「でも、私も癒されてみたいな…」



・・・やっぱり沖田さんかな?風邪気味って・・・こじらせたら大変だし。
大人しく寝てそうにないし。よし!

決めて足を踏み出そうとすれば、なんだかくらっとする。
ここ数日私もちょっと寝不足で、すること多くて・・・
ちゃんとお世話が出来るのかなって急に不安が押し寄せて来るけど、ブンブンと頭を横に振って頬をパンと叩いて。
うん、大丈夫!と皆が集まる部屋に入った。

「あれ、千鶴ちゃん、休憩?」
「いえ、そういうのじゃなくって・・・・沖田さん風邪気味なんでしょう?休まれた方が・・・」
「ああ、聞いてたの」

でも少しだるいくらいだし、大丈夫だよ、と千鶴が気にしたのが嬉しいのか笑顔で返事をする総司に、

「いえ、風邪を甘くみてはいけません。私に看病させてください!」
「・・・・・・・・・いいけど「駄目だ!!」

総司の肯定の言葉に否定の言葉を被せてきたのは斎藤だった。

「千鶴、総司のは大袈裟に言っているだけだ。見てみろ、健康そのものだろう?」
「何気にひどいよね、斎藤君」
「いや、当たっているだろ?千鶴、総司の言葉は鵜呑みにしたらダメだぞ?」
「左之さん・・・・何これ、何の牽制?」
「当たり前だろ?千鶴と総司を二人きりなんて・・・無理!何されるかわかんないぞ!千鶴!!」
「・・・・・・・・・嫌だな、そんなことするわけないじゃない」

(((嘘だ・・・・・・・・)))

その黒い笑みを見て、千鶴以外の誰もがそう思った。
いや、千鶴も少し不安になったけれど、でも…だるいという言葉は本当のようで、動きがいつもより鈍い気がする。

「あの・・・実は近藤さんに頼まれてて・・・疲れている者を妻として一日支えてほしいって・・・」
「近藤さんが?」

(((妻として…?なんでだ??というか・・・それだと・・・・)))

「千鶴、おまえもしかして、一日総司の妻として・・・看病する気か?」
「はい・・・「な、何言ってんだよ!!おまえどんだけ危険かわからないの!?」
「千鶴・・・・・もっと自分を大切に・・・・」
「失礼な」

よってたかってこの言い草は何だ・・・・・
総司はむっとした表情を漂わせると、そのまま部屋を出る。

「あっ沖田さん・・・「来なくていいよ、別に疲れていないし」

振り向かずに手をひらひらと振って、そのまま歩いて行く総司を追いかけようとした千鶴を、三人ががっしり止める。

「珍しいな・・・総司があんなにあっさり引くなんて・・・?」
「そうだよな~・・・ひょっとして怒ったのかなあ・・・」
「本当のことを言ったまでだ。気にすることはない。千鶴、おまえも気にするな」
「はあ・・・・・・」

・・・そう言われても、やっぱり元気がない気がしたし、なんとなくだけど、さみしそうだった気がする。

「・・・・じゃあ、私部屋に戻りますね」

ぺこっと頭を下げて部屋を出れば、向かう先は総司の部屋に向かって足が進む。

「・・・・沖田さん、いないんですか?・・・・入りますよ??・・・・・・・入り、ましたよ?」

そっと開ければ、部屋の主はおらず、シンとした静寂が千鶴を包む。
・・・・・・・どこか、出かけたのかな。
なんだかシュンとなる気持ちを押しとどめて、千鶴は自室へと戻ったのだけど・・・・・・

部屋に入った瞬間、「おかえり~」と声がかかる。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「お、沖田さん!どうしてここに!?」
「し~・・・・・だって、あそこでお願いって言ったら、絶対あの三人覗きに来たり、邪魔しに来たり・・・鬱陶しいのわかってるから」
「それであんな・・・・・・・・」

うまくいった、と満足気な総司の表情に、千鶴もつられて笑ってしまった。

「おかえり千鶴ちゃん。ご飯にする?お風呂にする?それとも僕?」
「・・・・・・・・・あの・・・・それは私の言葉じゃ・・・・っていうか最後の、意味わかりません!」
「そう、僕がいいの。奇遇だね~僕もそれがいいなって思って・・・「言ってませんし、思ってません!!」

ごろごろと、甘えるように体を寄せてくる総司を、なんとか突き放すと、千鶴は真っ赤になりながら、もう!と言葉を続ける。

「だから・・・皆さんにあんなこと言われるんですよ・・・」
「別にいいよ。僕は自分の気持ちに正直に生きたいし」
「正直って・・・・・・あれが・・・・・・・」
「うん。あれが、ね」

にこっと笑って指を絡ませてくる総司に、その絡ませ方が不思議と嫌じゃなくて、なんだかほっとする。

「・・・・・今日は、私が沖田さんの看病をする日ですから・・・沖田さん休みましょう?」
「じゃあ、ここで寝る」
「・・・・・自分の部屋で「ここで寝る。近藤さんのお墨付きだし。ここの方が・・・邪魔されそうにないし」

