か~る様リクエスト




薄桜鬼:斎千SS
※か~る様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。




『風凪ぐ一時』


・屯所時代のお話です。
・二人は恋人設定です。
・ぬるいですけど、R-15です。





京に籠る、あのうだるような蒸し暑さはどこへやら。
今日は珍しく、やけに風が強い。
吹きすさぶ秋風に舞う落ち葉を、斎藤は目の端に留めながら、周囲にもさりげなく気を張り巡らせていた。

浅葱色の隊服を身につけていては、大体の者はなりを潜める。
ただ、新選組に近づかない方がいいと…遠巻きに見ている者に怪しい者はいないか――
無表情のまま、巡察をこなしていた斎藤だったのだが、屯所にしている西本願寺へと足を踏み入れると、ある一点をじっと見つめた。
ほんの僅か目を細め、気付くか気付かないくらいの優しい表情になる。

視線の先では、千鶴が竹箒で境内の落ち葉をまとめていた。
気の向くままに吹く冷たい強風に、その小さい肩を震わせながら落ち葉を追いかけている。
小さい背中は、彼女が女性だと如実に示すように細く――

斎藤は隊務の終了を告げると平隊士を解散させ、そのままいつものように土方に報告を―と向かう。
けれど、その道筋は逸れ、気が付けば千鶴の傍に向かっていた。

「千鶴―」

後ろからかけた声に、振り向いた千鶴は斎藤をみとめる前から笑顔だった。
声だけで、自分だとわかってくれたのだと思うと、どこか嬉しいように思う。

「斎藤さん、巡察からお戻りですか?おかえりなさい」
「ああ、ただいま」

そんな会話さえも邪魔するように、風が音を立てて落ち葉を舞わせる。
思わず目を瞑って「ううっ」と寒そうにする千鶴の様子に、斎藤はふっと息を漏らした。

「今日は冷える。こう風も強くては掃除にもならないだろう。部屋に戻った方がいい」
「大丈夫です。私・・何かしていた方が落ち着きますし。こんなことくらいしかお手伝い出来ないし…」

きゅっと竹箒を握る手を強める千鶴に、斎藤は暫し思案した後、こう告げた。

「では、俺も手伝おう。俺が副長に報告を済ませてくる間くらいは、休んでおくといい」

そのまま背中を向ける斎藤に、千鶴が慌てて行手を遮るように回りこんで来た。

「そ、そんなつもりじゃっ・・あの、だって今巡察から戻ったばかりですし、お疲れでしょう?」
「問題ない。剣の稽古でもしようと思っていたところだ」
「それなら・・稽古をしてください。こんなことなら私でも出来るし、お手を煩わせる訳には・・」
「いや、屯所での生活のこういう働きも、皆で振り分けるのが規則だ。千鶴一人にさせる訳には―」

頑として、報告が終わればここに戻って来て、本当に掃除の手伝いをするであろう斎藤に、千鶴は一瞬ためらった後、
「・・部屋に戻ります」と項垂れた。
その様子は、本当にこの寒い中掃除がしたいように見えるが…

「…部屋に戻って不都合なことでもあるのか?」
「いえ、何も、…ないです」
「………」

明らかに、何かあるのにないように言い張っている様に見える。
それでも無理に聞こうとはせずに、じっと千鶴の瞳に問うように見つめる斎藤に、根負けしたのは千鶴だった。

「・・・・・・・・・・・・怖いんです」
「怖い?何かあったのか」
「風のゴウゴウ響く音とか、葉の擦れる音とか、枝のしなる音とか」
「・・・・・・・・・・」
「風が強くって皆さんの声もあんまり聞こえなくて、部屋に一人きりのような気がして・・・」
「・・・・・・・・・・」

言いながら、自分の発言が恥ずかしくなったのだろうか。
段々声を小さくする千鶴の言に斎藤はじっと耳を傾けていたのだが。

「…外は冷える。中に戻った方がいい」
「はい、変なこと言って・・すみませ―「それでも、千鶴が構わないと言うならば…」

千鶴の言葉に、自分の言葉を重ねて斎藤は柔らかな微笑みを向ける。

「稽古を見るのが退屈でなければ、見ていくといい」
「・・いいんですか?」
「ああ」
「あ・・・是非・・ありがとうございます。斎藤さん」

どこか怯えていた表情が一転笑顔になって、斎藤に礼を告げる。
千鶴がぺこっと頭を下げた途端にまた冷たい吹き下ろしの風。
さらけ出す隠せない首元を守るように、咄嗟に縮まる千鶴に斎藤は無意識に襟巻に手をかけた。

