むぅ☆様リクエスト




S.Y.K:蘇玄SS
※むぅ☆様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『Daily life 』
FDのED後、玄奘が冥界に住んでいます。
ギャグ甘です。




玄奘が冥界に来てから、どれほどの月日が流れただろう。
些細な問題は起これど、蘇芳と日々仲睦まじく過ごす様子は見ていて微笑ましいものであった。
(見ていて目のやり場に困る時もあるらしいが…)

まだ高位の妖怪全てが今の体制に満足しているわけではないけれど。
それなりの平穏と、愛情に満たされた日々は、二人が二界に分かれて暮らしていた時よりも、深く甘いものだった。

――それなのに…何故ですの?

「口に合わないのですか?他のものを用意しましょうか」

一口だけお茶に口をつけた後、そのまま黙って一言も発さず眉を寄せる金閣に、玄奘が気遣わし気に声をかけた。

玄奘が冥界に来ることになった一件以来、玄奘と金閣はこうして『友人』としてお茶を一緒に飲むことが増えた。
他愛ない女性同士の話、というものは金閣にとっても覚えのない楽しいもので。
銀閣に仕事を任せられる暇な時は、こうして玄奘と一時を過ごす事が多かった。

オレより、金と過ごす時間の方が多い気がするんだけど――

どこか不貞腐れながら、どこか二人が仲良くするのを嬉しそうにしながら、蘇芳が呟くのももはや日常茶飯事の出来事となりつつあった。
玄奘としても、金閣はこうして話を出来る貴重な女性の友人で。
楽しみにしながらお茶を用意したのだが、今日の金閣はどこか様子がおかしい…

「…え?…あ、いえ。構いませんわ。とっても美味しいですもの」
「そう、ですか?でも全く進んでいませんけど…金閣、何か悩み事でもあるのではないですか?」

心ここにあらず、といった表情を時折浮かべる金閣に、玄奘は友人として相談して欲しいとばかりに身を乗り出した。

いつも、蘇芳の為、私の為を考えて言葉を、態度をくれる。
力になってくれる大切な友人が悩んでいるのなら、こんな時こそ自分だって力になりたい――

そんな思いを目に込めてじっと待つ玄奘に、金閣が珍しく弱弱しい声で「申し上げてもよろしいのかしら?」と呟いた。

「はい。私はあなたのことも、とても大切に思ってます。力になれたら…」
「…っ…ま、まったくあなたときたら…相変わらず恥ずかしいことを平気でおっしゃりますわね」

金閣は慌てたのかお茶をひとしきり飲むと、一度俯いた。
話していいものか、逡巡しているようで…

かなり深刻な悩みなのだろうか――?
こんなに悩むまで気がつかないなんて…

玄奘が深刻に受け止め始めだした時、ようやく金閣が重い口を開いた。

「こんな事、わたくしが口に出すべきではないとは思うのですけれど…」
「…(その言い方…)蘇芳や、私のことですか?」
「ええ。決めました。単刀直入にきっぱり申し上げますわ!!玄奘!!」
「は、はいっ」

シャンとお互いが背を正して向き直る。
シン…とした一刻の後…

「やや子はまだですのーーー!?」
「・・・・・・・はい?」

深刻な空気は一転間の抜けたものに変わった。
ガクっと肩を落とした玄奘に、金閣はお構いなしに詰め寄ってくる。

「わたくしは蘇芳様のやや子を、この腕で早く抱き上げるのが夢だと申しましたでしょう!!」
「・・そ、そうでしたか?」
「忘れたとは言わせませんわ!!まったく、どうして何にも兆候がないんですの〜!!あれほど仲睦まじくしておりますのに!!」
「あ、あの・・金閣、落ち着いてください」

会話の内容が内容だけに、誰かに聞かれでもしたら恥ずかしい――

玄奘は必死になってなだめようとしたのだが…

「朝も夜も、あれほど愛し合って愛を深めている様ですのに…っ何故ですの…っ!!」
「な、何故それを…ではなくて。き、金閣もう少し声を小さく…それに、やや子を欲しいとは思っても、すぐに叶うものでは…」
「あら、玄奘…そのおっしゃり様だと…あなたも蘇芳様のやや子をその手に抱きたいのですわね!当然ですわ、わかりますわ〜」
「そ、それは…そう思わないと言えば嘘になると思いますが…」
「それならば、不甲斐ないのは蘇芳様、ということになりますわね。旦那として満足させてる〜などとおっしゃっておりましたのに〜!!」

何を話しているのです!蘇芳!!

