かりん様リクエスト 

ワンドオブフォーチュン:アルルSS
※かりん様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。




『Tu dis et』




『というわけで、とりあえず俺が求めたら君は黙ってキスしてね。よろしく』

あなたは確かにそう言って。
その後、もう一度キスをしたでしょう?
奪われるような感覚なのに、優しいキスを。だから、私は―――なのに…

ピンクの瞳がすぐ目の前に迫って来る。
アルバロの吐息を、もう自分の口唇にふっとかかるくらいの距離。
少しでも動いたら、きっと触れ合う、そんな距離。
一度した、長いキスを思い出させて、思わず触れる前から頬が熱くなる・・・けれど、予感だけを口唇や頬に残して・・・

――――また

キスをすることなく、アルバロはルルから離れて行く。
最近、何を考えてるのかわからないけど、こんなことの繰り返しで。
あの時、アルバロの要求に戸惑いながらも・・・『キスくらい、いくらだって!』と叫んだ自分の決断が空回りしているようで…

ユリウスじゃないけど、意味がわからないっ!
する気もないなら…どうして、そんな素振りをするの?
私は・・嫌がってない。なのに、どうして・・・しないの?

アルバロがそんな私の感情に気付いたっていい。
むしろ、どうしてか聞きたいくらいだから。
真意を問うようにアルバロを見上げてみても、彼はいつもと変わらず、笑顔を浮かべてる。

「・・・ねえ、今の何?」
「今のって何のこと?」

さあ?ととぼけるようなアルバロの態度に、とぼけないで!とルルがそのマントを引っ張った。
遠慮なんてしてあげない!とばかりに引っ張られたマントで、アルバロが僅かに体のバランスを崩した。

「とぼけてなんかいないよ。ルルちゃんは何のことを言っているのかな…俺が、何をとぼけてるって?」
「それは・・・・・」

どう言ったらいいの?
どうして、キスしないの?・・・・直接的過ぎるような気がするわ!
何で顔を近づけるの?…適当に理由付けてごまかされそう…

う〜んう〜んと、アルバロの前で、いかにも考えています!と言う様に、こめかみを抱え込むようにして視線を彷わせているルルに。
ルルの気付かぬところで、アルバロがそれを目に留めて小さく、一瞬だけ、楽しそうに顔を歪めた。

「じゃあルルちゃん。午後の授業行っておいで」
「・・・?アルバロだってあるでしょう?」
「う〜ん。俺にはさして興味のない授業なんだよね。誰かさんと違って、受けなくても頭に入ってるしね」
「・・・・・・・・・誰かさんって誰の事」
「さあ。俺の目の前にいる、俺を睨んでるかわいい女の子じゃない?」

すっと目を細めて、冗談交じりに軽口を付け加えて。
そのまま湖の方へと歩いて行ってしまうアルバロの背をじとっと、恨めしげに見てから。
ルルはもやもやした気持ちを抱えながら、同じように背を向けて教室に向かったのだった。


午後の授業が終わって、もう寮に帰ろうか。
そう思い見渡してもアルバロの姿はなく。
結局午後のは全部さぼってる!ってブツブツ思う気持ちがいつも以上に強くって。
いつも以上にそんなアルバロにイライラしてる。・・・・何でだろう?


「・・・ルル、おまえその顔。また変な顔してんな」
「・・・ラギ、変な顔してる?」
「おー。またくだらねーことで悩んでんだろ」

ラギの一言で、ルルは一瞬押し黙る。
くだらない・・・くだらないと言えばくだらないのかもしれない。
いないだけで、こんなに・・・・ううん、違う。元は・・・根底にあるのは…
アルバロからキスされないってことで。・・・そのことでどうしてこんなに悩んでいるんだろう。

元々、アルバロから言い出したことだし。強制される訳でもなく。前みたいに、ギスギスしないで傍にいるし。
・・・・それなのに私はどうしてこんなに、気分が浮かないんだろう?

「ラギ、女性にくだらない悩み、などとは言ってはいけまセンよ?ルル、大丈夫デスか?」
「ビラール・・うん、大丈夫!本当にくだらないことだから・・・」

そうだ。悩んでたって仕方ない。
アルバロには、言いたいこと言うって決めたんだった・・・
少し、聞くのが恥ずかしいと思うけど、でも、ずっとそれでもやもやしてるなんて私らしくない、うん!
あとはどう聞くかを考えなきゃ!

ルルが一人でそう結論付けて、うんうん!と頷いた時。

「へえ・・・そのくだらない悩みって何かな?気になるなあ」

探してた人物の声がいけしゃあしゃあと耳に届いた。

「アルバロ!どこにいたの?さっきの魔法応用学のはアルバロだって受けなきゃ駄目だと思うわ!」
「ああ・・・そうだね。だけど俺がいない方がいいかな?って気を遣ったんだよ」
「・・・誰に?」
「・・・俺が、君以外の誰に気を遣うのかな」

・・・・・誰にも気なんて遣わない癖に!
それも私には特に!…気を遣っていないと思うんだけど!

