Akira様リクエスト




薄桜鬼:沖千SS
※Akira様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『きすすいの告白』
※屯所時代です。
 沖→千な感じですが・・甘くしたつもりです。



静かな秋日和。
澄み暮れゆく夕空に、星や月がその姿を現してくる。
次第に闇に染まる空に、その星々が淡い光を放ってきた頃。

芸者と月を愛でながら酒を、と出かけるもの。
屯所の僅かな閑時を好んで、残り銘々で自分の時間を過ごすもの。

総司は後者だった。
庭に少し落ちだした葉を見つめ、少し肌寒い寒気に肩を少し震わせると、殺していた足音をわざと立てて。
ある部屋の前でピタっと止める。
目的の障子戸の内から、こちらを覗うような気配を感じながら、ゆっくり声をかけた。

「千鶴ちゃん、ちょっといい」
「・・・沖田さん、ですよね?」
「・・・他に誰がいるって言う気?入るよ」
「え、は、はいっちょっと待っ――」

部屋の主、千鶴が慌てて身づくろいする気配を感じながら、総司は遠慮なく部屋に入ったのだが。
まだいいと言ってもいないのに、ずかずかと入り込んでくる総司に僅かばかりの咎めるような表情を向けて、千鶴はなんですか?と向き直った。

「・・・なんですかって。これ、僕の手に持ってるもの見えない?」
「・・・お酒と、杯です。晩酌…ですか」
「うん。たまには手酌を、と思って。君が相手なら屯所じゃないと難しいしね」

総司は両手に持つ酒と杯を千鶴に見せながら、そうでしょう?と同意を求めその場に座り込み、千鶴に傍に座るように促した。
千鶴は、はあ、と頷き傍に座り・・・首を捻った。

・・・あれ?沖田さんは手酌をして欲しいってこと、だよね?

総司から酒を受け取って酌をしようとしたのだが、何故か、酒を渡そうとしない。
それどころか、はい、と杯を渡そうとする。
一つしかない、杯を――

「ほら、早く持ってよ。酌出来ないから」
「・・・も、持ってと言われましても・・その、私お酒はあんまり・・・」
「いいから。・・・それとも何?僕の酌では吞めないって言いたいの」

ぎろっと横目で睨みつけられた方がよかったのかもしれない。
形だけの笑顔を張り付けて、声は上から押さえこむように言われるからたまったものじゃない。

「い、いえ!そんなこと・・・でも、その、上等なお酒みたいだし。私より沖田さんが召し上がった方が・・」
「これ、あんまり好きじゃないからいらない」
「・・・・・じ、じゃあ・・・原田さんとか永倉さんに・・「僕は君と吞みたいの、ほら、早く」

早く、と言いながらも手をガシっと掴まれて、無理やり杯を渡された。

君と吞みたいって・・沖田さんの杯はないのに・・・

そんな風に思いながらも他に断れる理由もないまま、流れに身を任せていれば、たちまち、なみなみと注がれるお酒。

ちらっと総司の顔を覗えば、先ほどとは一転。
楽しいのか、こちらが吞むのをじっと笑顔で待っている。

・・・沖田さんの気まぐれ、今日は何なんだろう・・・

総司は、何も理由もないのに、あるように装って意味深に笑う時がある。
本当は理由があるのに、ないように装って無邪気に微笑む時がある。

・・・・今日は、どっちかな・・・

千鶴は『どうせ吞まなければ解放されない』と覚悟を決めると、一気に酒を煽った――



ふらふらと頭を右に左にとふらつかせて。
時折あげる顔は赤く染まって。
ふにゃあ・・と漏れる力の抜けた千鶴の笑みに、「はいはい、おかわりね」と言いながら総司は酒を注いだ。

杯を持つ千鶴の手はもうたどたどしくて、口まで運ぶまでにその手に、寝着にぽたぽたと酒が滴り落ちていた。

「・・・酔っぱらい。ねえ、さっき僕が部屋に入る時、他の誰かもしれないって思ったの」
「・・・・・おいしい・・」

総司の言葉を理解してないのか。
泥酔状態の千鶴に答えろというのも無理なのだが。

「君、簡単に部屋に入れるもんね。平助かな~左之さんかな~・・土方さん・・は、君が行く側だしね。・・・斎藤君かな~」

総司の言うことはさておき、こくっと口に含んでは、ゆっくりと喉に通らせて、千鶴はふぅ~と満足気にまばたきした。

「今日みんなに言われたよ。あんまりからかうなって。からかうっていうより、暇な君に構ってあげてるんだけど」

沖田さん~と呂律の回らない舌足らずな声で杯を差し出してきた。
その杯を、「もうおしまい」と取り上げれば、ふぇ・・と泣きそうな顔をして。

「へえ、それ泣き落とし?う~ん、でもこれ以上吞ませると・・言えそうにないし」

総司が取り上げた杯に、ふらふらと手を伸ばして。
総司が千鶴の手に渡るように力を緩めた途端、嬉しそうに顔を見上げた。


「・・・君って単純だね。君は単純で、馬鹿で、わかりやすくて、素直なんだから・・・君らしくしなよ」

酒に手をかけて、千鶴の持つ杯に少し傾ければ、注がれるのを待つように期待した顔。

「僕が話しかけたら、子犬が懐くみたいに嬉しそうな顔・・するでしょう?そんな風に素直に―」

とくとく、と注がれた酒。
杯にまた、なみなみと注がれた・・・なのに、総司は酒を傾けたまま。
千鶴はとろんとした目を不思議そうに白黒させて、杯と総司の顔を見比べてる。


