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「贈り物」

「・・・アルバロ?」

ふと斜め後ろをついて歩いていた気配が、いつの間にかなくなっていてルルは後ろを振り向いた。
見れば少し先の魔法具のウィンドウをじっと覗き込んでいる。
アルバロがそんなに風に物に興味を示すのは珍しい。一体何を見ているんだろう?

興味本位でアルバロの元へ小走りで寄っていく。
ルルが駆け寄っても視線を少しもずらさずに、ウィンドウに張り付けたまま、アルバロはルルに言葉を向ける。

「ルルちゃん・・・あれ、何かわかる?」
「あれってどれ?」
「あの・・・少女趣味のステッキの横に置かれた・・・」
「ああ!・・・何って・・・マニキュア・・じゃないの?」

魔法少女の変身道具と一緒に置かれているから、きっと女の子のための普通のマニキュアなのだろうと思う。
けれど、アルバロの視線は確かにそのマニキュアに注がれている。

「・・・・も、もしかして、あれを塗りたいの??確かにいろんな色があってかわいいと思うけど、でも、あれ・・・」
「?・・・ああ、あれは・・悪趣味なステッキの横に置かれてるけど、違うよ」
「違う?何が?」

もう少しわかりやすく、順序立てて説明してほしい。そんな思いを込めてアルバロを仰ぎ見ると、アルバロは一瞬だけルルに視線を向けた。ルルのことを馬鹿にするような意地の悪い笑みを湛えて、

「ルルちゃんにはわからないだろうね・・・あれをただの変身グッズと勘違いしてるみたいだし?」
「だ、だから!何なの!」
「・・・あれは、塗っておけば普段だったら自然に放出してしまうような魔力を、体に留めておけるモノ、だったと思うけど」
「・・・そんなことができるの?」
「一時的にね、最低10日ほど溜めていたら、自分の魔力以上の魔力を扱える。それなら1ランク上の実験もできるだろうね」
「・・・そうなの・・・」

自分一人だったらまず気がつかなかった。アルバロはなんだかんだ言って、知識に長けていると思う。
横にいる彼の視線は今も釘付けで。
・・・そんなに欲しいのなら買えばいいのに・・・

「・・・買わないの?」
「・・・ルルちゃん・・・値段見た?」
「え?」

すぐ傍に置かれた値段をチェックしてみると・・・

「た、高い!!こんなにするの!?」
「う〜ん・・・あれくらいならまだ良心的だよ、これだけでも変身グッズじゃないってわかるよね」
「・・・そ、そうね」

なんだかチクっと嫌味を言われたのはきっと気のせいじゃないのだろう。

「仕方ない・・・今日はあきらめようか、行こうルルちゃん」
「あっうん・・・」

アルバロがそんなに欲しがっているのなら、なんとかしてあげたい、とも思うけど・・・
・・・でも1ランク上の実験って・・・アルバロってそんなに魔法の研究に熱心だったかな・・?
でも、こんなことたまにしかないし・・・出来れば・・・
そんなことを考えながら、さっさと歩いていくアルバロの背を追ってルルも歩き出した。

その背に追いついたと思ったらアルバロが振り返る。
ルルの姿を確認して、そのままルルを先に歩かせた。

「ところでさ、俺がいなくなるのに気がつくの遅くない?もう少し早く気が付いてほしいな」
「え・・・それは、アルバロがそうやっていつも少し後ろ歩くからでしょう?」
「それでも、だよ」

ちらっと視線を向ければにこにこと相変わらず何を考えているかわからない笑顔。
つられて笑顔になるようなことは普段はないのだけど、今日はいいものを見つけて喜んでいるのか、いつもより自然に見える。
そんな笑顔に久し振りにルルも自然に笑顔を向けた。







「暇だな・・・」

せっかくの日曜日でも特にすることはない。
退屈で退屈で死にそうだ。
それというのも・・・・

『週末は、しばらく忙しい』

の1点張りでルルと会うこともなく。
別にどこへ行くだの、何してるだの、そんなのを敢えて聞こうとは思わないけど、気にならない・・という訳ではない。
確かに週末は校内でも寮でも見かけないから、部屋にこもっているか、出かけているか、・・おそらく後者だろう。