そんなルルの反応すら、手玉に取るように目を細めながらルルを見つめるアルバロに。
ルルは自分の手を伸ばした。
ラギとビラールの視線がちょっと気になるけど、見えない強固な鎖だけではどこかに行ってしまうアルバロ。

「・・・アルバロ、手」
「はいはい。じゃあね、殿下、ラギ君」
「ハイ、二人とも。また明日」「おーまたな」
「うん!またね!」

繋いだ手をぎゅっと握った。
繋いでいない手で大きく手を振り、そのまま歩き出すルルに、何も言わずに大人しく付いてくるアルバロ。

・・・・手は・・・簡単に繋ぐのに・・・

ふと、そんな考えが頭に浮かび二人を結びつける指に目を落とす。
嫌々そうに返事した割には、しっかりと絡められた指が、嫌ではなく、そうしたいと主張しているような気がするのだけど・・
そんなことに頭を巡らすルルに気付いたのかどうなのか、不意にアルバロがその指を緩めて、手を、放した。
やっぱり、気のせい・・・?首を傾げながらルルが顔をあげると、笑っていない瞳と共に、不自然な微笑みを湛えてじっと見つめる瞳に思わず肩を揺らした。

「・・それで?くだらない悩みって?ここのところずっと、ぼんやりだね」
「・・・知ってる癖に。本当はわかっているんでしょう?」

そんな、『悩み事があるんだ、大丈夫?』なんて…心底心配して聞くような人じゃない。

「君のことを、俺が何でも知っていると思う?」
「思う」
「・・随分きっぱりだね・・・それくらいきっぱり、悩んでることも言えばいいのに。」

呆れたように、わざとらしく首をすくめた後、すっと真顔に戻る。アルバロの素の表情――

「好きなようにすると俺に言い放ったお前は・・どこにいった?最近のおまえは・・・また前に逆戻りか?」
「違うっ!だってそんなのアルバロが…」
「…俺が?」

問い返すアルバロに腹が立ってくる。
大体、アルバロの言っている事とやることが反対だから、こっちがそれに振り回されてるのに!

「求めたら黙ってキスしろって言っておいて・・・いっつも、結局しないし!」
「・・・・・・・・・・・・」

むかっとなるままに、恥ずかしさに躊躇していた言葉をそのまま口にすれば、アルバロの目が少し細まる。
でも、相変わらず答えをくれないその口が・・・憎らしくも感じられる。
どんどん、胸の中がむかむかするのに耐えきれず、下を向く。それでも言葉が止まらない。

「私は恥ずかしがってたのに。しないならそれでいい、でもいつまでも納得しないよ〜みたいな事言っておいて!」
「・・・・・・・・それで?」

それでじゃないっ!興奮しすぎて、頬どころか耳まで熱くなってくる。
知らず力を入れて握りしめる拳は先が白んでいる位だった。

「キスしないとたらしこまれないからねって、そんなこと言って、私にキスを承諾させておいて。楽しみにしておくって言っておいて・・・しないじゃないっ!」

バッと勢いよく顔をあげる。
目に入るアルバロはいつもと全く同じ表情で・・・
その温度差が・・怒りを超えて、むなしくて、悲しくて・・・寂しい・・・

「・・・だから・・・・・ずっと・・・・」
「・・・どうしてそれで悩む?俺に言われて、そうすることを強いられてるなら今の状態を喜ぶべきじゃないのか?」

むかむか、もやもや、やきもき・・・言いようのない変な気持ちを抱えて。
恥ずかしい思いよりもずっと強く、キスを待っていた自分に…今更、気付かされる。
・・・・待ってた、ずっと待っていたのだ。アルバロのキスを。
傍にいたい、と思った人。どんな人でも、たった一人の人・・・・・だから・・・・

「そんなの、わかってる癖に・・・わかってる癖に・・・意地悪っ・・・・」
「何とでも言えばいい、俺にはわからない。言いたいことは、ちゃんと言え」
「…私、傍にいたいって思ってる。キスだって…いきなりされたり、抱き締められたり、恥ずかしいけど嫌…じゃ、ないっ」

涙まじりの鼻声で、目はもうボロボロで。
子供みたいに泣きじゃくる私に、きっとアルバロは呆れてる。そう思うのに…
馬鹿にしないで、静かに「それで?」と言葉が返された。