金閣をなだめるどころではなく、金閣の言葉に顔をボッと赤らめた玄奘。
そんな玄奘に追い討ちのように来訪者が現れた。

「あわわ…姉様、何を言っているんですか〜聞こえてますよ。丸聞こえですよ〜」
「銀閣っ!!も、もしかして蘇芳もそこに…?」

蘇芳の傍で仕事をしていた筈の銀閣の姿に、玄奘が真っ赤になって立ち上がるも、銀閣はブンブンと首を横に振った。

「蘇芳様は治安部に寄ってから…とおっしゃいまして。先に戻るように言われたんです。もう少ししたら来ると思いますけど〜」
「そ、そうですか…」
「すみません、玄奘さん。姉様に悪気はないんですよ〜確かに昔からの夢でしたからね〜」
「はい。それはわかっています」

血のつながりなんて関係なく、二人は蘇芳の家族なのだから…そう思うのは当然のことだと思う。
そこまで強く思ってくれて、ありがたいことではあるのだけれど…

「蘇芳様のことですから〜もっともっと冥界が安定してから…とか思ってるんじゃないですかね〜」
「あら、そんなこと言っていては、いつまで経ってもやや子など抱けませんわっ!!やはり…ここは差し出がましいのはわかっておりますけど、進言を…」
「っそ、それだけはやめてくださいっ金閣!」

そんな事を言えば、蘇芳がどんな態度に出るのかなんて…考えるだけで熱が上がってきそうになる。

「ほら、姉様〜玄奘さんをあんまり困らせてはだめですよ〜蘇芳様にも怒られますよ〜」
「あら…玄奘は困っているのではなく、照れているだけですわ。そんなこともわからないんですの?」
「照れてるって…玄奘が?何に――」

部屋の入り口から会話に加わる声に、玄奘は思わず顔を隠した。
真っ赤になった顔を見られたら色々聞かれそうで――

でもその行動の方にこそ、蘇芳は目に止めてしまったのだが。

「んー…玄奘真っ赤。どしたの?何に照れちゃったの。オレの奥さんは」
「何を言っているのですか、蘇芳。私は照れてなどいません」
「照れてないって…おーい金銀。玄奘に何言った?」

動じていない振りをする玄奘の横に座りながら、金閣銀閣に矛先を向けたのに、何故か玄奘が慌てて口を挟んだ。

「何も!!言われていません」

勢いづいて言った後、ニコっと不自然な微笑みを浮かべて座る玄奘に、顔色を変えたのは銀閣だった。

(あわわ…姉様…玄奘さん怒っていませんか〜)
(何を見当違いなことを言っておりますの!今がチャンスですわ!蘇芳様にも…)
(ダメですよ〜いくら友人でも踏み越えちゃいけない領域ってものがあると思いますよ。それに…姉様の考えていること、ぼくにはわかっているんですからね)
(・・・・・・・・・あら、わかっておりましたの?)
(姉様はわかりやすすぎですよ〜それなら退散といきませんか)

こそこそと耳打ち話をする二人の視線の先には、明らかに蘇芳を意識する玄奘と、どこか不満顔の蘇芳の姿。

「…そうですわね、それではわたくち達はお邪魔のようなので失礼いたしますわ。蘇芳様、ゆっくりお休みくださいまし」
「仕事の方も一段落しましたし、呼びに戻るまではお二人でごゆっくり〜」

ほほほ、と高笑いを残して去っていく金閣と、では〜と無邪気な笑みを浮かべて去っていく銀閣の二人の背中に、玄奘はああ、と思わず手を伸ばしかけた。
あんな、爆弾みたいな会話をした後、急に二人きりにするなんて…どうすればいいのか。

パタン、と無情にも閉まったドアを見つめた後も、しばし無言の状態が続いたのだが、口を切ったのは蘇芳だった。

「玄奘、まだ顔赤い。照れてんじゃないのなら熱があるんだと思うよ、休む?」
「いえ…体はすこぶる元気で…」
「じゃあ何で顔が赤いのか、教えてくれるんだろ?ホント、こんなに真っ赤になっちゃってさー…」

