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「夢の中でも」総司ver

「千鶴ちゃんおはよう〜」

そっと障子戸を開けると、布団に潜りこんで寝ている千鶴。総司の声にも何の反応もない。
よく寝てるな〜・・・でも少しくらい反応してくれてもいいんじゃない?
悪戯めいた微笑みを浮かべて、そっと千鶴の傍にしゃがみ、千鶴の顔を覗き込む。

その顔は何だか幸せそうで。口がゆるんでいる。
・・・・僕の夢でも見てたらいいのに。
そんなことを考えながら、千鶴の髪を一梳いしていた時、

「・・好き・・」

ぽつっと呟かれたかわいい声色の寝言に、総司の動きがぴたっと止まる。
・・・・好き?誰を?・・・僕だよね?
気になって、千鶴の口元に耳を寄せる。また何か呟いてくれないかな・・・そう思いながらしたその行動に、総司は激しく後悔した。

「沖田さ・・のお嫁にい・・ない・・・・そばにいる・・・」

・・・・・・・・・・・僕のお嫁にはいかない?傍にいる?
それって・・・え〜と・・・・・
想う男が他にいるってことかな・・・

その考えに至った時、総司は頭の後ろからガン!と殴られたような感覚がした。
憎らしいほどかわいい顔で眠っている千鶴の顔を上から覗きこむ。
こんな寝言聞くんじゃなかった・・・自然に顔が引きつっていることに気が付いて、極力普通の表情に戻しながら、じっと見ていると千鶴の目が少しずつ開いていった。


起きた後の千鶴はいつもと同じで、あんな寝言を聞かなければいつものように、ちょっかいを出したのだろうけど。

「ねえ、いい夢でも見たの?」
気になっていることを千鶴に尋ねる。出来るだけ普通に笑顔を浮かべて、警戒されないように。

「・・・え!?沖田さんいつからそこにいたんですか?」
気まずそうにびくっと体をすぼめる千鶴に、いたらまずい夢でも見ていたのかと、むっとした感情を出さないようにするのが精一杯で、

「質問は僕が先だよね?」
にこっと微笑んで、黙って言葉を待てば赤くなったり、青くなったり・・・それでも我慢して待っていたのに、向けられた言葉は・・・

「夢なんて・・・見てないです」

その言葉に一瞬声が詰まる。千鶴ちゃんが僕に嘘ついた・・・
見たと、一言ってくれたら、そう、で済ませられたかもしれないのに。

「見たかもしれないけど・・・覚えてないんです」

はっきり見てないと言ったのに、もう意見を曖昧に、どうとでもとれる無難な答えを導く姿に、
訳もなく苛々が募って、顔に出そうになる。いや、もう出ているかも。

「さっさと起きた方がいいよ?」

とりあえずの笑顔を浮かべて部屋を出る。

・・・・寝言と、さっきの態度と。
やっぱり他に気になる男でもいるのかもしれない。
千鶴が理由もなしに誰かに惹かれるなんて・・・考えられない。
ということは、誰かが千鶴に近づいて、何かした。

・・・・犯人は誰かな
暇さえあれば千鶴にべったりくっついていたのに、そんな自分を知っていて千鶴に近づくなんて、正直数人しか思いつかない。

総司は通り縋りの一般隊士が思わず怯えて、廊下を戻ってしまうような笑顔を湛えて、とりあえずは部屋に戻った。




朝餉の後の幹部の会議も終わり、指南稽古も終えて、あれよあれよという間に今は午後。
今夜は夜の巡察があるために、今からは夜まで暇で。
仕事中何かに八つ当たりするようにしていたせいか、今日は隊士も他の幹部もあまり自分には近づこうとはしない。

総司はいつもと違い、苛立たし気に乱暴な足取りで、ドスドスとわざと足音を響かせる。
そのまま目的の広間にたどり着くと、徐にバン!と勢いよく戸を開けた。

中には、近づく足音で何があるのか察知していたのか、呆れたような表情を向ける斎藤と、
あ〜厄介な奴が来てしまったと、明らかに迷惑そうな表情を向ける三人組。

「あれ、皆さんお揃いで」

にこっと薄笑いをして話す総司に平助や左之は明らかに一歩退いて・・・

「な、なんだよ!朝っぱらから今日はやけに機嫌悪いし、言いたいことがあるなら言えよな!」
「ここに来るってことは・・・俺らになんか文句あるのか?」

皆の視線を一斉に集めて、総司はいきなり本題をさらっと口にした。

「千鶴ちゃんに手を出したの、誰」

しーーーーーーん

「なんか気になる人がいるみたいなんだけど」
「それって・・総司のことだろう?なんだよ、惚気か?」
「違う、僕じゃなくて・・・他の人」
「は〜!?千鶴が?そんなわけ・・・」