「・・・・・・・・」
「冷たい――どれだけここにいた?」

自分の襟巻を千鶴に優しく巻きつけながら、自分の指先に触れた千鶴の肌の温もりがないことに気が付いて。
襟巻を巻き付けた後、赤くなった耳たぶに目を向けそっと触れる。
触れる場所はどこも冷たくて、誰も気がつかず、千鶴を一人にしていたことが…どうしようもない事だとしても、もっと早くに気がついてやりたかったと思う気持ちがある。

「・・・・・・・」

沈黙の答えしか得られないことに、斎藤が意識を千鶴に向けた。
赤くなって見上げてくる千鶴の表情に、今まで意識せずに触れていた指先が、どうしようもなく居心地悪いものに思えてくる。

だけど、触れたままでいたい――

そんな感情がぽつっと頭に浮かんでは消えずに、それにまた動揺して。
熱を伴ってきた頬をごまかすように、背中を向けた――




「…気に入らんな」

今日は、ここ屯所に取り立てて用事があった訳でもない。
たまたま近場に赴く用が出来て、その帰り―

通りがかった境内には、雪村千鶴が一人でいた。
呑気に人間にいいように使われて、掃除をする千鶴を視界に入れながら、風間は不快そうに唇を歪ませた。


いつか、何の巡り合わせか、運か―見つけた貴重な女鬼。
最初は…時代の流れにそぐわず跑く新選組の者どもを蹴散らし、掌で弄んだ後―
興が覚めれば連れ帰ればいい―そんな程度の存在。

新選組の者も、度重なる襲撃、他に守らなければいけないものもある中…この女鬼を守り続けることは無理だろう―
放っておけば、いずれ手に入る―そのように胸の内深層で軽く考えていたのだろうが…
こうして雑用に追われる千鶴を目にするのは、不愉快なことこの上なかった。

しかし今、沸々と込み上げてくる感情は、そういう枠にどこか当てはまらない。
少し前に巡察から戻って来た彼らの一人、斎藤が今はずっと千鶴の傍にいる。
二人の繞う雰囲気は、いつものそれとは違っていた。

一度、視線を外した後、もう一度絡んだ視線は今、外されることもない。
千鶴の斎藤に向ける安心しきった、心を許した態度にもいい気はしないが、何より――
斎藤 一の千鶴を見る目――

成り行きで預かり守ることになった女を、見る目ではなかった。

風間は自身の内心の苛立ちの理由など理解しようとも思わなかった。
刀の鞘に手をかけながら、自分が今千鶴を連れ去るに至る理由を頭に思い浮かべる。

奴らが守り切れず、自分の知らぬところで千鶴が…誰かも分からない人間に斬殺される事だってある―

そうだ、だからだ――と一人ごちるとそのまま、気配を隠すことを止め二人の方へと向かった。

風間の隠そうともしない気配は、すぐに斎藤に知れることになる。

千鶴を逃がそうにも、風間一人だとは限らない―
いつも共にいる天霧や不知火がどこかに潜んで機を覗っているかもしれない――

そう考えた斎藤は千鶴を走らせるより、傍で守ることを選んだ。
何より、風間の今の殺気は凄じく、これに皆が気が付かない筈はない― そう信じていた。

風が巻き上がる中、ゆっくりと刀を抜き、風間はその刀身を斎藤に向ける。

「貴様如きが―我が嫁に触れるな」

地を這うような低い声で、抜き身に殺気をも繞わせて――

隙だらけに一見見えるのに、その実隙がない―

その刀を振り下ろす為の動きなど、少しも千鶴には見えなかった。
一瞬でキンッと刀の金属音が風の音に混じる。

「・・・・・・・くっ!!」
「どうした、その程度の腕で――まだ守れるとほざくか」

風間は、今、簡単に自分を不利な状況に陥れ、あざ笑うように唇を吊り上げている。
片手で、余裕ぶって持たれた風間の刀は、こちらがいくら全力で力を込めても揺るがない。

「貴様では守ることなど無理だと、思い知るがいい―― 守ろうとしてるものの価値も知らずに―― 守るという言葉を口にする愚かさを」

「――価値…」

未だ力で押されたままの己に歯噛みしながら――斎藤は体ごと刀を押し返そうとしていた。
風間はそんな斎藤を刀越しに一瞥しながら、顔を真っ青にして助けを呼ぼうとしているのか、じりっと交代させる砂利音を立てる千鶴に言葉を続けた。