「素直に、僕に『好き』って言えばいいのに」

杯の容量以上に満ちた酒は次々と千鶴の指や手を伝って滴り落ちていく。
それでも止めずに、酒を傾けたまま。

「早く言わないと、お酒なくなるよ。いいの?」

君の気持ちなんか、どうでもいい。
でも、君と話すのは・・案外、楽しい。
笑顔も、怒った顔も、拗ねた顔も、一生懸命な顔も見てて飽きないって思ってた。

ずっと、そのままで。
それ以上には変わらないって思ってた。
君が僕にからかわれるのを嫌がって、離れはするかも。とも思ったけど・・君は離れるどころか寄って来て。

いつからだろう―― 君が僕を好きなんだって思ったのは

いつからだろう―― それが、僕が君を好きだから持つ、希望だったんだって気が付いてしまったのは

「・・・・・やっぱり、言わないか。・・君はいつも、誰にでも、同じように笑顔だったのにね」

ぴちょん、と最後の雫が杯におちる。
酒を注ぎ切り、千鶴はがっかりした顔を浮かべているのかと思えば、酒よりも総司の方を戸惑った様子で見つめている。
その頬は、未だ酒の力で赤いまま。

「・・・・・・・お酒じゃなくて、僕で紅くなればいいのに――」

トン、と酒を畳の上に置いて。
自由になった両腕で、反らした体を支える。


たまたま手に入れた酒。
酔うと自然に口は滑りやすくなる、だから・・・

酒の力で、その場の流れで、千鶴に「好き」と言わせようか

千鶴はどんな時でも、嘘は吐かない気がした。
だから、試してみようかと思ったのだが。

思ったよりも期待していたのか、がっかりした気持ちが表に出ていそうで…総司は天井を見上げた顔を、千鶴に戻せないでいた。
その時――

「・・・言いたくない、だって・・・」

小さい声で、今までまともに会話が成り立たず、酒にばかり目を向けていた千鶴が、たどたどしく声をあげる。

「そういうことは、こういう時に・・伝える言葉じゃないから・・」

「・・・・・・・・・・・」

天井に視線は固定させたまま、総司は千鶴の言葉を頭の中で繰り返していた。

ガバっと反らしていた体を元に戻して千鶴を見れば、まだ酔ってはいるらしく、ふにゃっとした笑顔。でも――

・・・赤い顔・・紅い頬

・・・さっきより、全然、赤い・・紅いのは――

「千鶴ちゃん、誰に・・それ、伝える気?」

総司が、平気な振りしてどれだけドキドキしてるかなんて知らずに、無邪気な笑顔で返事はされた。

「沖田さんっ」

先ほどから、いつもの丁寧な言葉遣いは抜けて。
それが尚更、本心のようで…

「・・・・・・・・絶対?」
「・・?」
「絶対、僕に伝える?好きって・・」
「はい」

・・・照れずに、素直に、自分の気持ちのままに頷いてる千鶴。

恋愛事で、こんなに胸が込み上げてくることがあるなんて思ってなかった。
そんなことに時間をかけるなんて、馬鹿なことだと思ってたけれど―

総司が嬉しさを隠すように、何でもない仕草の一連を装うように、顔を隠すように手の甲を額につけつつ、千鶴を見ると…
目がとろんとして、今にも眠りそうな気配を見せている。
自分が吞ませた結果なのだが、それらしい雰囲気をもっと出せないのかとも思う。

「・・・千鶴ちゃん、君の言う『告げる時』には・・・こんな風に呑気でいられないと思うよ」
「はい」

・・・何でも「はいはい、って言っておけばいいや」で言ってるんじゃないだろうね

「・・眠い?」
「はい」
「お酒もっと吞みたかった?」
「はい」
「僕のこと、好き?」
「はい」

・・・何でもはいはいって・・言っているだけの気もする・・・

「吞ませ過ぎたかな・・これじゃつまんないな」

すっかり調子を取り戻して千鶴をじっと見ていた総司は、ついに目を閉じてしまって頭を垂れてかくかく揺れる千鶴の傍に近づいた。
今にも前のめりに倒れそうな千鶴に、自分の胸を貸す。
お酒が伝った千鶴の手を取って、酒の匂いの導きのままに口をつけて、軽く吸い上げる。

「お酒でべとべと。・・・今はこれで我慢して、明日の朝洗わせるしかないな」

朝、湯はあるだろうか?
朝晩の冷え込みで、千鶴には水を浴びさせるのは辛いだろうが。

「ま、大丈夫だよ。僕がいるし」

千鶴が起きていたら、「何が大丈夫なんですか!?」と慌てるだろうなと想像して、ふっと笑を漏らした。

千鶴が起きたら…慌ててる千鶴を離さないで抱きしめて、真っ赤にさせよう。

それで、君に絶対「好き」って言ってもらうからね。

君が、はいって言ったんだ。約束守ってよ?