一同が呆れ返った部屋を見渡せば、一人茶菓子と茶を喉に詰まらせた新八が、ごほごほっとむせている。
総司は新八に鋭い視線を向けて、

「・・・・もしかして新八さん?」
「ばっ!!んなわけあるか!俺はおまえがあんまりにも突拍子もないこと言うからだな〜!!」

いまだにけほっと苦しそうに涙目になっている新八に、味方だか敵だかわからないような言葉がかけられた。

「そ〜だよ、よりによって新八っつぁんと千鶴がどうにかなるわけないじゃん!」
「そうそう・・・こんなにもてない男が、どうにか出来るわけないだろ?」
「・・・・・・・左之!平助!てめ〜ら〜!!!」

ぎゃーすか騒ぎ出す三人を見て、総司の中でこの三人の線は消えた。
その時部屋からこっそり出ようとしている斎藤の姿を認めて・・・

「斎藤君?どこ行くの?あやしいな〜・・・」

がっしり腕を掴まれた斎藤はさも迷惑そうに、

「俺は用があってここにいただけだ。用も済んだし、あんたの戯言に付き合う気はない」
「戯言?」

人が真剣に悩んでいるのに、なんだその言い草は、と総司が目を尖らせる。

「あ〜・・・もし千鶴が総司以外で好きになるなら・・・一君っぽいよなあ」
「・・・だな、天然で口説いてるところがあるかもしれねえな」
「・・・・・・俺は論外か・・・」

二人の会話にいつの間にか三人が入ってきて、皆に疑わしげに見られた斎藤はたまったものではない。

「・・・俺は何もしてない」
「どーだか、最近二人で会ったりしてない?」
「・・・・・・・・・・それは・・」
「してたの?」

ただ二人で、何の気もない日常の話をしていただけなのだが、そんなことも言わなくてはいけないのだろうか。
それに会話の内容はもっぱら総司のことで。
むしろ千鶴の総司への想いがよくわかるような会話。そんなことも知らずに殺気めいた視線を向ける総司に、斎藤は呆れを通り越して怒りを感じてきた。

「・・・総司、千鶴がおまえ以外の男を好きになるなど考えられない」
「だって、千鶴ちゃんがそう言ったんだよ」
「千鶴が?」

そんな馬鹿なと顔をしかめる斎藤に、皆も同調するように。

「・・・総司の・・・勘違いだろ?どーせ・・・」
「そうだよ、あんだけいっつもひっついていて、何を疑うんだよ」
「つ〜か、ひっつきすぎて嫌われたのかもな!」

最後の新八の言葉に左之と平助から拳のツッコミが入る。
黙りこくってしまった四人を見ると、それは言えるかもしれない。と心の中で呟く声が聞こえるようで、総司は面白くない。

「もういい・・・他をあたる」
そのまま広間を出ようとする総司に斎藤は背中越しに声をかけた。

「総司、一人で悩むより、千鶴とちゃんと話を・・・」
「それが出来たら苦労しないんだよ」

一瞬視線を向けた総司の目には力がなくて、弱弱しい。
そんな総司の姿を見て斎藤は土方張りの溜息を吐いて、千鶴の元へと向かった。




一方総司は、疑いで固まっていた心が、さっきの皆との会話で少しほどけかけていて。
千鶴ちゃんに限って・・・ない・・・かな・・
そう思いだしていたのに・・・・・

前方から来る土方をみとめて、嫌そうな顔を向けながらど〜も、と一応声をかける。
その時、土方は不機嫌そのもので、総司とすれ違いざまに怒りを凝縮したような声で言葉を放った。

「おまえが俺から奪ったもん、返してもらったからな」

それだけ言うと苛々しながら廊下を歩いていってしまう。

・・・・・・・奪ったもん?返してもらった?