「お前は我が妻となるのが道理だ。女鬼は貴重だと言ったであろう―」
「…・・・・・・・」
「お前を必要としているのはこいつらではない、俺だ――鬼の血脈を残す為―…」
「勝手に、決めないでください―私は・・・」
「そのような強情を張れるのも今の内だ。雪村千鶴―お前をここに縛り付けるものがあるなら――…」

風間はにやっと顔を歪めると、刀に込めた力を抜き、均衡が崩れた斎藤のぐらついた体に狙いを定める。

「斬り捨ててやろう」

言葉と共にまっすぐに剣閃を描き、斎藤に向かう風間の刀。
風間と斎藤を隔てるものは何もなく、そのまま体に沈むと思われたのだが――

淡い桃色の生地が視界を遮る。
躊躇せずに突くように押し込めた刀は僅かな感触を残すばかり。

「・・・・・ちっ・・・」

外したかと刀を構えなおす風間の足元に手拭いがはらっと落ちて。
それが、斎藤を庇おうとした千鶴の袂から落ちた手拭いだとわかって、風間は顔を更に歪めた。
風間の目の前には、倒れるでもなく、千鶴を咄嗟に庇いつつ、剣戟を逸らし最小限の出血に止めた斎藤がいた。
斎藤は、顔をあげずにそのままゆっくり口を開く。

「・・・・価値、貴重―…そんなものは関係ない」
「…何?」

顔をあげた斎藤の、滾る怒りをそのまま瞳に込めて、半眼で睨むその佇まいには――風間以上の殺気が溢れていた。

「千鶴は、千鶴だ―― あんたにとっての千鶴は、そんな言葉で括れるものなのか」
「・・・・・・・・・」

斎藤はゆっくり手を刀にかける。
指を一本一本―添えて、力を込めていく。
その気迫に飲まれそうな錯覚さえ、覚えそうで――

「―――・・・・・」

怒気で帯びた言葉よりも、その静かな瞳に射抜かれるように圧倒される――

弧を描いた剣閃は、瞬く間に風間に届く光に――…


「駄目です。斎藤さん…土方さんは休めっておっしゃっていました」
「・・・・・・」

斎藤の意思を汲み取ったのか、千鶴が座るように促してくる。

…あれから、土方に全ての報告をし、とりあえず今日はもう休めと言われた言葉に素直に頷き部屋に戻ったのはいいのだが―
僅かに痺れるような感覚に、袖をまくり腕を見てみれば…
力みすぎたのが原因か、細かい内出血を所々に起こし、腕が真っ赤になっていた。
多少切られたところよりも、却ってその腕の鈍い感覚の方が気にはなる。

まだまだ精進が足りない――

今すぐにでも木刀を携え稽古にでも行こうかと思った時に、千鶴に窘められたのである。

「…腕、大丈夫ですか?他にもどこか怪我を…」
「いや、どこも大事ない。・・・千鶴は、どこかに怪我を負っては――」

怪我をさせたつもりはないが、千鶴はそういうことに気を遣う傾向がある。

「私は…はい、この通り大丈夫です」

笑顔で見せてくれた腕は、確かに切り傷などはなかったが――
普段言葉だけで大丈夫です、と安心させる千鶴らしからぬ行動に、内心頷きかねていた。
斎藤は無言で千鶴の腕を上げ、先ほどは見えなかった肘を見る。すると…

「・・・・・・・・・やはり怪我を・・」
「こんなの怪我とは言いません。」
「打ち身は立派な怪我だ」
「…怪我に立派も何もないと思うんですけど」

大袈裟です、と恥ずかしいのか腕を引っ込めようとする千鶴の動きを優しく拘束した。
確かに見た目は大した怪我ではないが、千鶴の場合は時間が経過すれば人より治りが早い。

怪我をした時点では、今よりももっとひどく、痛みを伴ったのでは――
そう考えて、あくまで心配そうに顔を曇らせ、「だが」と続ける斎藤に、千鶴は困ったように笑い、指でそっとその口唇を塞いだ。

「平気です。斎藤さんが守ってくれたから・・・」
「・・・・・・・・・」
「あの時、不謹慎にも…嬉しくて…」

嬉しい・・・?何がだ・・・?
もしや風間の発言のことだろうか。
ああいうはっきりした物言いに、惹かれるものなのだろうか―

斎藤の怪訝な表情に、千鶴は慌てて言葉を織りなす。

「斎藤さんの言葉に――です」

いつも言葉少なに、だけど静かな深い愛情で見つめてくれて。

そんな斎藤さんの感情の入り混じった声が、とても嬉しくて――

「私は…私です。取り立てて取り柄もないけど、役にも立たないけど…斎藤さんのことを大切に思う気持ちは誰にも負けてない、私です」

人とか、鬼とかじゃなくて、たった一人を想う一人として。
それでいいんだと思えて。

真っ赤になりながら、でも斎藤に真っ向から告げられた告白。
お互いの気持ちをわかってはいても…それでもそんな言葉や向けられた表情はどこまでも温かく、胸を甘く締めつける。

