真菜様リクエスト




薄桜鬼:沖千SS
※真菜様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『甘え猫』




「千鶴〜!一緒にこれ食べよ、う…」

千鶴がきっと喜んでくれるだろうと、平助は屯所に戻り一目散に千鶴の部屋に向かっていた。
行儀は悪いがそのまま、呼びかけながら千鶴の部屋を開けてしまえば…

予想していた可愛い顔と向き合うことはなく、何故か、かわいくない男の不機嫌そうに細められた目と目が合ってしまった。

「・・・何、うるさいな」
「わ、悪い・・総司の部屋だった・・・ってんな訳ないだろ!!何千鶴の部屋に居座ってんだよ」

危うく納得しかけ部屋を出ようと一歩下がらせた足を平助は戻した。
さりげなく、お菓子の包みは後ろ手に隠したのだが…そういうことには聡いのか、何なく見つかったようで。

「…お菓子で餌付け?ふうん」
「な、何だよっ!別にそんなつもりじゃ…(いや、当たらずも遠からずだけど…)」
「いいんじゃない。千鶴ちゃん今お茶淹れに行ったし」
「別に総司に言われなくたって…ってか、何でここにいるんだよ」

先ほどから総司の詰問する目はずっと細められたままで、威嚇されている様だった。
言葉ほど、態度は全く優しいものではなく。
主不在の部屋で何故ここまで居辛さを感じてしまうのか…

「何でここにって喉が渇いたから。お茶淹れてって頼んだだけ」
「…千鶴は別に総司の小姓でも何でもないだろう?」

部屋の中を見れば、一目瞭然で千鶴が何か繕い物の途中だったのがわかる。
総司に何かとこき使われているのではないだろうか・・可哀想に・・・
平助がそう思って、千鶴がいるだろう勝手場の方向の廊下の先へ目を向けると、お茶を運んでくる千鶴、とおまけも…

「あ、千鶴」
「戻って来た?」
「おう、でも一君と、左之さんもいる」
「・・・・・・暇だね、みんな」

いや、それを言うなら総司もだろう!と・・言いそうになった口はすぐに閉じた。

な、何かこいつ不機嫌だよな!?

虫の居所が悪いらしい総司にはこれ以上触れない方がいい。
平助は、こちらに気が付いた千鶴にお菓子の包みを見せるように手を振った。
千鶴は、見たかった笑顔を向けてくれたのだが…

「今日はお菓子がたくさんですね!すごく豪華です…一日で食べるのはもったいない気が…」
「いいんだって!みんな自分の金で買ってんだし!なあ!」
「そうそう、気に済んなよ?今日は千鶴も外に出れずに籠りっきりだしよ…気分転換にはいいだろ」
「気にすることはない。千鶴はよくやっている。たまにはこういう日があっても責める者はいない」

千鶴の部屋に集まって皆がお菓子を持ち寄って。
ちょっとした茶会のようである。
千鶴は五人分のお茶を丸く並べて、後ろに寝転がって、じ〜っと様子を見ているだけの総司に振り返った。

「沖田さん、お茶ですよ?あとお菓子も・・・一緒に・・・」
「お茶いらない。遅い。もう喉渇いてない」
「え、ええと…すみません。皆さんの分も淹れていたので…」

いや、千鶴。そこは謝るところじゃないだろう。
大体、喉が渇いていたのに、何も補給せずに潤うはずがない。
総司のわけのわからない言葉に謝る千鶴に、皆が放っておけ、と口を挟もうとしたが・・

「…あの…沖田さん、全員分、いつものです。だから・・・」
「いつもの?さっきのじゃなくて・・?」
「はい」

千鶴には総司の不機嫌な様子が理解できたのか、返した言葉に、総司も見てわかるほど不機嫌が直り出している。

「じゃあ飲む」
「はい、どうぞ」
「なあなあ、それってどういう意味?」

聞いてもいいのかわからずに思慮する斎藤と左之とは違って、素直に尋ねてくれる平助に二人は感謝していた。

「あ、沖田さんが茶葉を買って来てくれて…一緒に飲もうって」
「・・なるほど。それで俺達にもその茶を淹れたと思い、あの態度、か・・・くだらん」
「ちょっと、斎藤君」
「で、千鶴がちゃんとそれを取っておいて、淹れてないから機嫌直した、と…ガキだなおまえ…」
「うるさい、左之さん」