その言葉になぜか結びついたのは千鶴。
普通に考えれば違ったのだろうけど・・・その時の総司の頭は千鶴でいっぱいだったから・・・
総司は慌てて身を翻して土方に詰め寄った。


「土方さん!だめです!返してください!」
いきなりがっちり体を押さえこまれて、訳の分からないことを言われて、土方ははあ?と不機嫌さを増して総司を睨んできた。
もちろん総司はそんな睨みにびくともしない。

「何言ってやがる!あれは俺のもんだろ〜が!!」
「違いますよ!そりゃ土方さんの傍においてはいるけど、僕の、僕のものです」
「はああ?おまえ気は確かか!?」
「確かですよ!返してください。僕のいない隙を狙ってとるなんて・・・副長のやることとは思えないですよ」
「おまえがいる時だと返してくれないだろ〜が!!
「当り前ですよ!どんな時でも返すつもりはありません」

あまりに真剣な総司の表情に、土方は少しだけ顔色を変える。

「・・・おまえ・・なんでそんなに欲しいんだよ、からかいたいだけだろ?」
「違います。そりゃ、最初はそうだったけど・・・今は違う」
「・・・・・・・・・・・」
「はっきりとはまだ言ってないけど、本当に好きなんです。だから返してください」
「総司・・・おまえ・・・」

土方は思わずじ〜んとする。
ただ悪戯でこの【豊玉発句集】を持ち出したのかと思っていたのに、そこまで自分の俳句が好きだったとは・・・
そうまで言われて悪い気はしない。しばらく総司に渡しておこうか・・・
そう思い、わかったよ、と言うと、総司はぱっと顔を輝かせて・・・

「ほら、やる」
いきなり差し出された・・・自分の部屋に隠しておいたはずの俳句集を見て、表情を一転させる。
「・・・・・・・何の冗談ですか?」
「何言ってやがる!おまえが欲しがっていたんだろうが」
「・・・・・・・・・・・まさかとは思うけど、返してもらったって・・・これ、ですか」
「?他に何があるんだよ」

差し出された俳句集を冷たい視線で見つめる総司に、土方もようやく何かがおかしいと思いだしたが、遅かった。
総司はその俳句集を受け取ったかと思うと・・・ひょいと庭に放り投げた。

「な!?おまえ!!総司〜〜!!」

怒りに打ち震える土方に総司はさっと背を向けて、目だけ土方によこして一言言い放った。

「あ〜僕の勘違いみたいで。僕が好きなのは千鶴ちゃんですから。そんなのどうでもいいんですよ」

そのまま歩いていこうとする総司に、土方は屯所内に響き渡るような声で怒りを向けた。

「総司!!待ちやがれ!!!この色ぼけが〜!!!」

このあと壮絶な言い争いをする二人のもとへ、すかさず斎藤がやってきて、何とかとりなしてくれたのだが、この出来事の一片だけを見て勘違いをした男がいた。
平助である。
先ほどの総司の様子が気になって、話でも聞いてやろうと思い追いかけて来たのはいいのだが、始まったのは土方との言い争いで。
しかも千鶴を取り合っての会話だと勘違いしたまま、最後まで話を聞かずに広間に慌てて戻ると、事の顛末を新八と左之に話してしまった。

「というわけでさ〜・・・土方さんも総司もすごい剣幕で・・・」
「・・・土方さんが相手かよ・・・そりゃ・・・千鶴ちゃんもな〜・・・」
「・・・総司に勝ち目は・・・ないかもな」

あんなにべたべたべたべた…たまにこちらが苛々するほどひっついていた総司を思い出して、とても不憫な気持ちでいっぱいになる。
「オ、オレ・・・明日の朝食当番代わってやろう・・・」
「・・・今夜は眠れないだろうな総司の奴…俺も手伝ってやるか」
「失恋には新しい恋だろ!?俺はじゃあ島原にでも連れていって・・・」
「「それはやめとけ」」

二人にまたもやツッコまれた新八であった。




夜、巡察の時に、今日一日のどたばたに少し疲れ気味の総司は視線を足元に向ける。
いつもこれくらいで疲れなど出ないのに…ああ、千鶴ちゃんとまともに話してないな…と心の中で呟いていると、不意に肩を叩かれた。

