みっきーまうす様リクエスト

薄桜鬼:斎千SS
※みっきーまうす様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。




『千鶴ありきな幸せ』




「一さんっ!よかった…無事だったんですね」

帰るなり飛びついて来て、無事を確かめて、安心しながらその胸にぎゅっと縋る千鶴に、斎藤はわけもわからず。
けれど不安がる千鶴の背中を、ぽんぽん、と一定の速度でゆっくり叩く。
徐々に落ち着いた千鶴が顔をあげた時には、うっすら涙をその瞳に溜めていた。

「千鶴?どうした…何を聞いた?」
「…町で騒動があって、警吏の人が巻き添えになって怪我をしたって聞いて…一さんだったらどうしようって…」

きっと、聞いてからずっと不安に思いつつ、家で帰りを待っていたのだろう。
縋る千鶴を抱きしめて、そのまま…いつもの様に自分が欲する愛らしい口唇を求めるのを、ぐっと耐える。
それというのも…

「怪我をしたのは…俺と共にいた者だ。最近配属になったばかりの者なんだが…」
「一さんの知り合いだったんですか…その方、大丈夫なんですか?」
「大事はないが…骨を痛めたようだ。復帰するまで時間がかかるだろうな」

言いながら、顔を少しだけ、ほんの一瞬苦しそうに顔を曇らせる斎藤に、千鶴が心配そうにその瞳を向けた。

「…一さん?」
「…俺をかばって…怪我をした」

その一言を、沈痛な面持ちで告げる斎藤に、千鶴は縋っていた体を起こした。

怪我の元になった攻撃を避けることなど、造作もなかった。
だが、そんな斎藤の強さなどよく知ってはいなかった男は、斎藤を咄嗟にかばい、怪我を負ったのだった。

「あの男は独り身で、家族も離れたところに住んでいる。何かと不自由だろうから…助けてやりたいのだが・・」
「私も、それがいいと思います。ご飯のおかずとか、持って行くのは迷惑ではないですよね」
「…千鶴にも、迷惑をかけることになるな、すまない…」
「いいえ。一さんを助けてくださった方ですから…何もしないでじっと見守るだけなんて嫌です」

一さんこそ、いろんなことを考えて、あまり気に病まないでくださいね?と、
自分を気遣うような優しい瞳を向けてくれる千鶴。
斎藤はその手をそっと取ると、柔らかい眼差しを千鶴に向けながら頷いた。

それから…仕事がある日は、朝、出勤前にその家に立ち寄り。夜、帰る前に立ち寄り。
休日には二人揃ってその男の家に出向いた。
洗い物や掃除など、普段できないところを千鶴が引き受けてくれて。
身の回りのことをできるだけ手伝うことにした。
申し訳なさそうに、そこまでしなくてもいいですから、と遠慮する男に、気にするな。とそれだけを告げて。

千鶴の作ったおかずを差し入れしては、少し話して帰って。
そんなことが一月ほど続いただろうか。
もう動けるから、心配しないでください。ありがとうございました。と頭を下げられた。
見た目にも何とか動くことの出来るようになった男の姿に、斎藤も一応納得したのだが…・

「骨折って…そんなに早く治るものでしょうか?」

話すなり、千鶴から返ってきた言葉はその結論に納得したものではなく。

「?だが、歩けていたし…」

新選組の頃には、あの程度ならもう動いていたような気がするが…

「きっと…無理なさっていると思うんです。一さん、私が行きますから・・・」
「・・・・千鶴が?」
「はい。私も休日にご一緒させて頂いたから…道も覚えていますし。気さくに話してくださるし、一人でも大丈夫です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男が長期休んでいる為に、斎藤の受け持つ仕事量は多くなっている。
この状態を続けるのはもう難しくなっている。
あの男も、それをきっとわかっているのだろう。
多少、無理は言っているかもしれない。

男のことを考えるのなら、千鶴の意見を聞くべきかもしれない、しれないが…

「ご家族の方を呼べればいいのですけど…なかなか難しいのですよね」
「ああ、便りは出したが…もう暫くかかりそうだ」
「それなら、私が…どうせ昼間は暇な時間も多いですし。任せてください!」

ドンっと自分の胸を叩いて、張り切る千鶴に、否、と言えなかったことを…すぐに後悔することになる。


「・・・・もう、行かなくても大丈夫ではないだろうか」

仕事途中に男の家に立ち寄れば千鶴はもう帰った後で、男は千鶴の手料理を美味しそうに食べていた。
もう大丈夫ですからと、奥様に伝えてください。とすまなそうにしていた男を思い出して、斎藤が口を開くと…

