「主導権握らせていただきます!」




・・・・・・・やっぱり。それでも一番疲れているのは土方さんよね?
その部屋に集まる四人に気づかれないように、千鶴はそっと土方の部屋へと向かった。

「失礼します。千鶴です、入ってもよろしいでしょうか??」
「ああ」

そっと中に入ると、少し訝しんでこちらにちらっと視線を向けた。

「なんだ?俺はおまえを呼んだ覚えはないが・・・」
「はい・・・・私が用があって・・・・」
「俺に?」

ますます、わからない、と眉を寄せる土方に千鶴ははい、と頷くと、正座をして、膝の前で手を合わせる。

「はい、今日一日・・・土方さんの妻となって支えさせてください」
「・・・・・・・は?・・・・・・・・」
「土方さん、お疲れになっているでしょう?少しでも瘉せたら…と思って」
「必要ない。おまえ何考えてんだ?」

呆れたような視線を寄こしてくる土方の反応は、まあ、予想できたものだった。
千鶴は動揺せずに言葉を続けた。

「土方さんに、拒否権はないんです。近藤さんから頼まれているので」

にっこり微笑みながら言う千鶴に、土方は、なっ…と一瞬驚いた表情を浮かべる。

「ということで・・・少し休みましょう?ご飯にします?それともお風呂にしますか?」

いつもの千鶴とはちょっと違う雰囲気に、土方は戸惑うも、なんとか言葉を返そうと口を開く。

「・・・・・・そんな暇はない。あとで勝手にする。今はこの仕事が先だ。それに・・・・・・・」
「別に嫁になる必要なんざねえだろ?おまえはいつも通りでいりゃいいんだよ」

はあ、と溜息をつきながら前を向く土方に、千鶴は目を丸くする。

「それって・・・いつも私といると、土方さん安らいでいてくれているってことでしょうか?」
「・・・・・・・・・なっ!!」
「だって、いつも通りでいればいいって…嬉しいです」
「~~~~おまえ・・・邪魔したいのか」

そんなつもりないですよ、と口を尖らせて、そうだ!とぱっと顔を嬉しそうに笑顔にして。

・・・・・・ころころ顔の変わるやつだな、相変わらず・・・と、土方がつい見て和んでしまうのは仕方ない。

「ここに、ご飯持ってきます」
「いいって言ってんだろうが」
「いえ、近藤さんに頼まれてますし・・・それに土方さんは根を詰めすぎです!ご飯、・・・食べますよね?」

ぐぐっと顔を近づけて、覗いてくる千鶴に、思わず無言で頷いてしまった。
しまった、と思ったのも後の始末。千鶴は嬉しそうに勝手場に行ってしまった・・・


・・・・・・・・これはどういう状況だ?近藤さん・・・あんた何吹き込んだんだよ・・・?

「土方さん、美味しいですか?」
「・・・・・・・ああ」
「?手が止まってますよ?頑張って仕事終わらせて…休みましょうね」
「わかってんだよ、やってるだろうが!!!大体…「はい、あ~ん」

・・・・・・・モグモグ・・・・・・・・

「美味しいでしょう?食べたら元気になりますよ」
「・・・・・何か苦い気が・・・・・」
「良薬口に苦しです」
「・・・・・薬が・・・入ってんのか??」
「はい。万能薬って・・・石田散薬です」

ブッっと食べた物を噴き出しそうになる。

「なな・・・おまえ!わざとか!?嫌がらせか!?」
「え・・・どうしてそんな・・・・土方さんを心配して作ったんですよ?」
「ど~せ、総司とかに吹き込まれたんだろうが!!」
「いえ、斎藤さんです。」

・・・・・・・し~~~ん・・・・・・

「土方さん疲れているから、精の付くものを…って話をしたんです。そしたら斎藤さんが・・・これは万能だからって・・・」
「・・・・・・そうか、斎藤が・・・・なら、悪意はねえな・・・・」

ううっと困りながら何とか飲み込むと、すかさず千鶴がはい、とお茶を差しだしてきた。

「・・・・・おまえ、よくわかるな」
「・・・何となく、ですけど、こうしてほしいかな?って・・・だから・・・・・・」

ふふっと微笑む千鶴に、何だよ、と土方は気まずそうに視線を向ける。

「土方さんが、本当は嫌がってなくて、嬉しいと思ってくれているのも・・・わかります」
「・・・・・・・・/////お、おまえ・・・・・」
「私だって、本気で嫌がられたら・・・こんなことしません。次は、これ、どうぞ?はい」

お箸でおかずをつまみ、手で添えながら土方に差し出してくる千鶴を見ながら、本当にさっきまで終わりそうにない仕事に苛々していた気持ちが和んでいるのをヒシヒシと感じる。

土方は千鶴の差し出す手を、そっと握るとそのおかずを皿に置く。

「・・・・・・・あれ?違いました?」

おかしいな?と首を傾げる千鶴に、土方は、隊士が見たらきっと驚くであろう優しい笑顔を見せて。

「合ってるけど・・・違う」
「?それ、どういう意味・・・・」

言いかける千鶴の言葉を紡ぐ唇を、そっと優しく塞いで、驚く千鶴にもう一度。

「・・・・・・・・・・・え?え、・・・・??あ、あのっ//////」
「欲しいおかずは合ってるがな?それ以上に・・・これが欲しくなった」

そっと艶めく千鶴の唇に自分のものを合わせる。


この日が二人の変化の始まりの日。
それから、距離が近づくまでいろいろあるけれど・・・それを乗り越えて。

これが将来、日常のことになるのは・・・まだ誰にもわかっていないお話♥




END