「総司、巡察中に下を向くな、前を向いておけ」
「・・・わかってるよ」
「わかっているなら顔をあげろ」
「はいはい」

言われて顔を上げれば、斎藤が機会を狙っていたかのように訥々と話しだす。

「・・・総司、千鶴は、お前以外に好いてるものはいない。と断言していた」
「は?何それ・・・いつ?」
「今日の昼時、土方さんとおまえのところに行く前に」
「・・・何でその時教えてくれないかな・・・」

ぶすっとした顔に不満を込めて、斎藤をじっと見やると、斎藤はその視線をものともしないで、

「時間が経った今だから、素直に受け止められるだろう」
さらっと言い放ちさっさと前を歩いていく斎藤に総司は何も反論できない。

「そういうところが嫌なんだよ・・・いつも冷静でさ・・・」
斎藤の背中に文句を言いながらも、顔は自然と緩んでくる。明日、千鶴ちゃんにちゃんと聞こう。
・・・でもその前に、帰ったら・・・顔、見に行こう・・・
我ながら単純だとは思うけど、足取り軽く残りの巡察も済ませたのだった。



千鶴はまだ起きていた。
そっと入った部屋には、布団からもぞもぞと出てきてこちらを見上げる少女。
「なかなか眠れなくて・・・」の言葉に、自分の態度を気にしていたのだろうか、と胸がちくっとするのと同時に嬉しい思いが湧いてくる。
自分の表情を見てほっとする千鶴に、誤解とは何だったのか、と尋ねられて、言葉に詰まる。
どう話したらいいのだろう。巡察の帰り道、聞きたいことを整理していたはずなのに、どこかに飛んでしまったのか、何を言えばいいのかわからない。
それでも、聞きたいことは、はっきりさせたいことは一つだから。

「千鶴ちゃんって誰が好きなの?」

不躾な質問に、困惑した表情を浮かべる千鶴。
口を少し開いても、出てくるのは沈黙ばかり。けれど、たまにこちらに目を向ける視線は何かを訴えていて…
ああ、そうか、僕も気持ちを言っていなかった。そう思ったら、今までずっと言えなかった言葉がすっと口をついて、

「僕が好きなのは千鶴ちゃんだよ」
「・・・・・・・え?」
困惑した表情は驚いたものへと変えられる。

「いつか・・・お嫁さんにだって来てほしいなって思うくらい」
慌てて頬を染めていくのがかわいい。
新選組という組織に身を宿している今は、近藤さんのために刀を振るうのだと決めている今は無理だけど…
でもそうしたいと思っている気持ちに、嘘はない。

「お嫁さん」という単語に引きずられるように、朝の千鶴の寝言に不満の気持ちを込めて、文句を連ねていく。
まさか寝言を聞かれているとは思っていなかった千鶴は、それで…とふふっと笑顔になっていく。
自分を不安でいっぱいにした出来事なのに、そんな風に笑われたら不機嫌になっても仕方がない。

そんな総司の不安や嫉妬で焦がした心を瘉すように、千鶴の口から紡がれた言葉。

「私が好きなのは沖田さんです」

愛しい声は、ひりひりとしていた心を鎮めていくように、言葉が胸に落ちていく。
言葉には真実千鶴の気持が込められているのに、でも…と言葉をつなげてしまったのは、もっと千鶴のそんな気持ちを聞きたいから。

「ちゃんと聞いてくださいね」
微笑みながら言われた言葉に、温もりを感じながらうん、と返事をしたのだけど…


「それってさ…千鶴ちゃんの気持ちもすごくよくわかるけど…」
千鶴から夢の話を聞かされて、本当に自分の勘違いと言えば勘違いだけど、そうでもないと言えば、そうでもない。

「何でそこでお嫁にいかないってなるの」
「へ?」

まさかそんな風に言われるとは思っていなかった千鶴は目をぱちぱちと瞬かせる。

「別に僕のお嫁さんになってから、綱道さんに会いにいけばいいじゃない」
「・・・そうですね」
「なんでそこで、綱道さんの傍にずっといるってなるのさ」
「・・・そ、そうですね」

なぜか問い詰められるように、本気でむっとしているのか、楽しんでいるのかわからない総司に千鶴はただただ、そうですねとしか返事が出来ない。

「・・ねえ、ちゃんと覚えといてよ?いつかおんなじ状況にでもなったらさ・・・」
「はい」
「僕を選ぶんだよ?」
「・・・・・え?」
「僕は千鶴ちゃんがいないと、幸せどこにも見つけられそうにないから・・・ね?」
「・・・・沖田さん」

