いい夫婦(11/22)の日




三国恋戦記



仲謀&花



SS&漫画です。
仲花ですが、師匠も出番が多いです。
というか師匠が花を大事にしています…
でも仲花です!

SSは漫画の続きのお話ですので、
漫画を読んだ後にSSを読んでくださると、よりわかりやすいかと思います。




















SS





「それで…仲謀様はもうお行かれに…?」
「ふぉふぉふぉ…それはもう…花殿から離れまいと必死でいらしたようでした」

子敬の言葉に、思わず公瑾も苦笑いを漏らした。

「それでは、あの孔明殿の計算通り…ですね。仲謀様はわかっていらっしゃるのかいらっしゃらないのか…」
「まあ結果一緒にご出立なさったのですから、よしとしましょう」

ふぉふぉふぉ…と相槌を打つ子敬に軽くそうですね、と頷きながら、
公瑾は当主のいない孫呉を機能させるべく執務室にと向かったのだった。


一方その頃――


「尚香さんっ」
「花さんっお久しぶりです!お変わりないですか?」

ニコニコ手を取り合って、女同士の会話に花を咲かせようとしていた花と尚香。
そしてそれを微笑ましそうに見つめる玄徳と…

「これはこれは仲謀殿。遠路はるばるお越こし頂きまして…」
「視察というならば、俺がいなくては話しにならないだろう。花一人では心許ないと思ってしたことだが、余計な事だったか」
「いえ、そんなことは…」

ふふふ…と不穏な笑みを浮かべ合う仲謀と孔明である。


「仲謀、私今から尚香さんと…ってまだそんな変な顔してるの?」
「…っへ!?変な顔って何だ!お前言うに事欠いて!」
「だってぶす〜っとして…そんなにお仕事気になるなら、無理しなくてもよかったんだよ?」
「…別に、無理はしてない」

花以外は仲謀の不機嫌面の理由を何となく理解している(孔明はもちろん理解している)のが、中々に面白い光景を演出している。

「まあまあ、殿方には殿方のお話があるでしょうし…私たちは先に戻りましょうか。芙蓉姫が手料理をふるまってくれるそうですよ」
「芙蓉姫が!わあ〜…もしかして…雲長さんも作って…」
「まあ、よくご存じですね。そうおっしゃっていました。私も楽しみで…」
「雲長さんの作るお菓子が美味しくて…どこか懐かしい味付けなんですよね。私も楽しみですっ」

わ〜…っと瞬く間に二人で戻るのを、仲謀はあんぐり眺めていた。

おい…俺様の事は無視か!
尚香のどこが、あれで元気がないんだ!
大体…雲長の作るお菓子の話なんて、俺は聞いたことないぞ、花。

いくらでも心の中で文句が湧いてくる。
半ば無理やり付いて来る形だったこの視察(という名目の旅)も、舟に揺られてここに来るまでの間は…

久しぶりにのんびりと出来て。
しかも花と。
国に閉じこもり状態だった為か、解放感もあって。

こういう時間をようやく過ごせたと喜んでいたのに…


「仲謀殿。我々もひとまず邸内へ…」
「・・あ、ああ。そうさせてもらう」

玄徳の案内にひとまず従って、仲謀も後をついて行ったのだが。


『視察』というのが本当にただの名目だと実感する。

・・・・おい、花。いつまで俺を放ってる――

…?何だあいつ、花に慣れ慣れしい…(翼徳)
料理が褒められるのがそんなに嬉しいのか!(雲長)
そんなぼーっと立ってる奴に気がつくくらいなら、まず、俺様を気にしろ!(子龍)
というか、お前は俺の傍で接待しなきゃいけないだろうが!!(玄徳)

イライラと視線をとがらせる仲謀に、孔明がゆったりと笑いかけた。

「仲謀殿。婚礼時期は…まだ日程の方は立ってはいないのでしょうか」
「いや、まだだ。…まだ同盟がなったとはいえ、治安は不安定。…おまけに――」
「河北の孟徳が動こうとしている」
「――――」

孔明の真剣な差し迫った声に、思わず言葉をのんだ。

「具体的にどうということではない、ですがこちらの動きを見定めるような監視がキツくなってきているように思います」
「・・・そうだ」
「婚礼の細やかなことを花と決めていく時間が、中々取れないのでは…?」

それは否定できない。
すぐにでも、と思ってはいたけれど。
花に一番幸せにしてやると言った。
それを違えたくないからこそ、目を瞑れないことがある。

「…花が、まだ、こちらにいた頃、こんな話を聞いたことがあります」

孔明がぼんやり花の姿を目に止めながら、言葉を続ける。

「ある兵士の婚礼が執り行われていました。ささやかなものでしたが、それを見た花が…」

『…師匠、あれって…結婚式ですよね?えっと、二人の婚姻の…』
『うん?…ああ、そうだね』
『新婚旅行とかって、あるんですか?ないのかな?』
『旅行?』
『はい、婚姻を結んだ二人が、二人で旅行に行くんですけど』
『へえ、それってどういう意味があるの?』
『・・・えっ?・・・ええとただ結婚したばかりの甘い二人が一緒に旅行行って…』
『・・・どうして赤くなるのかな、花?』
『〜〜何でもないですっ』


「旅行…」

楽しそうに、昔共に時間を過ごした仲間と話に弾んでいる様子の花を見ながら、仲謀がぽつっと呟くと、花がこちらを一度向いた。
皆が気づかない程度に小さく手を振って、微かに頬を赤らめた。

