Lagi×Lulu




暑く、熱気のこもった空気がさらに熱されて。
むわっとした、どころではない。
そこにいるだけで肌がジリジリ焼けるような『熱さ』である。

「あちー・・・・・」
「もう、ラギまた暑いって言った」
「んなこと言ったってあちーものはあちー…つか、最近までバテてた奴がオレに文句言うなよ」

オレはバテてはいねーと腕を組んでそっぽ向くラギに、ルルはそうね、と素直に返して。
素直過ぎるほどに。

「ラギは思ったことを我慢せずに言っちゃうからなのよね!暑いものは暑いもの!」
「いや、そこはおまえには言われたくねーぞ」

暑いといえど、周りよりもっと熱い場所で二人はたんたんと時間が経過するのを待っている。
いや、肉が焼けるのを待っている。

目の前には…ゆらゆらと焚火の炎が揺れて。
焙っている肉がいい具合に香ばしく焼けてきていた。

「・・う〜ん・・いいにおいっ!早く食べたいね!」
「おまえ、ちょっと前までご飯なんて食べられないーとか言ってたよな」
「・・うっでも今は食べられるの!」

ぷぅっと頬を膨らませるルルに、ラギは思わず風船かよと笑いながら、焙っていた肉をひっくり返して。

二人がこの暑い中、外で肉を焼いているのは…数日前の珍騒動の後の帰り道に約束をしたから。


『大体、治すもこーもねーよ。ちゃんと食わねーからバテるんだ』

目の前に歩くエストとノエルの食べっぷりを思い出し。
最近の二人の様子を思い出し。
あれはルル同様にバテているだろう、とラギは思っていた。

『でも。食べられないから・・・バテるのよ』
『ちげーよ。食わねーからだ』

食堂で会って、ルルの様子に見るに見かねて…
せっかく肉をわけてあげたのに、青い顔してごめんね、食べられないのと返された時は参った。

よくわからねーけど、こいつがあーなのは…調子狂う―

『ま、これからはちゃんと食えよ。食ってなくてまたバテたら、無理やり食わすぞ』
『うん。ありがとう、ラギ』

にこっと微笑まれて、無意識に近寄るルルに、変身を危惧して離れようとしたのだが。

この後、その努力は見事に無意味になってしまったのだけど。


ここで話は今日に戻り。
この日、暇だったラギはルルに捕まった。

『あのね、最近お肉食べられてないの。だから一緒に食べよう!』
『・・・はあ?何でオレが・・・』
『だって、約束したじゃない』

こうなったら、ルルの言い分に敵う気がしない。
ルルのペースになるのだ。

どうせ食べるなら、自分の好きな食べ方で…と今に至る。


「・・・・・・これは、約束に入るのか?」
「え?何?」
「いや、振り返ってただけだけどな・・・おっこの肉、もういーんじゃねーか」

ほら、といい感じに焼き上がった肉をルルに渡して。
ルルも額に汗を光らせながらも嬉しそうに受け取った。

「わあっ!おいしそう!いただきます」
「おー急いで食って火傷すんなよ・・「熱っ」

言ってる傍からこれだ、とラギは呆れつつ、冷えた水を渡す。

「ありがと、大丈夫。・・・・・・・・・うん、おいしいっ!」
「だろっ!こうして食うのが一番うまいよな」

ルルの嬉しそうな顔に満足しつつ、ラギも焼き上がっただろう肉を手に取ったのだが。

「うん、ラギと食べると・・すごくおいしい。楽しいし、嬉しいし、美味しいし。いい事尽くしよね!」
「・・・・・・・・・・・」
「暑いの我慢してよかった!・・ラギ?食べないの?」

人がおまえの言葉に固まってる時に、わざわざそんなに近づいて来んな!

・・・・とは言えず。
口まで固まったようだったが。

「ラギっ!これ焦げてるっ」

そんな言葉には反応出来るようで、手慣れた感じで肉をさばいていく。
さばきながら…思わず漏れる言葉。

「おまえ・・・誰にでもそーいうこと・・言うのはどーかと思うぞ」
「・・?焦げてるって?」
「そこじゃねーよ!!」

こいつの間抜けは底抜けだ、と思うのに、それに振り回されるオレはどーなんだ、という気持ちもある。

でも、嫌じゃねー

口の周りが汚れることに躊躇せずに、パクっと大口開けて食べてくれるルル。

気取らないで、傍にいられて。
自然体で。
でも、落ち着くのに反して、高揚する心があって。

「ねえ、ラギ。次はみんなも誘う?」
「おー・・・・って、はっ?みんな?」

うっかり流されかけつつ、踏みとどまる。

「うん。すごくおいしいし、きっと喜ぶと思うな。特にノエルとエストに…」
「おまえな、今のあいつら見て大人しくお呼ばれすると思うのか」

・・・・・・・来ないだろうなあ・・と容易に想像できるけど。

「大体、あいつら呼んで・・ノエルとエストはまあ・・・近くに寄りたくもねーって顔すんだろ?」
「うん」
「で、ビラールは絶対食いに走る」
「見かけによらず食べるもんね!」
「・・・でだ、ユリウスとアルバロが大人しく・・・手伝うと思うか?」
「・・・・う〜ん」

本の虫のユリウスと、悪戯を楽しみそうなアルバロを思い出して。

「無理かも」
「・・だろ。オレは一人で右往左往するのはごめんだ」
「・・・・・それなら―」

話しながらも、渡した肉をぺろっと食べきっているルルに、ラギはもうひとつ、渡そうとして…

「・・今はいいの?」
「・・はっ?」
「だって、今だって一人で全部してくれてるもの。私最初に少し手伝っただけで・・」
「・・・・・・それは―」

おまえが無理やり誘ったんだろーが

いつものように言えばいいのに。

「私がまた誘ったら、してくれる?」
「・・オレが暇だったらな」

いつでも暇そうに昼寝してるオレ。
ルルに誘われて、断る気なんてねーんだっていうのに自分の言葉で気が付いた――

「うんっ約束―」

増えていく約束。
縛られることは好きじゃねーけど。

交差する小指を離そうとは思わなかった。





END











このくらいの距離なら大丈夫な筈なのに…何でだ、ヤバイ―