すいっと息遣いが知れてしまうほどの距離まで近づいて、覗き込まれる。

「あんたをこんな風にしていいのは、オレだけ。金銀に赤くされてるなんて…納得いかないんだけど」
「別に…深い意味は…」
「あったら困る。…あーだめだ。そんな可愛い顔、絶対あいつらにだって見せたくないんだけど」

非難するように、いつもの優しく触れるキスでも、熱を伴うような深いキスでもなく、唇をカリっと甘噛みされて。
責められているのか、愛されているのか、曖昧な愛撫を続けられて。
隠し事なんて出来そうにない。手は、彼の背中に添えるのが精一杯で…いつまで経っても胸の鼓動が落ち着かない。

「赤くなったのは…蘇芳、あなたにです」
「…オレ?よくわかんないんだけど」
「か、間接的に、ということです。それ以上は言えません」
「間接的に、ねー…ま、あんたが赤くなっている原因がオレだっていうなら…それでいーよ」

ようやく、素直に重なった唇。
優しく触れ合った後、眩暈のするような甘く深い口付けへと変わっていく。
蘇芳に与えられた口付けに翻弄されたまま、彼の背中をギュっと掴んだ。

ふわっと体が浮く心地が、とても気持ちいい。
ふわふわした甘い気持ちに、途切れさせないような蕩けるようなキスが降り注いで。
躯の芯が熱く潤む――

「…玄奘、せっかくだから…あいつらのご期待に応えようか」

いつの間にか背中には冷たい寝具が…
その冷やりとした感覚にゾクっとする間もなく、蘇芳の手によって背筋に走りぬけるような感覚が巡る――

…でも、ちょっと待って。
今、蘇芳は何と――

「す・・・・・っ」

問いかけようとしたのに、次々に与えられる甘い感触に、身体が抵抗をしてくれない――

「玄奘、可愛い。言っとくけど、あんたが悪いんだよ。オレに内緒にしようとしたんだから」
「…っし、知って…聞いていたのですね、蘇芳っ!」
「当たり前じゃん。玄奘のことならオレはどんなことでも…知っておきたいんだからさ、聞き耳立てるくらいいーの」

知っててあの…知らない態度で。
そんな器用なことをして、今この状態に陥っている…流されたままの自分が何かとても情けない…

「そろそろ戻ったらどうですか、蘇芳。やる事はまだあるのでしょう?私にもお手伝いさせてください」
「うわ、一気にお仕事モード?って言っても、今この状態から仕事に戻れとか言われても、オレ無理なんだけど」

苦笑いを浮かべて、上から退こうとはせずに、そのまま顔を埋めてくる。

「聞いて、玄奘」

触れ合った唇に抗議しようとしたのに、唇に触れる声に彼の真面目な感情が乗せられていて――
視界を埋める蘇芳の瞳が、思わず黙ってしまうほど、背中に腕を回してしまうほど、熱が込められていて――

「今、離れるなんて無理。あんたを愛したい―」

どんな仕草だって、見逃せないくらい可愛くて。
きっかけがなんだって、理由がなんだっていい。
って言っても無理強いはしたくないけど、背中の手が・・・いやじゃないって教えてくれているし――

離れるのではなくて、身体を寄せる。
真っ直ぐに自分を見上げる瞳に、愛しさを込めて唇を落として――

「・・・もう・・・私も…今離れるのは無理なようです」

こんなつもりじゃなかったのに、こんな風に愛しさを告げられては…傍にいたいのは自分だってそうなのだから離れられる筈がない。
背中に回した手をそのまま、蘇芳の首に回して。
少しの唇の間の隙間を埋めた。

ゆっくり離れれば、あんまり見られない蘇芳の赤くなった顔――

「ふふっ」
「あー…なんか最近こんなのばっか。玄奘に勝てない気がする。…あーでもオレだって、負けてないよ。玄奘?」

甘いキスが降ってくる。
肩口に触れる蘇芳の髪がくすぐったくて、そっとゆっくり梳きながら抱き締めて。
吐息に誘導されるように躯をじらしながら、その熱に身を任せた。

素直に重なった温かさが、幸せで満たしてくれる――





「…姉様〜…入れませんね〜」
「蘇芳様がお幸せなら、それでよいのです。…それに仕事は一区切りついたのでしょう?」
「え〜もうこういう時間を過ごしたいが為に頑張っているんじゃ…と思うくらいですよ〜ラブラブですね〜」
「その為に頑張っているに決まっていますわ!あと、もちろん冥界の為にもですわね。同時に大切なものへの責任を担う蘇芳様…素敵ですわ〜」

