いい夫婦(11/22)の日!


薄桜鬼


沖田&千鶴



SS&漫画です



SSは本編ED後です。
続きが転生なので、切ないです。



漫画はその転生SSLになります。
苦手な方はお読みにならないでください。






SS




洗濯物がよく乾きそう。
陽光がさんさんと降り注ぐ中、洗濯物をパンっと一枚一枚伸ばしていると、
突然ぎゅっと抱きすくめられて、頬を鼻先でくすぐられる。

「総司さん、何ですか?」

くすぐったさに幸せを感じて、笑顔でそう返せば「ん?」と悪戯まじりに微笑まれた。

「別に、躓いただけ」
「・・・・躓・・?」
「うん。何か期待したの?」

ふうんと、猫の目猫の口。
からかうような視線を投げかけてくる総司に、千鶴は思わず口を尖らせた。

「そう、ですか。気をつけてくださいね」
「うん。気をつけるけど・・・千鶴、何か不満そう」

くすくすと堪え切れない笑いを零しながら、もう一度抱きすくめられた。

「不満なんて、ないです。何も…」
「そう?僕が君にこうしないで、家に戻っても?」
「はい。あまり風に当たると・・温かいとはいえ、体を冷やしますよ」
「・・・・・・・・・・・」

無言になった総司に、千鶴はあの…と顔を覗うように首を捻った。

「・・・あ、そう。いいよ、家に戻る」
「・・そ、総司さん」
「君が素直じゃないから、もう知らない」
「あ、あの…」

・・・・・・・・・・・・・・?

もう知らない、と家に一人で戻ると思われた総司だったが、何故か千鶴のことを抱きしめたまま、回れ右。
千鶴ごと、家に戻ろうと…

「あの、総司さん?私お洗濯…」
「僕、言ったよね?今君が素直に…抱きしめられて嬉しいとか、口付けを期待したんです〜とか言わないから、不機嫌なんだよね」
「そ、そんな事を言わそうとしたんですか!?」

そんなこと、言う筈ないじゃないですか!と思わず顔を染めれば、余計に顔を不機嫌に顰めた。

「言う筈ないって…そういう事言うの、へえ」
「総司さん、苦しい…っ」
「君が悪いんだから、大人しく今日は僕の傍にいなよ。家事も終わり」
「家事も終わりって…あの…」

そのまま、縁側に座って。
膝の上に抱えたまま自分を離そうとしない総司に、千鶴は小首を傾げた。

「総司さん…怒ったんじゃ…?」
「そうだよ。不機嫌になったのは君が原因なんだから、…君が傍にいて機嫌直さなきゃ」
「・・・・・・・ふふっ」
「何その顔」

小さくおかしそうに吹きだした千鶴に、総司が今度は小首を傾げた。

「だって、私は…総司さんが機嫌のいい時も、悪い時も…傍にいられるんだなって…」
「・・・・・君が傍にいなきゃ、誰が傍にいてくれるの」
「・・はい、そうですね。でも、私も同じです。私の傍には、総司さんがいてくれないと…」

すりっと胸に頭をすりつけて。
甘えるような千鶴の仕草に、先ほどまで不機嫌だった口元は一気に綻んで。

「同じだね」
「同じですね」
「でもそれなら、もうちょっと家事もそこそこに僕の相手してよ」
「早く終わらせて、なるたけ長くいたいって思っているんです」


そんな毎日。

ずっと続くなんて、そんなことは思ってない。


けど、訪れる終わりは、もっともっと…先だと信じていた――









息がしづらい。
胸が苦しい――

「ゴホッ…っグ…は…ケホッ」

肺からの喀血。
鮮血が見る間に白く細くなった手を指先々まで赤で染めていく。
昔散々人の血で染めたこの手を、嘲笑うかのように己の血がそれを塗り替えるように――

「・・・・・・はあ・・・治ま・・・った・・・かな」

肩で息をして、力の入らない両腕に力を込めて。
何とかその血染めされた手を拭き取り、何事もなかったかのようにまた、床に横たわった。

・・・・・千鶴――

勝手場からは、何か作業しているような音が続いている。
ほっと息を吐きながら天井をぼんやり見上げた。


苦しくなって、今まで以上に苦しくて。

だから、傍で繕いものをしながら時折僕を気にして目を向ける千鶴に…
胸をかきむしる前に、心配かけない様に…嘘を吐いた。

「甘いものが…食べたいな」

そう言った僕に、彼女は嬉しそうに目を細めて近寄って。

「食欲、ありますか?それなら私…何か作って…」
「うん…そうだね。何か作って。甘いもの食べたい…金平糖とか」
「総司さんったら。金平糖はさすがに…無理ですよ?」
「わかってる」

