「「・・・・・・・・」」」
「なんか総司が千鶴抱きかかえて部屋で休ませるだの言ってたぞ?千鶴疲れていたからな、あいつもいいとこあるじゃ・・・」
「「「甘い!!!」」」
「な、何だよ」
「ちょっとオレ総司の部屋見てくる」
「俺も行く」
「ちっあいつはまた面倒を・・・報告もまだだしな、俺も行くか」
「?何だよみんな行くなら俺も・・・」

その後総司の部屋で怒号があがったのは言うまでもない話。






END






おまけの会話、誰が誰だかわかったでしょうか??
30000hitの御礼SSなのでちょっとおまけをつけてみました(^v^)
そして甘甘にしました!
千鶴は気づいてなかったけど…沖田さん好きなんですよきっと…
嫌じゃない、嬉しいから気づいたっていうのも…いいかなって…
楽しんで読んで頂けたら嬉しいですv

では、これからもよろしくお願いいたします♥