内心、左之は感心していた。
総司が買った茶を出せば不機嫌になるのを…千鶴はちゃんと見越していた、ということだろうか。

「俺達が買った菓子は食べるんだろ?じゃ、総司も茶くらいいいじゃん!」
「僕は別に食い意地張ってないからね。菓子はいらない。お茶は飲むけど」

何か文句が?と射すくめるような視線を向けられて、平助は思わずぐっとお菓子をのどに詰めそうになった。
慌てて千鶴が間に入って、理由を説明する。

「あの、お茶は…沖田さんが近藤さんが好きだって言っていたものを探して、買ってきたものなんです」
「ああ、一緒にって、近藤さんとってことか・・それなら・・」

なるほど、と一同が深く頷く。
近藤さん大好き総司に、そういうことで文句を言ってはいけない、と皆がわかっていた。
この時、「千鶴ちゃんも一緒だよ、わかってる?」と千鶴に付け加える総司に、大好きな近藤と一緒にお茶を飲む権利を千鶴に与えていたことに…
この事実にもう少し早く気が付いていれば…と後で皆は後悔する。

「沖田さん、お菓子召し上がらないんですか?どれもおいしそうですよ」
「平助が食べるなって言うし」
「そうは言ってねえよ!」

何でオレのせい!?と思った矢先、総司が湯呑を置いて千鶴の傍に寄った。
また、からかうのでは…?と皆が心配の気配を漂わせたのだが。

「千鶴ちゃん、何食べてるの?」
「あ、これは…干菓子です。落雁…すごくすっきりした甘さですよ」
「美味しそうに食べるね。昨日食べた金平糖より・・美味しい?」

金平糖は屯所に普通に茶菓子として置かれることはめったにない。
それはつまり、総司が買って来た、ということで間違いないだろう。

餌付けとか人に言っておきながら、総司もしてんじゃん!

平助の心の叫びが、届くはずもなく。

「金平糖もすごく美味しかったですよ。沖田さん甘いお菓子好きだから・・・食べたいんですよね。どうぞ」
「・・・千鶴ちゃんがどうぞって言うなら、もらってあげる。じゃあそれ一口頂戴?」

さっきまで、いらない。と言っていたのはどこの誰だ、と千鶴以外は皆がそう思っていたけれど。

千鶴は総司の言葉に手に取っていた落雁をそのまま、総司の口元に運んだ。
大の男があ〜んと顔を綻ばせているのはどうなんだ、と…羨ましさも交じった視線が二人に集まった。

「美味しいですか?」
「うん。甘い。美味しいよ、金平糖には負けると思うけど・・・でも、ありがとう」

猫みたいに口を閉じて口角をあげて。にこにこ笑って、千鶴の肩に頭を摺り寄せる総司に、皆が閉口した。

・・・・・・・・・・・・一体誰ですか?

先ほどの不機嫌そうな態度はまだわかる。
不意にイライラして当たられることなどよくあることで。
けれど、こうした態度は…あまりない。
というか見たことがない。

近藤を慕う時に見せるご機嫌な表情と、似てはいるが…

皆の困惑などお構いなしに、総司は千鶴に「ねえ、あれは」と指さして。

「これ、ですか?葛で餡を包んでいるんですね…」
「それも一口、頂戴」
「はい」

当たり前のように千鶴が食べさせて、一口口に含めば…美味しい、と微笑みあう二人・・・

「ちょ、ちょっと待て!!オレはこの状況が理解できないんだけど!!」
「・・・・・・・同意見だ」
「総司、自分で食えよ。千鶴のをちまちま食べるんじゃねえよ」
「食べるなって言ったのはそっちだよね」

途端、声がいつもの声に戻って、むしろ邪魔的な視線でこちらを(おもに平助中心)見回す。

「だから、言ってねえし!おまえも結構しつこいよな〜」
「しつこい?誰が。そう言って絡んでくる平助の方がしつこいと思うけど」
「ま、まあまあ…私は別に構わないですから。楽しく食べた方がおいしいですよ」

いえ、見ている方は結構辛いのですが。

場をとりなした感のある千鶴だが、千鶴の言い分はつまり、このままでいい。ということで。
それは皆、遠慮したいのである。けれど…これ以上口を挟めば、口論になるのは目に見えてる――

大体、千鶴と楽しく茶を…そう思ったのに。
何故総司が一番楽しそうなのか。

皆が不快な光景にイライラしている中、総司がふぁ…と小さく欠伸をして。
抱き枕のように、千鶴に腕を回した。
さすがに堪忍袋の緒が切れる!と思い立ち上がった三人に、間伸びした声がお構いなしに届いた。

「食べたら眠くなってきた…寝そうだな…千鶴ちゃん眠い〜膝枕…」
「沖田さん、ここで寝ると風邪ひきますよ」

いや、そうじゃないだろう!!