・・・まあ、熱はないようだし、ここで休ませてもいいかな・・・とそんな気にさせる総司の声。
仕方ない、と千鶴が布団を敷けば、そのまま総司は大人しく布団に入って目を瞑った。

おかゆでも作ろうかな?食べるかな…
そんなことを考えて、立ち上がろうとした千鶴の手は気がつけば、先ほどと同じように指を絡めてきてしっかりと繫れている。

「沖田さん、おかゆでも作ってきますから・・・「いらない」

きゅっと手を繫ぎ直して強く握ると、「傍にいてくれたらいい」
ひょこっと顔を出して、上目遣いでじっとこちらを見上げて来る総司に、自然に頬が染まってしまう。

「ねえ、眠ってほしいよね?」
「はい」
「じゃあ、子守唄・・・「歌うんですか!?」
「じゃなくて、子守唄代わりに…僕の好きなところ百個言って」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・百?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「え・・今百って言いました?聞き間違い?」
「百。言ってよ」
「えええ!?だってそんなに・・・「ない、とか言わないよねえ?」
「・・・・・・・・・はい(沖田さん、手が、痛いです。目が、怖いです)」

じっと何か期待に満ちた瞳で千鶴の言葉を待つ総司に、千鶴はうっと言葉が詰まる。

「沖田さん、眠る気あるんですか?目は瞑っていてください」
「ああ、そうだね、はい。じゃあ言ってね?」

すっと目を瞑る総司に、ちょっとだけ安心して、千鶴は恥ずかしいけど、思いつくままに言葉にしていく。

「からかうところ「それ、好きなところなの・・?」
「あっ・・・・本当は、優しいところ」「・・・・・・・」
「本当は、情が深いところ」「・・・・・」
「本当は・・・「ねえ、本当はって多くない?」

だって、最初に思いつくのが意地悪なところばっかりだから・・・とつい口にして、慌てて口を閉ざす。
なんだか不機嫌そうに見える・・・・・い、いけない、いけない!

「近藤さんが好きなところ」
「近藤さんの真似こっそりしてるところ」
「・・・土方さんとは実は仲がいいとこ「よくない」

「~~~沖田さんさっきから反論多いです!」
「千鶴ちゃんこそ、もっと真面目に言ってよ、もっと僕が嬉しくなるようなこと言えないの?」

だから、意地悪なところばかり思いつくから!!
心の声をぐっと押しとどめて、千鶴は総司が反論出来ないように一生懸命、好きなところをあげていく。

「九十九個・・・あと一つ・・・・」

繫れた手はそのままに、総司はずっと瞼を閉じていて、すーっと穏やかな寝息も聞こえる。
その寝顔を見ていると、つい、手が伸びていた。

「百個目、寝顔が・・・かわいいところ」

そっと空いている手で総司の髪を梳くと、パチっと総司の目が・・・・開いた・・・・・・

「・・・・・・っ!!!!お、起きていたんですか!?」
「うん・・・・・・だって嬉しいし、余計眠れない・・・・・」
「お、沖田さんが子守唄代わりに!!って・・・うう~~~/////」
「・・・・・・・ねえ、じゃあさ、今度は僕の番」
「はい?」

千鶴を腕ごと引き寄せて、自分の胸に閉じ込めると、総司は千鶴の髪を、千鶴が自分にしてくれたようにそっと梳いた。

「千鶴ちゃんも最近何か疲れていたし・・・僕が今度は子守唄・・?してあげる」
「・・・・・・え・・・・・」
「今日くらい、休みなよ。じゃあ、目を瞑ってね?子守唄・・・一つ目、かわいいところ」

抱き締めて、耳のすぐ傍で聶くように一つ一つ好きなところをあげていってくれる。
そんなところも見ていてくれたの?と胸が締め付けられるような答えもあって・・・・
優しい声は、胸を温かく満たしてくれる・・・

きゅっと背中を掴めば、千鶴の背中をゆっくり撫でて返してくれる。

・・・勿体ない。全部覚えておきたいのに・・・・・・・沖田さんの言葉、全部覚えておきたいのに。
嬉しくて、嬉しくて、全く眠りは訪れることなく。

「九十九個目、子守唄を・・・恥ずかしそうに赤くなりながら聞いてくれるところ」

そこで初めて千鶴の顎にそっと手を置いて、千鶴を自分に向かせる。
その頬は真っ赤になっていて、自分だけを見つめていてくれる。それがとても嬉しい・・・

「百個目、・・・・・・・・全部、君の全部が好き」

紡がれた言葉と共に降り注ぐ唇。
熱く感じるのは、一時の熱のせいじゃない。それはずっと・・・続くもの。

この子守唄をまた歌うのは、ずっと先。

それまでの年月に、一つ一つ増えてく子守唄。
いつか、惜しみなくあなたに捧げましょう。




END