本気なのか本気じゃないのか、少し首を傾げて話す総司に、それでも千鶴はこくんと頷いて返事をする。
そっと顔をあげて総司を見つめる千鶴は、幸せそうに微笑んでる。
そんな温かい時間が、心地よくて心地よくて…

・・・部屋に戻りたくないな・・・
ちらっと千鶴の布団を見てから、千鶴へと視線を向ける。なんだか目がとろんとしていて眠そうだ。
それなら・・・と心の中でにっと笑ってしまうのを感じながら、総司は眠たそうに大袈裟にあくびをして、そのまま千鶴の布団へと潜り込む。
真面目な千鶴はやっぱり部屋に戻れとか言うし、土方さんに怒られるとかなんとか言うけど、無視。
あきらめて、一緒に寝るかな?って思ったのに立ち上がろうとする気配を感じて、総司は腕を伸ばす。

・・・なんで一緒に寝ようって思わないんだろう・・・
頭が固いんだから・・・でも・・・そういうところ、好きだけどね。

ぎゅっと千鶴に手足を絡みつかせて、逃がさないように、腕の中に包み込んで、そのまま千鶴があきらめるのを待つ。
少しだけもごもご会話をしたけど、やはり限界だったのか、千鶴は黙ってしまい、そのまま抵抗していた手の力も抜けていく。

そんな千鶴の様子にそのまま総司も眠りにつこうとする。
目の前にある髪を鼻で分け入ってから、見えたかわいいおでこにそっと唇を落として、

「おやすみ、千鶴ちゃん…今日は僕の夢見てね?」

囁くようにぽそっと紡がれた言葉は千鶴には聞こえないだろう。
けれど、千鶴の手がその時そっと動いて、総司を包み込むように背中に回される。
きゅっと掴まれて、それが、そんなことが、どれだけ胸をくすぐるのだろう。

いつか、こんな毎日を過ごすことができますように・・・






朝日が目に入って次第に目が覚めていく。
耳に入る音は風の音、鳥の鳴き声、それに…すーっと寝入るかわいい千鶴の寝息。

千鶴の顔を覗きこめば、幸せそうに微笑んで眠っている。
眠っている時にでさえ、こんなに心を温かくしてくれる千鶴。満足そうに千鶴をじっと見ていると、千鶴が少しだけ体をずらそうとする。

起きがけに顔を覗き込んで見惚れて、つい抱き寄せる腕を緩めると、必ず少し離れようとするのは毎日のこと。
二人の間に隙間ができて、風が入り込んでくるのさえ嫌だと、総司はぎゅっと強めに抱きしめる。
抱きしめれば、いつものように背中に手を回して、また自分に顔を寄せてくる。
背中をきゅっと掴むのは昔から。昔からだね。

まだ眠っている千鶴に、そろそろ朝だよ?と起こすように瞼に唇を落としながらそっと声をかける。

「千鶴・・・今日は、懐かしい夢を見たよ。一番最初に、君と、眠った時のこと・・・」

朝は土方さんに大目玉で、でも怖いというより、恥ずかしそうに僕の背中に隠れる君が、かわいくて、愛らしかったな。

もちろん、今も、あの時と変わらず、僕の胸に縋りつくように眠る君が、かわいくて、愛らしい。

僕らを分か違えようとする風にだって、むっとしてしまう今を考えると、昔よりずっとずっと気持が高まっているんだなって思うよ。

本当は起こしたくないけど、このままずっと寄り添って寝ているのもいいけれど、でも…

君の声を聞きたいから。君の笑顔を見たいから。君に笑顔を向けられたいから。だから…

そっと体を下にずらして、いつものように起こそう。

穏やかな寝息をたてるかわいい唇に、そっと自分の唇を寄せて、軽く触れながら、そのまま君に言葉を紡ぐ。

「千鶴、朝だよ。起きて…僕を見て」

合わされたままの唇伝いに言葉が伝わる。

君が恥ずかしそうにしながら、目を開けて、笑顔を見せてくれるまで、あと少し・・・








END







総司さんverはSSとは思えないほど長いです(汗)
やっぱり幸せな二人を書けて、個人的には満足です。
アンケート1位なのでいろいろ書きたいと思ったらこんなに長く。
千鶴verのお話と合わせて読むとよりわかりやすいと思います。
ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました<m(__)m>