「・・これ、何なのかよくわからないんだけど。夢?オレそうか、夢見てんだ…」
「おいおい、平助。気持ちはわかるけど現実逃避すんなよ・・つか、千鶴も膝枕受け入れて…おまえもっとこう・・突っぱねろよ?」
「え?突っぱ…?」
「られても、寝るから」

知ったことではない、と千鶴に寄りかかろうとする総司。

「総司、今日は食事当番だろう?おまえは時間がかかる。今寝ては間に合わない」

感情論より、現実に問題を突き付けた方がこの場は効果がある、…特に千鶴に。
そう思った斎藤は一蹴するように言い放ったのだが…結果、見事に千鶴にはいい効果があった。

「食事当番なら寝てる時間はなさそうですけど…沖田さん」
「・・・・・・・・どうせ僕が作っても、みんな味が〜とか文句言うし。適当に作るから平気」
「駄目ですよ、食べ物は大事にしなきゃ…私も手伝いますから」

起き上がる気配のなかった総司が、仕方ないなとばかりにのろのろ起きて。

千鶴の言うことには何だかんだで素直だな、おい。という視線をもろともせずに、何故か千鶴の手を握る。

「仕方ない。じゃ千鶴ちゃん行こうか、何作る?」
「えっもう!何を作るかは見てみないとわからないですけど…あの、でもまだ…」
「じゃあ何作るか決めておくよ、ほら」

えっえっ??とあっという間に千鶴を連れ去る総司に、三人はポカンと口を開けた。

「ちょっ…何かさ、総司の構い方・・度を越してないか?」
「ああ、だが陰湿なからかい、と言ったようなものは感じられないが…千鶴は振り回されているな」
「まだからかってた方がよかったんじゃねえか?すごい執着を感じただろ…」

三人がいてもこうなのだ。
二人の時など、もっとひっついているのではないだろうか。

千鶴の部屋で男三人が押し黙っていると…

「・・おまえら、千鶴の部屋で何してんだ」
「おっ!土方さん、いいところに来たな」

妙な気配を感じて、休憩ついでに屯所内を歩いてみれば、男三人が黙って座って。
普段賑やかなだけ、土方がおかしく感じるのも無理はない。

「何かあったのか」
「いや、総司がさ〜千鶴のことえらい構ってて…今までは、何この役に立たない居候、みたいな感じだったのが、まるで変わってて…」
「千鶴の言うことは素直に聞きはしてるけどよ、それでも好き勝手…意味なく傍にいたがってるって感じだな…もう好意がまるわかりって感じだけどよ…」
「このまま、総司を放っておくのは千鶴の為によくないかと…」

あなただけが頼りです、何とかあのわがまま組長をどうにかしてください。

そんな風に土方の答えを、期待を込めてじっと待つ三人に、土方はうっと露骨に困った顔をする。

・・・どうしたのだろう、ここはいつもなら・・・ったく総司はどうしようもねえな。とか、眉間に皺を寄せてくれるところだが。

「まあ、そうみてえだな…いいんじゃねえか、千鶴も嫌がってはないみてえだし…問題は起きてねえし」

副長の発言とは思えません。

「何言ってんだよ!千鶴に何かあったら…それこそ問題じゃん!」
「・・・土方さん、何か言えない理由でもあんのか?」
「・・・副長・・・」

三人の土方に縋る視線が、責めるような視線に切り替わった。

「いや、な・・・総司の野郎・・近藤さんがいないとまともに隊務しない時はあるし・・
 無駄に平隊士に稽古つけて怪我させたりだの、倒させたりだのとか・・・あっただろ」
「ああ、しょっちゅうだよな」
「・・・そういや、最近は近藤さんいなくても・・前ほど・・・」
「千鶴が来てから、千鶴をからかって反応を楽しんでいたようだが…」

何となく、嫌な予感がしてくる。
だからと言って、この状態を放る理由にはならないとは思うが…

「…茶を頼んだ時に妙にあいつ・・千鶴が落ち込んでたみてえだから、一応問いただしてみたんだがよ」
「総司に困ってる、とか言ってたんだろ?」
「いや、あいつは…総司に嫌われてるって思い込んでいたみてえだ。だから・・・ついなあ・・・」
「・・・つい、何をおっしゃられたのですか?」

口ごもる土方に、斎藤が続きを、と促す。
土方はバツが悪そうに視線を逸らした後、こほん、と落ち着かせて、何でもないように、いつものように、口答えすんじゃねえぞ、とばかりに告げた。

「総司は近藤さんがいなくて、さみしくてそうなってるだけの子供だ。嫌われてる訳じゃねえだろ。気にすんな」
「・・・・・・・・・って言ったのかよ!」
「これで総司のことは放っとくだろ、と思ってたんだがな」

何食わぬ顔で話す土方に、左之はイライラ度を上昇させた。

「思ってたんだがな、じゃねえよ!その言い方じゃ…千鶴はむしろ気にするだろ。それなら私が〜とか考えそうだしよ」
「考えたんだろうな・・だからこうなってんじゃねえか」

他人事かよ!!