「…えっと、や、休んでくださいね。腕に効く薬が何かないか探して―…」

照れた赤い顔をごまかすように手で口元を隠して、慌てて立ち上がる千鶴を斎藤は自分の許へと引き寄せた。
自分の胸に預けられた千鶴の体は、柔らかくて、ふっと甘い匂いがする。

「薬はいい。外は風も強い。ここにいればいい―」

触れるだけの口付けをゆっくり一つ落として。
間近で見つめあう千鶴に、優しく微笑みかける。

「…あの、じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて、ここで針仕事してもいいでしょうか。」

…斎藤一の部屋に、いればいい。と捉えたらしい。
斎藤の言わんとすることを理解してない千鶴は、嬉しそうににこにこしていたのだが。

「…ここでは、針仕事は無理だろう」

千鶴にもわかるように、先ほどよりも強く腕の中に閉じ込める。
頭を埋めた先、千鶴の首筋にまた一つ、意識させるように唇を寄せて。

「・・・・・・・」

漸く理解したのか、瞬時に黙って、どう反応したらいいのかわからず、ただただ、赤く染まっていく千鶴の姿に自然に顔が緩んで。

「ここなら、怖くもないだろう―」

怖がりの千鶴の傍にいてやりたい。
あんなことがあった後に一人にさせたくない。
何かあった時には自分が助けたい。

そんなことが頭に浮かんでは、その度に触れるだけの優しい口付けを落としていった。けれど―…

「・・・はい。ここに、いたいです」

小さく呟かれた言葉は、いつもより艶っぽくて、自分を見上げる瞳も熱っぽくて、思わず息を飲む。
落ち着いていたと思っていた心は、途端騒がしくなって。
先ほどのような優しい態度でいられるかすら、わからなくなるほど理性を麻痺させる。

もう少しでまた触れそうな唇をもう一度乞うように、赤らめた目元をそのままに瞳をそっと閉じる千鶴の唇に、また一つ、口付けを落とすものの――

「ん………」

愛しさはどんどん募るばかり。
触れては離れての唇がもどかしくて、奥まで唇を塞ぐようにすると、千鶴の細腰に腕を絡ませ、一層強く抱き寄せた。

・・・・自分が、傍にいたいと…
離したくないだけなのだ、と・・・求める感情をそのまま、千鶴の肌に寄り添わせて。

「・・・・・・千鶴」

こんな時に、自分の感情を現す言葉が浮かばない。
そんな言葉どこにもない。
だからせめて、今の自分にとって、一番愛しい言葉を…千鶴の名を声で綴る。

抱きしめていた手をその細い腰から背中へと辿らせ、艶のある黒髪に插し入れて、千鶴の体を支えながらゆっくりと倒す。

「斎、藤さん…?」

慣れない状況に、戸惑いながら見上げてくる千鶴に、煽られるように深い口付けをして。
舌を絡めて、漏れる可愛いらしい吐息に止めることなどできず。
自分の袖を掴む千鶴の指の力がなくなって、ようやく離した途端に漏れる乱れた息遣い。

止めたくなかった。
今の自分の気持ちを…うまく言葉に出来なくて、だからとばかりにふと合う視線で伝える。
指で、撫でさすり…愛しいのだと伝える。

「・・・・あっ・・・・」

伸びた指先を襟元から插し入れて、僅かに膨らんだ千鶴の乳房に触れる。
指先が吸いつくように柔らかくて、それとともに高揚して目を閉じる千鶴の表情に、どうしようもなく胸がざわめいて。

声が聞きたくて唇には触れず、鎖骨の下辺りをつ…と添うように舌でなぞって。
そのまま、着物をめくりあげた先、かわいい桃色の先端をそっと含んだ。
手はそのまま、円を描くように動かせば、ぴくっと動く肢体に一層魅了されて。