ずっと僕の目を見たまま、愛し気に僕の髪を梳いて。

いつからだろう――
僕が千鶴にしていたことを、彼女が僕にする。

自慢になるけど、僕は千鶴のことを大好きで。
大好きだよ―と日ごと、千鶴に繰り返していた睦みを千鶴が今ずっと僕に返してくれる。

同じように、愛しさを込めて――

それに喜びを噛み締めている暇など、病魔は与えてくれない。
喉を灼けつくような違和感が襲って。

ケホっと咳が一つ、たまらず漏れて。

千鶴は梳いていた髪から指を解き、僕の頬に滑らせて一度撫でた後、
じゃあ、作ってきますね、と早々に立ちあがった。

今は、きっと…まだ勝手場で僕の所望の甘いものを作ってる。
でも…それどころじゃなくて、気が気じゃなくて…こっちに神経を向けているのもわかる。

「…指でも…怪我していないといいけど…火傷とか、しそう」

素直に心配させてあげない僕は、ひどいだろうか――

「…まだ、こうして隠そうって思える間は…大丈夫かな」

彼女が、それに付き合ってくれる内は大丈夫だろうか。

うん、大丈夫と思うのは…そう思い込まないと、あっという間に闇に引きずられてしまいそうだから。

喀血の量も、回数も―
やせ衰えた白い体も―
全てが物語ってる。

もう、きっと長くない。
目と鼻の先に迫っている死のにおい。

「・・・・・いやだ――」

今更どれだけ、生に執着したって遅い――
千鶴との時間がもう終わってしまう

強がって張っていた気持ちが、プツリと切れそうになる。
目の前が真っ暗になって、急に音が周りの世界から遮断されたような感覚――

・・・・・・・嫌だ――


――死にたくない――


途切れそうな感情を必死に繋いで、途絶えそうになる意識を集めて。

目に熱を感じた。

・・・・・まだ、生きてる――


ゆっくり目を開けて、自分が生きてるって強く思えた。

千鶴の瞳に映る…冴えない顔の僕――

「・・・っ総司さん――」
「・・・・ごめん、甘いもの食べたいって言っておいて、少し寝てたみたい」
「・・いいんです・・まだお菓子出来てなくて…今、蒸していますから」

お饅頭ですけど、と小さく笑う千鶴の目は…僕と同じように少し潤んでる

「・・・・映ってる僕が、見えなくなる」

千鶴の瞳に映る僕は、僕が生きてる証だ――

「泣いたら、駄目だよ。僕が見えなくなる―」
「――総司さん……はい」

いつも、微笑む彼女がこの時ばかりは下唇をキュッと噛んで。
一生懸命目に浮かぶ涙を拭ってる。

それでもどんどん潤む瞳。

「・・・・・千鶴、おいで――」

もう、上に向かって伸ばすことも億劫なこの体。
それでも伸ばした腕先。
僕がいつもしていたように、
彼女がそうしてくれたように、

抱きしめて、髪を梳いて、そっと撫でて。


今の精一杯の力で、もう一度、抱きしめた。
ちづる、と小さく呟く。

「・・・・・はい、総司さん・・」
「・・・何でもない。…躓いた、だけ」

抱きしめた体が小さく震えた。
うっ…と堪えようとしている泣き声が漏れないように必死に僕の胸に縋る―

そんな愛しい彼女の震えを止めるように…
力を込めたつもりなのに、四肢が逆らうようにぴくりともしない――

「…躓いただけ、なんてひどい、です…抱きしめられて、嬉しいのに――く、口付けを…期待…」

うっく…ひっ…と千鶴の言葉が声にならずに、止まって。
真っ赤になった目で僕を見上げた。

必死になって作った微笑みで、涙まじりの口付けを僕に落として、総司さん―と名前を呼び続ける。

彼女の赤くなって、泣き濡れた瞳に僕はまだ映ってる――

だから、千鶴…

僕は、生きてる――泣かないで――


























ここからは転生SSLです。

お互いに自分には記憶があるけれど、相手には過去の記憶はないと思っています。




















ここまでお読みくださり、ありがとうございました。