「future‼」



後編




「ふ~…なんだか頭がくらくらするけど、昨日のマカロンのせいなのかしら?」

ルルは首を傾げながら玄関ホールまで小走りで向かうと、そこにはルルを待ちかねたように六人が立ってこちらを見ていた。

「・・・あれ?今日はみんないる・・・おはよう!!」

にこっと笑顔でいつも通りに挨拶をすれば、それぞれの心情を表わすようにバラバラに『おはよう』の言葉が紡がれた。
普段と変わらない態度にどういうことだろう?とユリウスが一歩近づいてきて…

「ルル・・・なんとも、ないの?大丈夫?」
「うん!平気!なんだか頭がくらくらするけど・・・」

「頭がくらくらするって…特に誰かを見て、とかじゃなくて?たとえば、俺とか・・・」
「アルバロ…ううん、全く」

「つまり、失敗作…ということか?…よかったじゃないか!ルル!僕は始めからこうなると信じていたぞ!」
「…ノエル、てめー…、顔と言葉は一致してねーぞ?あからさまにガッカリ・・・「ラギ」

ラギの口を制してビラールがし~っと指を象どると、

「残念なのは・・・ノエルだけにハ見えまセンよ?皆同じじゃないデスか?」
にっこり微笑まれて、思わず黙ってしまうのだから、そう認めたようなものである。

「・・・・・とにかく、問題ないのならばそれに越したことはありません。よかったですね、ルル。これに懲りて何でもすぐに口に入れたりは…」
「うん!しないわ!みんな…心配してくれてありがとう!」

・・・いや、心配とは少し違うような・・・・・

そんなことを心に思いつつ、なんだか残念な気持ちも持ちつつ、そのままいつもの日常に戻った。

・・・・・・戻ったつもりだったが……?

時はお昼。
相変わらずユリウスはご飯そっちのけで本を読むのに夢中。
皆が舌鼓を打つスープもみるみる冷えていくのにも気がつかず、本に熱中していると、その本がいきなり取り上げられた。

「えっ!な、何・・・・「ユリウス!見つけた!!」

そこには何故かむっと口を尖らしたルルが。

「ルル?どうかした・・・「どうかしたじゃないわ!ひどい!普通、お昼は一緒に食べるものでしょう?」
「え・・・約束・・・してたかな?ごめんね」
「ううん、別に約束はしていないけど、夫婦なら一緒に食べるものでしょう?」
「うん、そうだね・・・・・え?夫婦??」

何やらいつもとは違う二人の様子に、周りの視線が集まりだす。
その中には当然他のメンバーもいて・・・・

「ずっと授業別々で・・・ようやくお昼を一緒に!って思ったのに、ユリウスは本ばっかり!私と食べたくないの!?」
「そ、そんなことないけど。うん、嬉しいけど、その本の先がつい気になって…っていうか、ルル、ちょっと様子がいつもと違・・・」
「違わない!私はいつもユリウスと二人で食べたいって思ってるのよ?ユリウスは…違うの?」
「・・・・え、俺?俺はもちろん、一緒に食べるのは嬉しいし・・・そうしたいと思う。うん、ルルと食べたい。」
「じゃあ、本読まずに私と食べましょう?・・・・本ばっかり読むの、さみしいよ・・・私も見て?」

最後の言葉はユリウスの腕に掴まって、じっとその瞳を見つめて・・・・

「い、意味がわからない状態だけど、でも、嬉しいから離そうとも思わないんだ、いいのかな…「よくな~い!!ユリウス貴様!!」

べりべりっとユリウスの腕にひっつくルルを無理やり剥がしてキー!と真っ赤になって怒るのはもちろん・・・

「どう見たって様子が違うだろう!?おかしいだろう!!昨日のマカロンのせいに決まっている!!なのにその状況にかこつけて貴様は~!」
「ああ・・・やっぱりそうなのかな、でも…どうしたらいいかわからなくなって・・・つい・・・「情けないやつだな。ルルの気持ちも考えて・・・」

ひたすらにルルを背にかばって、つらつらとユリウスに文句を述べようとしたノエルの背中は、小さい手によって引っ張られた。

「・・・ノエル、そんなに私の気持ちを考えてくれるの?」
「・・・い、いや、別にそういうことではなく・・・たたただ単に放っておけないからであってだな!」
「放っておけないの?それは私を好きだから?」
「!?・・・・ちちち・・・・・・・違う・・・わないけど、いや僕は何を・・・・」
「ありがとうノエル!私も好きよ!」

