ラギルルSS




※こちらはラギルルSS「虫除け」の続きとなっております。
 まだ読まれていない方はそちらを先にお読みになることをお勧めします。
 追加のオチの続きですのでご注意を!



『その瞬間だけでもいい、と思わせるような―』




「朝からひどい目にあった…」
「ひどい目って…でも、どうして変身したの?私ちゃんと離れたのに」

変身したラギを抱きかかえて、皆が注目する中食堂に走ったのはつい先ほどのことである。

「どうしてって…おまえがいきなり抱きついてくるからに決まってんだろーが!」
「でも!すぐに離れたわ!本当は…」

もっと、そのままでいたかったのに…

そんな思いを瞳に込めて、じ〜っとラギを見上げれば。
気まずいような顔を浮かべて簡単に目を逸らされた。

「・・・目も合わせてくれない〜」
「ルルっ!この際だから言わせてもらうけどな!てめえには『つつしみ』ってもんがねーのか!!大体あんな人前でいきなり…っ!!」
「だって、ラギが好きなにおいは、きっとお菓子の香りとかじゃなくて…と思ったら嬉しくて…つい、早く確かめくて」

それでもさすがにあれはやりすぎだっただろうか。
思えば、周囲の人達もどちらかと言えば、ラギに同情的にこちらを見ていたような気がしないでもない。

「…今度からは気をつける」
「おーそーしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・?何だよ」

ラギが軽く返した言葉に、ルルが何故か一人百面相を始めだして。
いつものおしゃべりな口が黙っているとそれはそれで気になると言うもので、ラギがルルの様子を覗えば。

「ラギの返事っていろんな意味で取れるもの」
「はあ?何を…」

また変なことを言い出した、と肘をついて体勢を崩せば、同じように体勢を崩してルルが顔を覗きこんでくる。

・・・・・・・こいつはまた、不用意に近付きやがって!!

そんなラギの心の声など、ルルが気付く筈もなく。

「おーそーしてくれ〜って…気をつければいいの?」
「何が?」
「だからっ気をつければ…人前じゃなかったら・・いいの?」
「…なっ!?」

ルルの言ったことを一生懸命頭の中で繰り返してみる。
言われてみれば、そう取られても仕方がないのか?いや…

「そーいう意味じゃねーよ、あのな…その前に『つつしみ』がねーのかって言っただろーが」
「うん」
「それなら、そ、そーいうことを…おまえからすること自体が問題ってことだろーが…人前とかは問題外だしな」
「・・・・・・・・・・・」

黙っているルルに、お、よーやく伝わったか、と取り敢えず面倒だが授業に向かわねば、とラギが立とうとした時。

「いろんな意味で取れるって言った!」

いきなりルルが怒ったように声を荒げてラギのマントを掴んで、立とうとするのをガッチリ阻止された。

「何がだよ、他にどー取れるっつーんだ」
「・・・何だか、ラギからはしてくれる気がまるでないみたいに感じたもの」
「・・・・・・・・・・・・」

馬鹿かこいつは。
オレに何を言わせたいんだ!!

考えただけで頭がショートしそうになる。

そんな気がないわけ…ねーだろーが!!!

勢い任せて言えば、きっとまた…その場の感情に振り回されて抱きついてくるに決まってる。
オレは今、戻ったばかりなんだ。
変身はごめんだ…

けれど、だからと言って何も言わずにいれば…

――こーなるんだよな…

ルルはもう、やっぱりそうなのね、と一人納得して。
さみしいのか拗ねているのか、いつもの明るい表情に影を落として。

ラギの手がピクっと動く。
こんな時、抱きしめてやりたくなるに決まってる。
けど、今のオレは…

そんな相反する感情が、ラギの中で波打って。

「・・・・あのな、ルル」
「・・・・何」

うっ…何だこの低いテンションっ!!
むしろ、泣きたいのはオレだっつーの!!

「オレがさっき、何で変身したか・・わからねーっておまえも言ってただろ」
「・・うん。だって、すぐに離れたし・・・」

話の矛先を変えられたような気がしたのか、ルルは一瞬怪訝な顔をしたが、そのまま大人しく、ラギの言葉を待っているようだった。

「つまりだな、あれは…」
「あれは…?」
「あ、あれくらい離れてたって、その…オレにはおまえを抱きしめてんのと同じくらいドキドキするっつーか…」
「・・・・・・・・・」

オレは何を言ってんだ、いや、言わされてんのか?

でも、行動で伝えきれない分、言葉でも少しは伝えておかなければ…

「オレはおまえが思ってる以上に、それに、おまえより・・・ずっと、その、何かにつけて意識してんだ、だから・・・」
「・・・うん」
「ルル以上に、慎重になるのは・・・仕方ないっつーか・・・・そこはわかっとけ」
「・・・うん」

はにかみながら、浮かべたルルの嬉しそうな笑顔。

やっぱり、この笑顔が好きだから、自分のせいで曇らせたくない。

だから、伝えるんだと自分を納得させながら、恥ずかしい、いつもなら言い淀むことを言葉にしていく。


「・・・い、行くぞ!遅れる」
「うんっ・・・」

二人きりの何ともいえない空気が、恥ずかしさに輪を増して。
耐えきれずに勢い立ち上がれば今度はルルも素直に応じた。

ラギの説得の甲斐あってか、マントを遠慮がちに掴んで。


―――か、可愛いじゃねーか


いつもと違うそんな態度を見せられれば、それはそれでくっつかれるのと同じくらいドキドキして・・・心臓に悪い。

というか、いつでも、ルルといれば心臓に悪いくらいドキドキするのだ、と今更ながらに強く意識して。

こんな時、素直に抱きしめられない自分の体が、本当に恨めしい。

そんなことを考えつつ、足を進めるラギに、「ねえラギ」と呟くように声がかけられた。


「?どーした」
「・・・あのね、一つだけ覚えててね」
「何を・・・」

ルルの顔を見れば、見上げる顔が少し大人びていて余計に胸を騒がせる。


「私だって、いつだってラギに、ドキドキしてるんだからね」


反則まがいの笑顔を向けられて。

ラギが自分の体のことを顧みずに咄嗟に伸びた腕が、ルルを感じていたのはほんの一瞬だったけれど――








END








ラギルル!
ラギルルはですね…他のメンバーが現れないように頑張りました(笑)
つい、殿下とか殿下とか殿下とか…出してしまいたくなりますね。
同室コンビだし。

とにかく二人で…二人きりで甘めに…と思ったんですが。

甘くなっているでしょうか??

ラギはどんどん男らしくてかっこいいところが出てきていますけど・・
こんな風に振り回されてわたわたしているのも大好きです。