「でも…動くと痛いっておっしゃられていたんです。もう少し手伝った方が…」

おかしい。言い分が違う。
千鶴の言葉に斎藤は思わず眉をひそめた。

「明日は…そういえばあっさりした和え物が食べたいとか。何がいいでしょうね…一さんは何が食べたいですか」
「…俺は和え物ではなくて、煮物が食べたいのだが」

別に和えものでもいいけれど、まるで二番目に考えられているような気がして、思わずそう返せば、千鶴はそんな意図など全く気がつかず。

「煮物ですか?じゃあ一さんには煮物を作りますね。え〜と和えものの材料何か…」

いそいそとその場を去って、頭の中を献立でいっぱいにする千鶴。
じゃあ、一さんには…とは何だ。
別にわざわざ分けて作ることなどない。
千鶴はあの男に気を遣い過ぎではないか…

そんな思考からはっと覚めれば、千鶴が何故かこちらをじっと見ている。
・・・・何故そんなにこちらを見ているのか?
首を傾げる斎藤同様に千鶴も首を傾げた。

「一さん?」
「何だ?」
「いえ、一さんが手を…」
「・・・・・・・・・・・・」

手?

言われて初めて気がつく。
千鶴の腕を掴んで、千鶴が勝手場に行くのを邪魔しているようだった。

「どうかしました?」
「・・・・・・・・・・て、いい」
「?すみません。聞こえなくて…「もう作らなくても、いい」

確かに、怪我をさせたのは悪かった。
けれど、それは自分のせいで。
千鶴がそこまでする必要はない。してほしくない。
私一人で、と言いだした時に、もっときっぱり言っておくべきだった…

そう後悔しつつ、これでもう行くことはないだろう。とどこかほっとする気持ちになっていたのに。
それなのにこの優しすぎる、妻は…

「私のことを気遣ってくださるんですか?大丈夫ですよ。全然負担にはなっていませんし…ご家族が来るまでは続けますね」

…やんわり反論されたような気がする。

「じゃあ片付けついでに、明日の下準備もしますから・・・一さん先にお風呂に…」
「行くな、と言っている」

千鶴の腕を掴む力が、自然に強くなってしまって。
二人でここで暮らすようになって、ずっと幸せだった時間に初めて、胸がきしんで痛みを覚えた。
自制が効かない心に同調するように、千鶴の腕に指が食い込んでしまう。

「行くなって…」
「もう、千鶴が世話をしなくてもいい。俺が行った時、あいつは大分自由に動けていた」
「でも…まだ痛いって…」
「だからと言って、千鶴がそこまでする必要はないだろう」

低く、感情を露わにするような言い捨てるような声。
口にした瞬間、しまった、と思ったのも遅く。
斎藤の声に、言葉に、一時目を見開いて驚いていた千鶴は…何故かキッとこちらを見返して…

「どうして私がする必要はないんですか?私は…一さんの妻です。理由は十分だと思います」
「それは…」
「私が動くのは…迷惑なんですか?私だって出来る事があるのなら、したいんです。何もしないで、一さんばかりに荷を負わせるのなんて嫌です」
「迷惑ではない。そういうことではなく…」

昔から、人一倍周りに気遣う娘だった。
屯所にいた時から…こうして自分の手を差し伸べることを喜んでしていた。
千鶴のこういうところも好きで、好きだけど…

「千鶴は干渉しすぎだ。出来る事からさせていかなければ、あの男の為にもならない」
「私だって、ちゃんとそこら辺はわきまえてます。おかしいです一さん…一さん、私が手伝うの喜んでくれていらしたじゃないですか」
「だから、もう行かなくていいと言っている。」
「言ってることがめちゃめちゃですよ。一さん、どうしたんですか…?」

こうまで露骨に嫌がる顔をするのは珍しい。
何か、問題でもあったのだろうか?
そんな鈍い感情が顕わになった、千鶴の表情に斎藤が視線を移して。

「どうした・・・ではない」

掴んでいた腕ごと、千鶴を引っ張って、自分の胸に閉じ込めた。
急に引っ張られて、抱きしめられて、背中を鷲掴みされたような感覚が千鶴を支配する。

「俺のせいで怪我をしたんだ。おまえがまだ看ると言い張るのなら…俺がしよう」
「だから・・・一さん忙しくて無理じゃないですか…」
「無理ではない。俺の仕事のことは俺が一番わかっている。…千鶴、明日からはいい」
「でも…」

はい。とは言ってくれない。
千鶴の性分だからわかっててはいても…ツキっと胸が痛む。
こんなにしっかりと抱きしめているのに、心が掴めない…
その後、千鶴もどういえばいいのか、考えているようにシンと静まる部屋。

「…はい。以外の答えを聞く気はない」
「は、一さん…そんなこと言っても…」
「そうやって、周りのことばかり気を遣わなくてもいい。千鶴はもっと自分のこと念頭に置く方がいい」
「だから、自分の為です。一さんの為になることをしたいから…それが私の為なんです」
「俺の為を思うのなら、行くな、と言っている」
「でも、それだと結局一さんが…」

