ちの様リクエスト



三国恋戦記:仲花SS
※ちの様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『俺様心模様』




「仲謀さん」

・・・さん、じゃなくて、様だろっ!
何度言ってもその場だけ様付けして、後はまたさん付けに変わる。
委縮させる様に怒鳴ってみても、不機嫌を隠さずにぶつけても、ああ、と何か自分で納得して、すぐに柔らかい表情を浮かべる。

俺が何を言っても、一人で顔を曇らせたり、しかめたり。
けど、すぐに、へらっとした笑顔でこっちを見る。
何もなかったかの様に空気を一変させて…

訳も分からず光に巻き込まれて、辿り着いたのは…俺様の宮ではなく、森の中。
ここでもこいつは、一人落ち着いて。悪気など何も感じさせない無邪気な顔でこっちを向いて。

もっと、怒鳴ってやりたいのに、何でかもういい、って気持ちになった。
・・・・・何か、調子が狂う。

「仲謀」

・・・どんどん省略されてくる敬称。
こいつはわざとか?
何でか、姉弟のフリをさせられて…俺が弟で。

それだけでも納得いかないってのに…別にフリをする必要がないところまで、「仲謀」
敬語も何もない。
そこらの奴らに話しかけるのと同じような態度。

ムっとして突っかかっても、いつの間にかなあなあに話がついてて。
こいつの思い通りになってるみたいだ。
元の世界に戻るためだから、それまでの辛抱だって思っていたのに、普通に聞き逃して会話してる時が増えてる。

・・・・・何でだ?
大体、何で姉弟なんだ。・・・顔も似てないのに、恋人とかの方が・・怪しまれないだろうが。


「目的を、洛陽に変えて欲しいの」

賊の手助けなんて冗談じゃない。
そんなことで元の世界に戻れるなんて言われても、はい、そうですか。と言う訳にはいかない。
でも、花は困った顔を見せずに本を抱きこんで。
ぼんやりと、先の事を考えているようだった。

この世界に来て、花の言う通りにするしかない。
わかってはいるけど、俺が何もしない、と言っているのに・・少しも慌てない。頼ろうともしない。

・・・頼られたって、助ける気はないけどな。
だけど、俺様しかいないんだ。なのに…一人で何でもかんでもする気かよ


「足を、くじいたの」

何で言わないんだ。黙って立って状況が良くなる訳じゃあるまいし。
しかも、渋々言わされているように。
足が痛いのもあるんだろうが、他にも理由があるように・・花のいつも必要以上にしまりのない口が、引き結ばれている。

何で俺が悪いみたいな空気になっているんだよ

背中を貸してやるだけ、ありがたいと思え。
素直に、言ってくれたなら…こんな不器用に言い放たずに、背中を貸せたかもしれないのに。
言わない花が悪い。
そう思い出したら…むかむかする気持ちが増長していった。けど・・・

―――キュッ

ここ最近ずっと俺に見せていた険が、ふと、なくなった気がした。
背中越しに伝わる花の、花が漂わすふわっと優しい雰囲気が・・自分を見る間に包みこんでいく気がした。

背中の花を支える手にじわっと汗が滲んでくる。
勝手に熱くなる頬を、止まない雨が鎮めてくれる。
そんな俺の気持ちなどまるでわかりもせずに、走る振動に振り落とされないように馬鹿がしがみついてくる。

「つかまってればいいだろ!」

慌てて口にした言葉に、花の手が戸惑いながら、ゆっくりと動いて、肩を掴む。
ほっとするのと同時に、なんか、わからないけど・・・名残惜しい気がした。


ようやく雨宿り出来そうな場所を見つけて、花を下ろす。
人一人背負って走って…疲れて。
解放されて喜べばいいのに、これで休められる、と一息つけばいいのに。

何でこんなにごちゃごちゃ俺は…考えてるんだ。
・・大体、何を考えているのかもよく・・・

自問自答しつつ、ぼうっと雨が土に染み入る様を見ていれば、ぽつっと花の「さっきはごめん」と言う言葉が耳に届く。
言い過ぎた、立場をわかってなかった。
そんなことを話しだす花に、何故今更?っていう気持ちと・・・もう一つ。

言い方を改める気だろうか?
ちゃんと俺様に敬意を抱いて、敬称も忘れずに。
望んでいたことだ。そうすればいい。

でも黙って、次の言葉を話さない花に、何故か胸がざわついて。

「なんだよ?急に黙るなよ」
「あ、うん。そうだね」

返ってきた言葉は、他の者なら不敬罪だ!って怒るような、花のいつも通りの口調。
別にいいことじゃないのに、何だ、改めるつもりはないんじゃないかって何故か、あいつみたいに口元のしまりがなくなりそうになる。

くしゅくしゅ、くしゃみでうるさくて、雰囲気など全くない目の前の女。
軍師って言うけど、軍師らしくなくて。
抜けてて、馬鹿で、思ったことをすぐ口にする単細胞。構う価値など見出せそうにないのに…

呉の孫家の当主、仲謀で固めていたものが、綻んだ気がした。

「強情な女だな」

上着を花に放った途端、嘲笑でも何でもない、素直に笑いが漏れる。

『仲謀』

花の呼びかけ。
変わらない口調。
それでいい気がした。そうじゃないと嫌な気がした。

上着を貸して、雨に打たれて冷えた肌が温かいものを求める。
けど、欲しいのはその温かさだけじゃない気がする。

「…おい、もっとこっち来いよ」

それを確かめるように、花の温もりを背中に感じれば、胸の中に広がる知らない温かさ。
翻弄されるように口をつく言葉に、返される言葉は変わらない。

でも、若干花の方が余裕のある態度が気に入らない。
俺様だって別に…こんなこと、何でもないんだ、何でも…

そんな言い訳を自分自身に言い聞かせながら、隠せない心音が背中から伝わらないかとドキドキして。


雨が止んだことすら気付かずに、温もりに浸っていた自分に。

そう遠くなく思い知らされるこの恋心――






END








ちの様

仲花SSリクエストありがとうございました!
過去に戻った時の二人が近づく様子…なのに何故かあの、仲謀の独白みたいになってますが^^;

ゲームをしてて、背中合わせをしてから仲謀がちょっと変わった気がしたので…
仲謀の気持ちを大事に…書いてみました。
もう結構好きになっていると思うので、看守への色仕掛けにはムカっとしてましたよね^/^
かわいい仲謀になっているでしょうか??仲謀のわたわたっぷりで何とか…<m(__)m>

書いてて、仲花がやっぱり好きだなあと実感しました!
素敵なリクを書かせて頂き嬉しいですv
こんなものでよければ受け取ってやってください。

ありがとうございました!