「・・・それで、って・・・?」
「何を望んでいるのかって聞いてるんだよ、ルルちゃん」

急に、声が優しくなった気がした。
問い詰められるような鋭い声でもなくて、私の答えを求めてくれるような声に、促されるように―――

「…キス、してほしいの。アルバロが好きだから・・・してほしい」
「・・・・・・・・・・・」
「私が求めたら…アルバロだって黙ってキス、して…っ―――」

抱き締められる訳でもなく、頬に添えられただけの手。
頬をそっと指が撫でて、そのまま、ピンクの瞳に魅入られれば・・・
吐息をゆっくり感じられるほど近くに、彼の口唇。

・・・また、きっと・・・

このまま、遠のくんだ。そう思ったのに、一瞬軽く触れたような感覚。
触れたの?と迷うほどの感覚を消していくように、啄むようなキス。
優しく、何度も、…いつの間にか頬に添えられた指が髪を梳くように頭に回されて。
軽く、髪を梳いて指に絡みつけるのと同時に、心地いい感覚に包まれてうっすら目を開けば、アルバロの、見たことのないような穏やかな瞳――

アルバロからのキスは…優しくて。
前も優しかった。けれど、あの時は奪われたような、そんな感じもあったのに…
今は、今触れ合う口唇は、お互いを求め合うような、そんなキス。

一度重なった口唇は離れることを嫌がって。
無駄にした時を取り戻すように、お互いに熱を加えあう――





夕陽すらとおになくなって。
暗い月明かり示す帰り道。
二人の手はしっかり繋れている。

「・・・・・・・・・・・・絶対、わざとでしょ。絶対そうだと思うの!」
「まあ、そうだろうね」
「言い切った!今言い切ったでしょう!?やっぱり〜!!」

ルルが何に悩んでいたのかったわかってて。あの態度。
おまけに恥ずかしいことを言わされて…
どんどん、負けていくような気がする…

「だってルルちゃん。俺はまだ君を好きって納得してないけど。君は俺のことが好きなんだよね?」
「・・・・・うん」
「なのに、俺にばかり求めさせるのはどうかなあと思っただけなんだけど。間違ってないと思うよ」

いやあでも、あそこまで求めてくれるなんて思わなかったよって、どこか勝ち誇ったアルバロの笑顔に、ルルは口を尖らせた。

「あ、アルバロだって…求めてると思うの!あんなに長く…その…」
「キスね。今更照れなくてもいいんじゃない?」
「照れない方がおかしいと思うの!」

どうしたって、顔に出るのは自分で。
自分ばかりが好きというような気持に振り回されて。
いつか、振り回してやる…そんなことを心に誓いつつ。

「・・・・あれだけして、納得、ちょっともしないの?」
「納得しないから、長くなるんじゃない?」

楽しそうに笑うアルバロ。
ルルは少し肩を落としそうになる。
どれだけしたら、納得するんだろう…?というか…

「アルバロ、納得しても言いそうにないと思うんだけど。素直に言う気ないんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

黙っていつものように微笑むアルバロに、ルルの心がトクンと脈打って、繋いだ手に力を込める。

「黙ってるってことは…アルバロ、今、納得するかもって思ってるんだわ!もしかしたらもう…納得してるかも!」
「…随分都合のいい解釈だね」
「だって、違うなら『そうならないと思うけど。』とか言いそうだもの」

単純だと思うけど。
さっきのキスは…もやもやしていた心をかき消してくれて。
今は、好かれてるってそんな気持ちが強くて。
だから、少し胸張って、自信を込めて、アルバロを見つめるルルの瞳は揺らぐことなく。

強い意思を込められた瞳に捉われたアルバロは、そのまま…見る間に二人の間に距離はなくなって。

もう一度交わされたキス。
噛みつくようなキスの後、離れ間際にもう一度だけ、先程の様な優しいキス…
突然のキスに理由をつけるように、アルバロが口を開く。

「君が求めたら…俺が黙ってキス、だったよね」
「・・・・今、別に求めてないもの」
「そう?早く納得して。そのためにいっぱいキスして…って顔に書いてあるよ、ルルちゃん」
「・・・・・・・アルバロの意地っ張り」
「どっちが」


寮に戻るまで、一度も、離されなかった絡めた指。
二人を縛る鎖よりも、二人を結びつける感情が育ち咲く証――








END









かりん様

アルルSSリクエストありがとうございました!
あんな感想漫画から…素敵なリクをくださり嬉しいです!

アルバロさんがキスなかなかしてくれなくて。
ルルに言わせて…ルル、キレ気味ですみません^^;
もっとかわいく言わせた方がいいっって思うのに。
何でしょう…ついつい、あのつねりあいが頭に浮かんで…ケンカみたいに…

さ、最後はバロさんの作戦にはまりつつ、
甘くまとめようと…が、頑張りました!(アルバロはルル大好きですよね笑)

こんなものでよければ受け取ってください!
あ、タイトルは『君が言って』って意味です。アルバロさんの感情そのままです(←)
ではでは、本当にありがとうございました!!