そんなことで、心がホッとすると同時に。
ああまた、そういう顔を外でするな、とも思う。

「花は感情に素直な者ですから、その時の一種の羨望のような表情が忘れられず…」

孔明は話を続けながら、一度俯き、その後顔を和らげた。

「仲謀殿と、呉に――元の世界には戻らないと決めた我が弟子が、そういえばそんな事を―と先日思い立ちまして」

それで、こうした次第です。と締めた言葉と共に、いつもの表情に戻る。

「それは、・・・花は知っているのか?」
「いえ、私が勝手にした事です。差し出がましい事だとは思いましたが――」

これから、河北との状況はよくなるとは思えない。
呉との同盟だって、永久的なものではないかもしれない。
それを望んでいたとて、ある日突然壊されることだって、この世界にはあり得ることなのだ――

まだ、穏やかな時間の流れにいる今のうちに―

そう思って書簡を出した孔明の気持ちが仲謀に伝わった。
そうならないようにするのが自分の務めでもあるが、こんな二人で旅行などという時間は本当にこうでもしなければ取れなかっただろう。

「…礼を言う。ここに来る道中の時間は代えがたいものだったからな」
「そう言って頂けると…それにしても仲謀殿」

孔明が一転、からかうような微笑みを湛えて仲謀を覗った。

「道中、だけなのでしょうか。今はそうではないと…?」
「なっ…!」

だって、どうしてみたって玄徳軍の者に花が独占されていては面白くはない。
そんな気持ちがつい出たのだろうか。
にしても、そういうところをわざわざ突っついてくる辺り…

「お前、公瑾と似ているところがあるな」
「それはそれは、褒め言葉と取っておきましょう…あ、我が当主がこちらに参ったようなので、私はこれにて…」
「…っておい、お前まで花のところに行く気じゃ…っ」

礼儀正しく一礼した孔明の背中は、花の許に真っ直ぐ向かって――やっぱり花の傍に座ってしまった。

「・・・・・・・」
「仲謀殿、まあそう難しい顔をなさらず――」
「そんな顔、俺はしてない!!」





***




「…またさみしくなるな。孔明もそう思うだろう?」
「いえ、私は…花も、この世界で幸せに生きているようなので――」

遠く、呉に向かった舟はもう見えはしない。
それでも、川辺を去る気にはなれず、玄徳と孔明は何とはなしにその場に佇んでいた。

「…また、会える機会があるといいんだが」
「では、それを可能にする為に、玄徳様には一層のご活躍を期待しなければなりませんね」
「俺が活躍するためには、おまえの策が一層必要になるな」

朝霧が優しく残された者を包んで。
彼の地に生きる少女の名残を思わせるように――







「・・・・・花、新婚旅行とやらはどうだった」
「・・・・・っ!?新婚旅行?何で知ってるの?」
「俺はお前の事なら、何だって知ってるんだよ」

こつっと額を小突かれた後、まだ肌寒い風から守るように花を自分に引き寄せた。

「・・・・でも、これ新婚旅行じゃないでしょう?」
「はあ?」
「だって、まだ婚姻を結んでもいないし…」
「・・・・それはつまりあれか?新婚旅行とやらは、もう一度婚礼の儀をなした後に改めて行きたい。と…そういう事か」

そんな深読みしなくていいのっと、
もう見えなくなった劉備達が立つ岸辺をじっと見ていた花が、そうだ、と仲謀を見上げた。

「婚礼の儀って…前に玄徳さんとした時のみたいなのを…するの?」
「おい、その言い方止めろ!お前が玄徳としたみたいじゃないか」
「振りでね」
「振りでもごめんだ」

ムっと顔を顰めた後、仲謀はにっと唇を引き上げた。

「あれとは比べ物にならないくらいのものに、してやる」
「ええっ!?いいよ!そんなの!」
「俺がよくない。三国一の花嫁にしなきゃ気が済まないしな」
「・・・・・なれないよ、そんなのっ」

またすごいこと言ってる、と花が困惑した表情を浮かべるけれど――

「…まあ、着飾らなくても、お前は十分…だけどな」
「・・・・・・・・」
「俺様が見たいんだ。文句あるか」
「・・・・・な、ないよ・・・私も仲謀の・・・見たいしね」

照れ合った表情が、霧が晴れてしっかり見えるようになってお互い恥ずかしい。

「それと、旅行も絶対行くからな」
「・・無理しないで、仲謀」
「無理じゃない。俺様を誰だと思ってるんだ」

孔明が花を呼び寄せたのは、確かに旅行のことがあるからだろう。
だけど、もうひとつ――

この先、揚州も守って、孟徳を近寄せず―
旅行の時間を俺が作れるのかという宣戦布告だとも思う―

出来るものならしてみろ。
花を幸せにすると言うのなら…それくらいしてみせろ―

そう焚きつけられた気がする――


「…必ず、連れて行く」
「・・・・仲謀・・」
「でもその時は、行先は玄徳のところじゃねえからな!俺様がもっと、いいところを探しておく」

朝焼けが二人を照らす中、仲謀が自信満々に花をみやって、いいな、と確認するように。
花も思わず、うんと頷いて。


陽光に誓うように重なった二人の影










END











ギャグなんだか、真面目なんだか…
どっちも好きなんですけど。

仲花ですが、花に里帰り(蜀帰り?)させたいと思い、こんなお話。
師匠は花のことがとっても大切なので、
離れていても、絶対ずっと、幸せであるようにと…考えてくれているだろうなと。

そんな師匠の思いを受けつつ、また一歩階段上がる仲謀さん。


この仲謀EDだと、蜀と呉の同盟はずっと続くって信じてしまいますね。


ここまでお読みくださりありがとうございました。