文月様リクエスト



薄桜鬼:風千SS
※文月様のみお持ち帰り可とさせて頂きます



『桜の空、約束の時』
ED後、まだ江戸の診療所にいる頃のお話です





『桜が咲いたら、西へ向かおう――』



梅が咲き始めた頃、二人で交わした約束。
風間と千鶴の二人の約束、二人の旅立ちを後押しするように桜の木に今にも開きそうな蕾の数々。

どこか素直に伝いきれなかった気持ちを千鶴はあの日、素直に背中越しに届けられた。
風間と共に西に行くと、胸の中の思い出に告げて。
新しい日々を待ち望むように、桜の木を見上げるようになっていた。


「もう少し……かな」

西に行くことになんの不安もないと言えば嘘になる。
西の鬼の頭領の妻として、自分にも課せられることはある。
それでも、素直じゃないけれど優しい鬼、風間と一緒ならば大丈夫と思える。

「……うん。風間さんは意地悪だけど、もう慣れてきた気もするし」
「ほう、どのように慣れたというのか……教えて欲しいものだな」
「……っ!?」

いつの間にか傍に立っていた風間に、千鶴は一瞬驚いた顔を浮かべるもすぐに頬を膨らませた。

「風間さん、気配を消して近寄るのやめてくださいって何度も言っていますよね?」
「消したつもりはない。おまえが桜に気を取られているからだろう」

含んだ視線を向けた後、千鶴が先ほどまで見上げていた桜に視線を向ける。

「ブツブツ何を言っていると思えば……俺と西に行くのがよほど待ち遠しいと見える」
「な……っ!?そ、そんなこと…っ」
「……ほう……ないのか?」

わかりきった答えを待つ風間の表情に、むくれたくなる気持ちが出てくる。
いつになったら、この人に振り回されないようになるのだろうか。

「……あります」

観念して、それでもまだそういう風に素直に伝えることに慣れない唇に、満足そうに風間の唇が重なった。
庭先で交わした口付けは何度目だろう。
意地悪なのに、抱きしめてくれる腕も、髪を梳く指先も優しくて
なのに唇は、強引に荒々しく千鶴を求めて、吐息すら漏らさないように深く捉えたまま――

「……っ…は…」

ようやく離れた唇に、息を求めて顔をあげた時も、その後も。
口付けの間に無意識に掴んでいた風間の袖を、千鶴は離そうとはしなかった。
今までにはなかったそんな変化に、風間の笑みが増していき――

「…………」
「……なんだ、その呆けた顔は」
「…ほっ!?それは私の言うことです!そんな顔して……」
「そんな顔とは何だ。俺がそんな腑抜けた顔をする筈なかろう」
「腑抜けてはいませんけど……反則っていうか…」

言葉の続きは真っ赤になった頬に遮られる。。
もごもごと言いよどみ、慌てて背中を向けてしまった千鶴の表情が見えなくなり、風間は面白くなさそうに声をかけた。

「おい、千鶴――」
「さ、さあ!片付けないと……桜が咲くのに間に合いませんから」

照れくさそうに小走りで家の中に戻る姿に、追求の手を伸ばそうか一瞬考えて。
けれど千鶴が照れた理由を突き詰めれば、自分のほうが分が悪いかもしれないと思いとどまる。
自分らしからない表情をしていたのを、知らぬフリできなくなるからだ。

それに、慌てて取り繕った千鶴の言葉にまた、ひとりでに笑が零れているようで――

「……これではあいつらに、何を言われるかわからん――」

西で帰りを待つ同胞の顔を思い浮かべながら、家の中に入るとすでに片付けに着手している妻の姿。
診療所を締めることでの準備も色々あった。
千鶴なりに今まで懇意にしてくれた町民に迷惑をかけないよう、走り回っていたようだった。

先ほどまではまだ幼い少女のような初心なところを見ていたのに、今は診療所を切り盛りする女性の顔に変わっている。
切り替えのよさに頼もしさを感じるものの、それはそれで面白くない。
こちらを見ようともしない千鶴に、向けとばかりに声をかけた。

「…今日は何を片付けるつもりだ」
「今日は……ここの薬草棚を片付けて、それからこの調合してある薬を届けに行こうと思ってるんです」
「身の回りのものにはまだ手が付けられんようだな」
「そうですね、そういうものは夜に頑張ります。大丈夫です。桜が咲き始める頃には……あなたと共に在りますから」