それなら、外出した方が会える可能性は高いかもしれない。
・・・別に会えなくても構わないけど、退屈だから。

何だか自分の中で妙に落ち着かない気持ちを、無視して、そう理由づけてアルバロは出かけることにした。

自然と足が向いたのは、あのマニキュアのある店。
値段が値段だからそう簡単には売れないだろうけど、売れ切れていたら・・と思う気持が足を急かす。

ようやく店の看板が目に入るようになった時、看板よりも何よりも、アルバロの目にはピンクの髪の女の子が目に入ってきた。

・・・・・ルルじゃないか・・何してるんだ?

じっとウィンドウを覗き込んで、何やら考え事をしているようだ。
その後、店を後にして、今度は少し先の店に入っていく。
アルバロはルルが見えなくなってから、マニキュアのお店のウィンドウを覗き込んだ。
前に来た時からは配置は変わっている様子はない。ということは・・・・

「ルルちゃんが見てたのは、やっぱりマニキュアかな?」

ぽそっと一人ごちてから、ルルが入ったもう一つのお店へと向かう。
そこはかわいらしい感じの喫茶店。そっと店の中を遠目に覗き込むと、一人でお茶でもしているのかと思われたルルはいなくて、
代わりにそこの店員として働いてるルルがいた。

・・・・・・・・

マニキュアをあんなにじっと見て、今ここで働いて・・・・わかりやす過ぎだろう・・・

はあっと溜息はつくものの、顔が笑ってしまう。
考えることが本当に単純で。わかりやすくて。こんなの、一番退屈だと思うのに。
それでもなぜそう思えないのか。
暫し、その場でルルの様子を見た後、アルバロは何か考えるようにその場を去った。





「アルバロ!ちょっといい!?」

小走りに近づいてきたルルに、ああやっと来たか、と内心思いながら、アルバロはそんな気持ちを微塵も出さずにいつものようににっこりと空々しい笑顔を浮かべた。

「何かな?」
「あ、あのね・・・実は・・・・」

頬を上気させて、後ろに回した両手で隠し持っているものをルルが出そうとした瞬間、そうはさせじと、アルバロはにっと笑って口を開いた。

「ルルちゃん俺の話も聞いてよ、ほら、これ見て」

先手を打つようにアルバロがルルに小箱を差し出す。
それを見たルルの顔は驚いて、その後、アルバロの想像通りに沈んでいく。
反対にアルバロの顔は上機嫌になっていく。

「・・・・それ、あのお店の・・・マニキュア・・かな」

つい先ほど、自分がお店でラッピングしてもらったマニキュアのとまるで同じ小箱がそこに。
その事実にルルは小箱を持つ手の力が抜けていくような気がした。

「そう、やっと手に入れたよ・・・ルル、言っておくけど、俺があれを欲しいって言ったのは別におまえに買ってもらおうと思ったわけじゃない」
「っ!?アルバロ・・・知ってたの?」
「俺は欲しいものは自分で手に入れる。おまえから貰おうだなんて思わない」
「・・・ごめんなさい・・・」

ルルの考えを全部わかってて、自分で買って手に入れた。
そこにアルバロの拒否の気持が全部込められている。
余計なことをしたのだと考えて、ルルが顔を俯けたと同時にアルバロが呆れたように口を開いた。

「早くとってくれないかな、腕が疲れるよ」
「・・・・・え?」

差し出されたままの小箱とアルバロの顔をルルは交互に見やって、それでもキョトンとしている。
そんなルルの間の抜けた顔に、アルバロは思わず小さく笑いを浮かべながら、

「早く開けて見てみたら」
「・・・私が?何で?」
「・・・俺がどんなの選んだか見てくれるかな、いい色選んだんだ」

にこっと、真意のわからない笑顔の仮面をつけたまま、差し出した手を引っ込める様子のないアルバロに、ルルは自分が持っていた小箱をそっとマントの中にしまいこんで、小箱を受け取った。
そ〜っとそ〜っとラッピングをはがして、中にあるマニキュアを見る。