きゅっと後ろから抱きつかれて、ノエルは真っ赤になり声にならない悲鳴をあげて、ユリウスは「え!ルルは俺のことを好きになったんじゃないの?」とその光景を理解できないらしく、ブツブツ言っている。

「・・・・・ノエルくん、君も十分動揺してるみたいだけど。ルルちゃん、彼にこれは酷だよ、慣れていなさそうだし」
「なっ!!アルバロ!!別に慣れていないわけじゃ~!!「へえ、じゃあ慣れてるの、それは意外だな~・・・ルルちゃん、聞いてた?慣れてるって」
「っ!?いや、ルル違う!誤解だ!!っていつの間に!?」

気がつけば、ルルはアルバロの腕の中。
後ろから抱き締められたその表情は少し恥ずかしそうに見える。

「ねえ、ルルちゃん、もちろん俺のことも好きだよね?」
「うん!アルバロのこと、大好きよ」

その言葉は…マカロンのせい。とは思いつつ・・・・なんだかショックを隠せない二人。

「アルバロ・・・・・・・ルルは俺のお嫁さんみたいだから、君にそんな権利はないと思う」
「ユリウスの嫁ではない!・・・だが、この状況に乗じてそういうことをすることは僕は非常識だと思うが・・・いつまでそうしているんだ!?」
「え?ずっとかな…(黒笑)非常識、うん、いいね。いくらでも言ってくれて構わないよ。ルルちゃん、俺と遊びに行こうか・・・なんなら・・・いっそ二人で逃げちゃう?」
「うん、いいよ・・・「アルバロ、からかうのはそれくらいにした方がイイと思いマスよ?」

おろおろしながら見ていた学生組二人とは違って、すっとアルバロから自然にルルを奪還したビラール。
何故だか二人の間に冷たい火花が飛び散っているように見える。

「ルル、大丈夫デスか?頭はもう平気デスか?」
「ビラール・・・・・・うん、大丈夫、ありがとう。でもなんだか頭がふわふわするの」
「そうなんデショウね・・・大丈夫デス。とっておきの魔法を・・・ハイ」
「?これ・・・なんだかいい香りがする・・・なあに?」
「香水デス。頭がすっきりしマスよ?あなたに渡そうと思って探していマシた」

・・・・・・どことなく、ルルの様子が普段と似ていて、薬の効果なしにビラールのことを好きなように見えて…
苛つ気持ちが倍増する気がするのは…気のせいではないだろう。
その場に居合わせたユリウス、ノエル、アルバロはもちろん、実はこそっと様子を覗っていたラギとエストも気が気ではなく…

「ラギ、止めなくていいのですか?なんだかどんどんまずい雰囲気になっているようですが」
「何でオレにっ!?・・・てめーが止めりゃいいじゃねーか!・・・きっとオレよりうまく止められんだろ!?」

そうこう会話しているうちにも・・・・

「うん!頭がすっとする気がする・・・ありがとうビラール」

・・・・・・・・・!!!!!!!!!・・・・・・・・・

見守っていた者は皆立ち尽くして呆然とする。
ルルが、あの、ルルが、自分から・・・ビラールにありがとうと言いながら…そっと頭を引き寄せて、御礼のキス・・・・・・ほっぺだけど・・・でも、それでも・・・・・・

「てめー!!!ビラール!!!!何そのまま受けてんだよ!!」
「ラギ、見ていたのデスか?ハイ、とても嬉しいデ・・・「嬉しいじゃねー!!ルル!!おまえもおまえだ!!そんなこと・・・簡単にすんな!!」
「・・・・・・そんなことって・・・何?」
「だっだから・・・・その・・・・・御礼の・・・・・」
「御礼を言うのはいけないことなの?」

きょとん、とした瞳をラギにじっと向けるルルに、ラギは真っ赤になりながら言葉を探す。

「御礼はいーんだよ!違くて…だ、だからそのほっぺに・・・・・」
「簡単にキスしたらダメだよ?って言いたいんだよね、ラギ君は」
「アルバロ!さらっと言うな!!」

何故かはわからないけれど、ビラール以外は皆厳しい表情をしている。
ルルは頭に霞がずっとかかったような状態で、それでも、何か悪いことをしたのか、とそんなことを考えて。

「・・・・いけないことだったの?ごめんね?ビラール・・・・・」
「いえ、ワタシはとっても嬉しいデスよ?嬉しいことだから、皆さん怒っているのデス」
「・・・・・?よくわからないわ?」

首を傾げるルルに、ラギは、はあっと溜息をつくと、ルルの口に甘い、小さな焼き菓子を放りこんだ。

「あっ甘い~!美味しい!」
「・・・もういいから、早く座って、落ち着いて飯を食え。オレだってまだ食いたいんだ」
「このお菓子はどうしたの?」
「・・・ランチについてるんだよ、・・・別におまえにあげよーとか思ってとっておいた訳じゃねーからな!!」

・・・・・・・・とっておいたんだ・・・・・・・
一同が視線をラギに集中させる中、ルルはぱっと顔を明るくした。

「ありがとうラギ、だ~い好き!」

伸ばした腕はラギをしっかり抱き締めて、唇に軽く触れるようなキス。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Σ※ΨδΠ☆!!