知らないって言い張っても、譲ってあげる気なんか更々ないよ――


「全く、君ってどこまで迷惑かければ気が済むの?こんなに汚して・・ほら、ここも」
「すみません…全く覚えてなくって」

朝、ゆさゆさと体を揺らされて。
頭が痛い…揺らさないで―と思いながら目を開ければ「おはよう」と間近に総司の顔。
一気に目が覚めて、慌てて起きれば自分の部屋はすさまじい惨状だった。

居候の身でありながら…こんな――
自分は酔うとこんなにだらしない吞み方をするのだろうか。

青くなった千鶴に総司は何故か怒らず。
今も申し訳なさそうにしながら千鶴が、総司よりも小さな体を余計に縮こませて掃除をするのを横で眺めている。

「ふうん、全く覚えていない、ねえ…」
「はい、すみません」

しょんぼり肩を落としながらも、着物のべたつきが気になり、袖を払う千鶴に総司が笑顔を向けた。

「着替えさせた方がよかった?」
「い、いえっ!!!大丈夫です!!むしろしないでいてくれて、よかったです…」

思い切り首をブンブン振る千鶴に、総司は「そう」とにっこり笑顔を向けると…

「でも体はべたついてないでしょう?感謝してよね」
「・・・・・・・え?」

・・・ま、まさか――

「あああの!もしかして体を…拭いて・・くださったり・・?」
「ううん、拭いてはない」

・・・拭いてはないって…じゃあ何をしたんですかって・・・・・・・・

総司を見れば、にこにこ笑っているけれど。

「・・・あの、じゃあ・・何を――」
「その前に、君が僕に伝える言葉を聞こうと思って・・僕はここにいるんだけど?」
「・・・・・私が、沖田さんに?」

一体何の話だろう…

次から次へと湧く疑問についていけないまま、総司はお構いなしに話を進めてしまう。

…沖田さんが、すごく、すごくすごく…待ち遠しそうにどんどん顔を緩めているのはなんなんだろう…

「うん。素面の時に…伝えたい言葉。何だろうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・何でしょうね」
「その間、思いついてるよね」
「…っ思いついていません」

…ううっ昨日の私は何を言ったの?
でも…沖田さんに伝えたい言葉は――

「思いついてるよね」
「キャー!?」

いつの間にか目の前に立ってて、腕の中。
何故抱きしめられてるのかもわからなくて。
いや、それはいつものことなんだけど!

「千鶴ちゃん、顔真っ赤―はい、観念して言ってごらん」
「え、ええと・・ええと・・沖田さんの着物も汚れますよ」
「これで汚れるなら、もうとっくに汚れてるよ」
「・・・・・・・・・・」

それは、つまり――

「あのね、朝起こしたのは誰?」
「・・・・・・・沖田さんです」
「ずっと一緒って、何で気付かないのかな」

馬鹿だねって笑いながら、千鶴の首に気持ち良さそうに顔を埋めた。
頬を摺り寄せて、千鶴の体がこわばるのを楽しんでいるように。

「この体勢のまま、横になって一晩一緒。」
「ああああのっ!!あのっ!!」
「うん、言うことわかった?」

千鶴の首が見る間に赤くなって、慌てて自分の腕の中で必死にばたついてる。
何でこんなに素直な反応するんだろう――馬鹿だな、可愛いな・・そう思ったら――

「そんな千鶴ちゃんが・・・・・・僕は、好きみたい」
「離してくだ・・・・え、え?え?」

あ~言っちゃったよ、言うつもりなかったのに~とおちゃらけて言っても、体は正直で。
何でこんなに好きになったんだろう、と不思議に思うくらいに求めて、強くぎゅっと抱きしめて。

自分の腕の中にいる、千鶴がバタバタと必死な身じろぎした抵抗を止めて、顔を俯ける。

小さい震える君の言葉が、僕の周りを幸せで取り囲んだ―








END










Akira様

沖千SSです。
大変遅くなりまして申し訳ありませんでした。

甘めSSということで。
もう後はご指定なかったので…好きなように書いたらすごく長く…っ

途中甘くないかな、大丈夫かなと不安になりつつ仕上げました。
両想いの片想い…中の二人です。
最後は両想いをお互いわかってラブラブです!・・のつもりです!

これからも沖田さんの千鶴構いがすごくなるといいよ!と思ってます。

最後までお読みいただけると嬉しいです…v

リクエスト、本当にありがとうございました!!