「・・・・・・・・・・・」
「どう?かわいい色だよね、ルルちゃんの髪とお揃いだし、似合いそうだね」
「・・・・・・こ、これ・・・アルバロのじゃなくって・・・・?」
「俺のは・・ルルちゃんが用意してくれたから、いらないよね」

驚いたのと同時に、じわじわと嬉しい気持ちが胸に押し寄せてくる。

「さ、さっき・・・欲しいものは自分でって・・言った・・・」
「君から俺に・・・ってだけなのは、いただけないけど…俺もあげたしこれで五分と五分。対等だと思わない?」
「・・・・・・・・・・・屁理屈・・・」

言いながら、目に涙がじわっと浮かんでくるのを必死に隠そうとしながら、先ほど隠した小箱をアルバロに差し出した。

「開けていいかな?」
「うん!見てみて!」

ルルより素早い手つきで、それでも丁寧に開けていく。
中に入っていたマニキュアの色は・・・・・・

「・・・・・・ルルちゃん・・・・・」
「なあに?」
「この色、何で・・・もしかして自分用?」

小箱の中に入っていたのは、アルバロがルルに選んだのと同じ・・・ピンク色。

「あ、あれ?嫌??」
「・・・・・・・・・・」

あからさまに不機嫌な顔色に変わっていくアルバロにルルは慌てて説明を始めた。

「ち、違うの!いつもの色と同じっていうのもな〜と思って・・・それに・・・」
「・・・・・・それに?」
「アルバロの瞳と同じ色でしょう?・・・きれいだし、惹かれるし、その色、好きだから・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

少しだけ目を見開いてルルをじっと見つめるアルバロはそのあと目をすっと細めて、いつもよりも優しい視線をルルに向けた。

「まあもらっておくよ…ルルちゃんとお揃いになっちゃうね?これでより一層俺のものって感じにならない?」
「な、ならない!」
「あれ?照れちゃったかな、そういうところもかわいいね」
「また!心にもないことを!!」

もう!とぷんぷんしながら目の前を歩いていく少女を見つめるアルバロの顔は穏やかで。
いつものように斜め後ろの位置になるように、後をついていく。
いつの間にかルルの歩調に合わせて歩く癖ができているようだ。

ルルの少し斜め後ろをついて歩く。それがちょうどいい。
自分の言葉に態度に、一喜一憂する彼女の反応が目に入るから。
それを見つめる自分の姿はルルには見えないから。
普通の、裏のない表情を、まださらしたくないから。



ふと、ルルの足が止まってアルバロに振り向いた。
何か疑わしげな顔をじっと自分に向けている。そういう視線は大歓迎だ。

「・・・アルバロ・・・お金、どうしたの?」
「ん?お金?・・・ルルちゃんみたいにバイトかな」
「・・・・・・・・・・」
「あやしいのはしてないと思うよ?したら・・・ルルちゃんに感づかれそうだしね」

ルルの言いたいことを先読みして返事をしても、なお、何か言いたげにこちらを見つめてくる。

「気になっていたんだけど・・・」
「・・・何かな」
「溜めた魔力で何するの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「な、何するの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

その質問には答えず、黒い笑みをひたすら浮かべるアルバロ。
その胸のうちで何を考えていたかわかる頃、ルルは買うんじゃなかったと後悔するはめになったとか。






END






アルル小説です!なんと言われてもアルバロ×ルルですよ(>_<)
アルバロっぽくないところもありますけど、たまには、こんなのもお口直しにいいんじゃないでしょうか(←)
最後は、まあルルをからかうために、退屈をまぎらわせるために、何か画策していたんでしょうね…
ルル、お気の毒(涙)

黒いアルバロに急に変わったり戻ったりしてますけど、不意に切り替わって会話するのが好きです。

20000hitリクエストでアルルSSに投票してくれた皆様に喜んでいただければ幸いです!
ありがとうございました<m(__)m>