惚れ惚れ…っといった金閣に、銀閣はまあ蘇芳様は頑張っていますけどね〜と相槌を打ってから、あの…と言い難そうに続けた。

「姉様は早くやや子を抱きたいんですよね?」
「ええ。そうですわ。こんなに睦む時間を作っていらっしゃるのに…何故ですの?」
「無理やり二人きりにすれば必ず…居づらい空間を作っていますもんね〜でもそれが原因だと…ぼく、思うのですけど〜…」
「え?どういう意味ですの?」

二人きりになる時間が、増えれば増えるほど…そう思っていたのに。
金閣が銀閣の言葉に目を丸くしているのに、銀閣はなお、言い難くなったのか声をごにょごにょと小さく絞る。

「いえ、あの〜…ほら、蘇芳様は人間ですから。人間の本に以前書かれていて…」
「何がですの?はっきりおっしゃいな!!」
「ですから、子供が出来ない王が、数日身を清め、というか大人しくしていたことによってとか何とか…」
「ああ、ありましたわねそんなお話、人間というのは大変・・・・・・・・はっ!?」

金閣はようやく本の内容を思い出した。
そうだ、確か何人も愛妾のいる王だとかで…その本を読んだ時には何とも思わなかったのだが――
それだと自分は…逆効果のことをしていたのだろうか。
むしろ、二人の間には暫し触れ合わない時間が必要だったということか――

「な、何を今更言っておりますの!!どうしてもっと早く思い出しませんのー!?」
「ええっ!?ぼくのせいですか〜!?ひどいですよ〜横暴です〜こんな事を考える姉様が、元はと言えば悪いと思いますけど」
「まっ…そ、それよりどうしましょう…蘇芳様と玄奘にそんな時間など…」

一緒にいたら、すぐに甘い空気になる二人。
公の場ならともかく、今のように部屋にいるのに何もするな、などどうして言えようか、いや無理だ――

「まあぼくは一足先に仕事に戻ってきますね〜」
「まっ薄情者!!」

キ〜ッ…

二人の睦むすぐ扉の外での会話。
うるさかったのだろうか(当然)

冥界の代表たる蘇芳と玄奘の部屋の扉がゆっくり開いた。
ま、まさか筒抜けだったのだろうか…ごくり、と唾を飲む二人の前に、笑顔のまま風格を備えた蘇芳が仁王立ち。

「金、銀。…うーるさい。台無しだよ。何邪魔してくれちゃってんの」
「す、すみませんっ蘇芳様〜すぐに退散しますので〜!!」
「ああっ蘇芳様…その覇気がたまりませんわっますます成長なさるご様子、幸せですわ〜!!」

何て立派な…
思わずそう感嘆する金閣に、蘇芳は満面の笑顔で告げた。

「金…そう思うなら、今はその幸せで我慢して。金銀の言うとおりなら、当分『子』は望めそうにないから」
「はいっ?」「わわ…っ姉様しっかり…」

目をパチクリする金閣に、おろおろする銀閣。
そんな二人に、蘇芳が今度こそ、開いた扉をもう一度閉じながら、その隙間から幸せそうな笑顔を向ける。

「だってさ、オレ、玄奘を…愛しても愛しても愛し足りないから…自粛なんて無理だっつってんの」


今日も冥界は、平和に一日が過ぎていく――





END










むぅ☆様

お、遅くなりました!!
リクエストありがとうございました!!

初めて蘇玄書いたのですが、ちゃんと蘇玄になっているでしょうか?(ドキドキ)
金閣銀閣オチで、とにかく甘く幸せそうな日々を…っと思ったら…
こんなネタになってしまいました^^;
オチとか本当にひどいと思うけど…こ、こんなのが好きですっ

金閣が崩壊しすぎた感じがしますけど、楽しんでいただけると嬉しいです!!

甘さ大丈夫でしょうか。
むぅ☆様にOKと認定されるとホっとするので審査よろしくお願いします(笑)