外の風の音なんて、何も聞こえない。
聞こえるのは千鶴の嬌声だけ。
自分を狂わすのには十分なものだった。

「・・・っ・・・・・・んっ」

白い、雪のような柔肌を愛しんで、また、その声を奪うように深く深く唇を合わせながら…
内股から徐々に上に撫で進めて、そのまま指先を滑らせようとした時――


「入るよ、斎藤君」

一気に現実に引き戻されるように、総司の声がかかる。
我に返ってバっと起き上がり、固まる千鶴を隠すように上掛け布団をかけた。

「・・・・・もう、開けちゃったけど」

ふっと含んだ笑顔でこちらを見る総司に、斎藤は明らかに動揺した心を押さえるように静かに息を吐いた。

「・・・何用だ」
「いや、さっき土方さんに聞いたんだ。あの風間ってやつを一人で退けたとか…」
「ああ・・・しかしあれは・・・」

自分が最後に振った刀は、皮一枚も斬れなかった。
切っ先だけが着物を掠めた程度だった。

けれどあの男は退いたのだ。
刀で…力で追い返した訳ではない。
いずれ、また迎えに来る―そう言い残した風間の言葉は明らかに「女鬼」としてではなく、千鶴を求めていた気がする。
退いた理由には、そんなことも関係あるような気はするが、定かではない。

「あれは…何?」
「・・・・いや、何でもない」

恐らく、などとの推測理由を話す必要はないだろう。
斎藤はそのまま口をつぐんだのだが…

「ふうん。何だか納得できないけど」
「…また来るだろうな。その時は必ず…」
「・・・・張り切るのはいいけど、僕もあいつには借りがあるから返さなきゃいけないんだよね。本当はちゃんと話を聞いておきたいけど・・・」

ちらっと総司の視線が、斎藤の背後に向けられた。
すっと目を細めて、声が一気に下がる。

「今は聞かないであげるから、後ろ、部屋に戻しといてよね」
「・・・・・・・・・う、後ろとは・・・」
「・・・わからないと思うの?ほら、布団が微かに上下してる。誰がいるのかなあ~めくってみようかなあ」
「・・・っ総司!!」

伸ばした総司の手を急いで振り払った。
あんな姿の千鶴を見られる訳にはいかないのだから、斎藤も平静さを事欠いてしまう。

「・・・・・・・困るなら、さっさと戻してよね」
「・・・・了解した」

ずっと浮かべていた笑顔が消えて、冷たい眼差しで見られてしまった。
斎藤は、それでも頭の中で、千鶴を一人にしたくないと思っていたのだが――

「じゃ、僕は行くけど。新八さん、左之さん、平助あたりがその話聞きたがって盛り上がってたから・・・もうすぐ来るよ」
「っ!?」
「左之さんはともかく、新八さんや平助は~…うっかり布団めくりそうだよね」

にっと意地悪な視線を投げかけて、去って行く総司の背中に気を取られている場合ではなく。

「・・・さ、斎藤さん」

のそっとゆっくり起きた千鶴は、慌てて前を合わせて髪を直すと立ち上がった。

「わ、私やっぱり薬探してきますね!それでその…」

何となく、気まずい。
恥ずかしくて目を合わせられない。
お互いがそう思いながら、それでも、と相手に目を向ければ、同じ時に相手も自分を見て。
重なりあった視線に、また赤くなりながらも微笑みあう。

「やっぱり、裁縫道具をここに持ってきて…傍にいても、いいですか」
「――それは、俺が望むことだ」

ゆっくりと、一指ずつ…指を絡めあって。
賑やかな時間が訪れる前に、もう一度二人の時間に栞を挟むように、そっと口付けを交わして。

二人の耳に廊下を走って向かってくる三人の足音が聞こえるまで、離れ難さにおでこを重ねて見つめあう二人。

京にすさぶ風すらも凪いて、穏やかな陽だまりにいるように――






END







か~る様

リクエストありがとうございました!
そしてお待たせしました<m(__)m>

沖千斎千どっちにしようか…すぐ決めました!
前に沖千で風間さん登場書いていたし、やっぱり斎藤さんでしょうと。
展開が急過ぎないかな、とか。
風間さん可哀想じゃないかな、とか。
か、風間さんはね、斎千前提だから・・・本当はもっとこう…気持ちを描きたかったのですけど…
色々悩んだんですけど…

やっぱり、ほのぼのも、緊迫した場面も、甘甘なのも全部書きたい!と欲張った結果長めに^^;
微裏の方は…こ、こんなもので大丈夫でしょうか??
斎藤さんが相手でこういうのは初めてな気が…?
斎藤さんはこういう時は落ち着く人のような気がします(笑)

最後に沖田さんが出てきたのは…私の好みでしかない気もしますが(汗)

た、楽しんで頂けますように!

素敵なリクエスト、ありがとうございました!