声にならない声をあげて、ラギが変身したと同時に、「レーナ・アンブラー」と声が響く。

一転辺りが真っ暗になる。
アルバロが急いで「レーナ・ルーメン」とその場に光を灯したものの・・・・

「・・・・・・・いない、エストくんにやられたね」
「確かに、我慢できない光景でシタからね・・・」

ちらっとラギに向ける視線は、皆どれも冷たい。
ラギはそれどころじゃなく、失神しているように動いていないけど・・・

「・・・・とりあえず、ルルを探さなきゃ。心配だし、俺のお嫁さんだし」
「まだ言うか!貴様!違うと言っているだろう!?」
「でも、夫婦ってはっきり言ったのはルルだよ、そう言ったのは俺だけにだよね?どうしてだろう。何か意味があるのかな、あったらいいな。うん、きっとある」
「・・・・・残念だけど、ないと思うよ?とにかく、探すのは賛成かな。エストくんに一人占めは嬉しくないしね」
「そうデスね、探しますか」

皆が(ドラゴン除く)ルルを探しに食堂を出た頃、エストとルルは湖のほとりにいた。

「・・・だから解毒の方法を・・・と言ったのに。やはり何が何でも探すべきでした」
「解毒?何の?」
「いえ・・・・もう戻られた方がいいですよ。ルル、今日はもう寮を出ないようにしてください」
「どうして?エストともっといたいな」

柔らかな微笑みは、まるでルルが本当にそう望んでいるように見えて。
他の人を責められない。自分でも、少し動揺して言葉が詰まるのに。

「あなたは…問題ばかり起こして、僕の周りを騒がしくして・・・これ以上迷惑をかけないでください」
「・・・・・迷惑だった?私、迷惑なの?」

綺麗な瞳が潤んでくる。瞬きしたら零れ落ちそうな雫。

「・・・迷惑です。あなただと、どうしても放っておけなくて、助けてしまうから・・・」
「それなら、ここにいてもいいよね?エストが助けてくれるんでしょう?」
「・・・だから・・・・はあ、もういいです。・・・そうします」
「ありがとう、エスト大好き・・・「!?だ、だから、そういうことをしてはいけないと、ラギにも言われていたでしょう!?」
「…は~い」
「もっと真面目に反省してください、ルル」
「は~い!」

おずおずと近づいて、エストの方に頭をもたれて、そっとエストの表情を覗えば…目のふちを赤く彩って。
微笑みあう二人のもとに、騒乱が起きるのはあと少し・・・・・・・・・・




「何をしている愚妹。生徒の様子を覗くとは・・・教師の風上にも置けない奴じゃな」
「あら、愚兄とは違って、放っておけないので・・・様子を見てあげているのですわ」
「・・・・・相変わらず口の減らない奴・・・・」
「・・・・そちらこそ・・・」

バチバチっとなる火花を、エストの珍しい微笑みが消していく。

「あらあら…ルルもなかなか・・・」
「・・・・・ところで、あれは失敗作だったのだろう?どうしてああなる?」
「どうやら、全く関心のない人には反応を出さず、好意を抱くものにはああなるみたいですわね」
「・・・・・・ならば・・・全員か?・・・・男たちも哀れな・・・」
「あら、それだけあの子たちがルルに気持ちを向けている証ですわ?」

やはり愚兄にはわからないでしょうね…と笑うヴァニアに、イヴァンは呆れた視線を返すのであった。






END





あれ?エスルルオチですか?はい・・・そう言えなくもないような…(笑)
この後、きっと・・・またバトルが・・・そのうち魔法発動しまくっていそうです^/^

平等に平等に~と心掛けたつもりですが…ワンド全員好きだし。
だけど一部のキャラにやっぱり偏りあります…ね?(汗)
学生組二人…もっといちゃいちゃさせてあげたかったです。
続き!!書く時あれば・・・学生組贔屓したい気も・・・・とか言いつつ、きっとラギとか、アルバロとか、エストとか・・・(笑)

ここまで読んで頂きありがとうございました!!