副長じゃなければ、張り倒していたかもしれない。
三人はそう思いながら恨めしそうに土方を見た。

「何だてめえらその目は…ところで千鶴はどこ行った?」
「だから!総司が連れまわしてんの!だからオレ達千鶴の部屋にさ〜…」
「まあ、飯作るって話だけどよ…あいつ、また無茶言ってんじゃねえか?」
「様子を見に…」

顔を曇らせる三人に、土方は何だそれなら話が早いとばかりに、勝手場でバレないように様子を見てみろ、とあっさり言い放った。
そして何も問題なかったように…戻って行ってしまったのである。
何て無責任な…忙しすぎて、頭が回っていないのではないか。そう思った三人だったが…



「千鶴ちゃん、釜の火、これでいいの?強い?」
「大丈夫です。そのままが丁度いいですから」
「わかった」

・・・・・総司が、釜の火を見てるだけじゃない…というか、ちゃんと手伝ってんな…

「お浸しって…味付けこれくらい醤油かけていいの」
「あっお醤油はもっと少なく…これくらいで…あんまり塩分多いと体にもよくないですよ」
「へえこれだけ…うん、丁度いいね」

総司の奴、お浸しの味見してるぞ…つか、まともなお浸し作れたの初めてじゃねえか??

「千鶴ちゃんこれ、味噌汁に入れるんでしょう。少し小さく切りすぎじゃない?」
「あっそれは具材の大きさを均一にしてるんです。火の通りが同じになるので…」
「ふうん・・・なるほど…さすが千鶴ちゃん」
「こ、こんなこと・・褒めるところじゃないですよ」

・・・いや、千鶴のああいう気遣いが、味噌汁の質をあげているのだな…

見ていれば本当に心配するのが杞憂なほど、大人しく言うことを聞いている。
ちょっと考えられない。
土方がああ言うのもわからなくはない。
近藤に懐くように、千鶴に懐いて。
今や完全に飼いならされた猫のよう…

土方はこんな様子を知っていたのだろうか。
いや、それでも根本的に、千鶴と総司の仲を危惧するこちらの気持ちまではわかってはくれていないようだが…
それでも取り敢えず、今は、引き上げようか、そう思った時…

「謙遜しなくてもいいよ。こうやって細かいところちゃんと気にして、偉い偉い」
「ひゃっ!冷たいっ…沖田さん手が濡れたままですよ」
「あ、そうだった」

片付け中に、濡れたままの手で、千鶴の頭をわしゃわしゃっとしたせいだろう。
千鶴はぽたっと頬に伝い落ちてきた水の冷たさにびっくりしたようだった。

「ごめんごめん、濡れたね」
「・・いえ、でもこれくらい大丈夫です。褒めてくれてありがとうございます」

頭を撫でようとしてくれたのだから、と千鶴が嬉しそうに総司に笑いかける。
それを正面から受けた総司の手が、ぴくっと揺れた。
もう一度、千鶴の頭に手をそっと置く。

今度は、水は伝い落ちてはこなかった。けれど、置いたまま動かない手が気になって、千鶴が少しだけ、顔をあげた瞬間、唇に触れた熱。

「・・・ご褒美、偉い偉い」
「・・・・・・・・・あ、あの…」

真っ赤になって、総司をじっと見上げる千鶴に、総司はもう一度微笑みを落とした後、「・・褒め足りない」と一言、そう言って千鶴にもう一度口付けを…

する前に三人が飛び込んできました。
「「「総司〜!!」」」と怒りにまかせて、何がご褒美だ!!と怒鳴る三人を見て、総司は嬉しそうに千鶴の背中の後ろに回った。

「千鶴ちゃん助けて、ひどいよね。よってたかって」
「何がだよ!顔が笑ってるし!!」
「平助、人って嬉しいと笑うものだよね」
「ぬけぬけとおまえな…」
「だって頑張ってたのに、ご褒美くらいないと可哀想じゃない」
「千鶴の褒美になっていないだろう」

三人に責められながらも、千鶴を後ろから抱き締めたまま総司は不敵な笑みを浮かべた。
ほっぺで千鶴のほっぺをツンとして、千鶴が横を向いた瞬間、見せつけるようにもう一度口付けを落として・・・

「僕のご褒美に決まってるじゃない」

三人のあげた叫び声に、何事だと駆けつけた土方も加えてもなお、千鶴甘えは止まることなく――







END






真菜様

沖千SSリクエストありがとうございました!
近藤さんと千鶴にだけ懐く沖田さん…
千鶴の言うことだけ聞く沖田さん…
甘めコメディ!
素敵なリクエストに対する作品が…これです^^;

コメディだし、みんな出すとなるとラブ要素が…と思ったんですけど…
懐いた沖田さんを出すように頑張りました!
最初素っ気ないのは二人きりを邪魔されて拗ねているので…大目に見てやってください。

素敵なリクエストありがとうございました!!