堂々巡りである。
嫌だ、とこれ程言っているのに…聞き容れない。
どう言えばわかってくれるのか、見当もつかず零れたのは溜息。

「・・・・・どうして、そこまで嫌なんですか?」

溜息に促されるように、千鶴からの言葉。
どうして?それはこちらが聞きたい。どうしてわかってくれない。

「おまえが、他の男とともに過ごす時間を、笑って見送れると思うか?帰っても…それを楽しそうに、語る千鶴を…何故平気で…俺が…」

抱きしめていた手を、千鶴の肩に置いて。
決して悪いことをしていた訳ではない。
結局は自分の為にしていてくれたことだ。そんなことはわかっている。
けれど、それでもどうしようもなく、胸をたぎる感情はそれを理解することを拒んで、千鶴を責めてしまう。

肩に手を置いたまま、無垢で、純粋な瞳を自分の視線で傷つけそうな気がして、斎藤は俯いた。
心の中で願うことは、どれもみっともなくて千鶴に聞かせられることではない。
いつでも、どんな時でも、千鶴の中で「斎藤 一」が一番であって欲しい。


「一さん…あの…」

千鶴のか細い声に、顔をあげれば、困惑していた顔は頬を染めて…落ち着かないように目を漂わせている。

「それなら…家族の方を一緒に呼びに行きませんか?」
「…家族の者を?」
「はい。便りを出しても出不精だから来そうにないって…前言っていらしたんです。だから・・・直接呼びに行くのはどうかと」

そんなことは初耳だ。
あの男、俺にはそんな情報よこさずに…どれだけ便りを出したのだと…

「家族の方が来られたら、それこそ私も必要なくなるし…そ、それに…」
「…それに?」
「一さんにも…辛い思いさせたくないですから…私にとって、一番大事なのは…一さんですから」
「・・・・・・・・・・・・・」

欲しかった言葉を、大好きな微笑みと共に贈られて。
まっすぐに自分に向けられた瞳が段々大きくなる。
千鶴の柔らかな髪が、斎藤の髪をくすぐると共に目を閉じれば、唇から、愛しい思いが零れ伝わる――



「・・・・・一日。たった一日ですよ」
「そうだな。何とかなるものだ」
「一さん…無理したんでしょう?寝ていないですし…今日はもう休んでくださいね」

昨日、不安でささくれ立った心を瘉した口付けの後。斎藤の行動は早かった。
そのまま、夜だというのに身支度をして、出かけてしまったのだ。
・・・・男の家族の許に。
そして今日、本当に家族…といっても母親のみだが、来る手筈を整えて帰ってきた。
それを聞いて驚いたのは千鶴もだが、男はもっと驚いたようだったらしい。

あの遠方までの距離を一日で…というところに特化した驚きだったようだった。
それだけ…千鶴が行くのを嫌がっていたのだろうかと思うと、今更申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。

さすがに疲れたのか、帰るなり横になる斎藤の横で、千鶴はそっとその髪を梳いた。

「一さん…何か欲しかったらおっしゃってくださいね。簡単に食べられるものでも用意しますから」
「・・・・・それなら・・・これが欲しい」
「わ、私、お菓子も何も持っていませんけど」

欲しいと言われながら、手繰り寄せられたのは千鶴の膝の上にあった手。
きゅっと指を絡められてくいっとする仕草は、まるでこっちに…と言われているようで。
言わんとしていることがわかっていても、恥ずかしさにごまかしてしまう。

「千鶴…」
「…はい…〜〜〜一さん、その目はずるいです」
「?ずるい?」
「だって、そんな目を向けられたら…」

真っ赤になって押し黙る千鶴に、斎藤は静かに微笑んだ。
ずるい、と言うなら…それなら千鶴の方がもっとずるい時があるのを知らない、このかわいい妻に。
愛しい気持ちが込み上げて来る。

「それは…いいことを知ったな」
「常用しないでくださいっ!」
「…今は、他のものは欲しくはない…千鶴…」

横になった体。
感じる温かさは何故か千鶴と繋いだ手だけに。
千鶴だけがくれる、温かい自分の居場所。
それだけでも夢のような幸せで満たされる。

千鶴が傍にいるだけで…けれど、

一晩駆け回り努力した夫に、妻からのご褒美を、どうか―――





END







みっきーまうす様

このたびは斎千リクエストありがとうございました!
斎藤さんが心配して…もう嫉妬の嵐ですが大丈夫でしょうか?

千鶴の仲の良い男性ってところで…かなり悩んであんな中途半端になってしまいました。
喧嘩も…あんな感じで大丈夫でしょうか^^;

甘いお話希望だったので、とにかく喧嘩後は仲好く!と思ったのですが…
斎藤さんの溺愛ぶりが伝わっていれば嬉しいですv

それでは…本当にありがとうございました!!