ちょっとしたことには恥ずかしがるのに、こういう大事なところはわかっているのか。
はっきりと、柔らかい笑顔で告げる千鶴に風間は歩み寄った。

「……それでは、今日も晩酌に付き合わぬつもりか」
「え?あ……昨夜はどうしても片付けが終わらなくてすみません。でも大丈夫です。今夜はちゃんと配分を考えて……」
「貸せ」

持病や病気の治りきっていない患者に配ろうと、千鶴が薬を詰めていた薬品箱を風間が取り上げる。
入れ終わったばかりの箱を片手に玄関に向かう風間を、千鶴が慌てて追った。

「風間さん……っ私がしますから」
「おまえは自分の身の回りのことをしておけ。これではいつまで経っても終わらん」
「そんなこと……それにこれは私がしないと…「千鶴」

口を挟ませないように名前を呼ばれ、思わず口をつぐんで風間の言葉を待つ。

「俺はおまえに鬼の頭領の妻として、色々してもらわねばならんと言ったな」
「……はい、皆さんの幸せを守る為に、私も出来得る限り尽力したいと思っています。」
「……桜が咲き始めれば……と言うのだろう、だが違う」
「え……?」

穏やかではあったが、千鶴の言葉を否とされ、千鶴は言葉を失った。
戸惑う千鶴に、風間は表情を変えることなく言葉を続ける。

「俺はもう、おまえと共に在る。桜が咲き始め、西に戻る時からではない」
「……風間さん――」
「千鶴、おまえだけに……伴侶として尽力してもらおうなどと思ってはいない。おまえが、我が妻であるように――」

「俺はおまえの夫だ――夫なら手が空いているのに、手を貸さまいとは考えなかろう」
「……風、間さん……」

ここに来てから、ずっと傍にいて手伝ってくれていた姿が脳裏に浮かぶ。
はっきりと西に行くとも告げない間も、ずっとずっと、妻として接してくれていたのだと思うと目が熱くなってくる。

「……何より、晩酌におまえが付き合わんとつまらん。文句はあるまい」
「…はい…はいっ……じゃあ、あなたのお言葉に甘えさせてもらいますね。」

零れそうな涙をさっと手の甲でこすって、見送りをしようと傍に立ってじっと見守る。
薬を今から配りに行くとは思えない、風間の優雅な動きがなんだか合っていなくて、思わず笑って言った。

「きっと、風間さんが家に訪れたら皆さん驚くでしょうね」
「そうとも言えん」
「?どうしてですか?」
「すっかり若夫婦と評判になっているようだからな。おまえの夫として存分にこの薬を振舞ってやろう」
「…っく、薬は限られた量だけ配るんですよ!勝手に多めにしたらいけませんからね!?」

ふっと喉を軽くふるわせて笑うだけの返答に、若干不安を覚えるけれど。
自信満々のこの人にいくら言っても徒労に終わるかも、と笑顔で返して。

「そういえば…風間さん、配る患者さんの家わかっているんですか?」
「おまえは俺をなんだと思っている、おまえと何度も回っているのに覚えているに決まっている」
「そうですね、ふふっ、すみません…じゃあいってらっしゃい、私は家の片付け頑張りますね」

いってらっしゃいと言う言葉がどこかくすぐったく。
小さな幸せがじわじわと胸に込み上げる。

「…千鶴、おまえは片付けと、あと…」

唇に意地悪な、けれどどこか千鶴と同じような幸せを感じた微笑みを湛えて、風間がゆっくり口を寄せた。

「いい加減、名前で呼べるように練習しておくといい」

「……っ!?」


真っ赤になった千鶴に一瞬だけ唇を重ねて。
ゆっくりと玄関を出て行く風間の背中に、「もう…もう……っ」と一人残された千鶴は落ち着かない様子で視線を彷徨わせていたのだが。



開けたままの戸に風が入り込む。

二人の素直に重なった気持ちに応えるように

優しくくすぐるような春の風は、どこかに咲いていたのであろう桜の花一片を伴い

千鶴のもとへと舞い降りた――







END









文月様。

リクエストしてくださったのに、大変遅くなって申し訳ありませんでしたー!!
そして風千の難しさを痛感しました(汗)

風間さんのキャラとか大丈夫なのかなと…心配ではありますが書かせて頂きました^^
風間さんといる時の千鶴のツンが好きで、
あと黎明録をして、診療所にいる時の二人のやり取りがすっごく好きだったので。
ああいう感じ、ああいう感じ〜と呟きながら書いたのですが。

あ、甘くなっているでしょうか?
ちー様が千鶴に甘くってことでしたのに、足りない気もしますがもう精一杯です〜><(滝汗)

受け取ってくださると嬉しいですvv
リクエスト、本当にありがとうございました!!