くり様リクエスト




三国恋戦記:仲花SS
※くり様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『我が儘のススメ』
・ED後です。
・公瑾さんにも、元気で動いてもらっています。



「仲謀様、こちらも…」
「・・子敬、あとどれくらいある?」

朝からキリがない竹簡の山に、頭はクラクラするし、視界もはっきりしない。
竹間に記されている達筆の文字がぼやけて、仲謀は目の付け根をぐりぐりと押さえこみながら、机に伏した。
その合間に、ちらっと入り戸に目を向けたのだが…

「ふぉふぉふぉ…朝から政務に励んでおられますからな。お疲れでしょう。休憩になさいますか?」
「・・別に疲れてなんかない。やることは多いしな」

玄徳、蜀との同盟のようなものを組んだおかげで荊州は安泰。
注意すべきは孟徳のみ、けれどそれが簡単にはいかない。
日々、相手との探り合いのようなもので、揚州を守るために策を講じなければならない。

その為には、大国だけでなく、それを取り巻く小国をきちんと掌握しておかなければ埒があかないのだ。
するべきことは山ほどある。

仲謀が自分に、そう言い聞かせていた時、戸の付近に人の気配がした。
思わず立ち上がったのに、入って来た人影を見て無意識に肩が落ちたのは、期待した人物ではなかったからだろうか…

「仲謀様、今少しお時間よろしいでしょうか」
「どうした、公瑾」
「はい、預かっていた竹簡には全て目を通しまして、気になる案件が2、3あったのでそれを…」
「あの竹簡の量をもう終わらせたとは・・・さすがは公瑾殿」

子敬はこれ以上細めようのない目を、細めて感心しているようだった。
それは仲謀もで。
自分はまだ終わりきっていないことで、余計に体が疲れるのを感じる。
そんな仲謀を見て、公瑾は「いえ、私の力では・・」と返した後、仲謀を見て何故か笑顔を作った。

「花殿のおかげです。竹簡整理をしてくださって・・・彼女は仕事が早くて助かります」
「・・花の?」
「はい、・・・不思議なものですね。ぼうっとしているようで、しっかりと・・優先順位を考えて並べてくれます。さすがは伏龍の弟子、といったところでしょうか」

・・・孔明の弟子ってのはどうだかとは思うけどな。

仲謀は公瑾の言葉に胸の内でツッコミながらも、自分のことであるように誇らしげにそれを聞いていた。

この国の為を思ったことだった、と。
今では水に流したのか、以前と変わりなく公瑾と接する花。
他の者なら、きっと口ではそうは言っても、態度にぎこちなさが出る。

それでも出ない、自然体でいられる花には公瑾も敵わなかったのだろう。
今では、素直にその手伝いを必要とし、時に意見を求める姿もあったようだった。

この国で育っていない花。
彼女の発想には、自分たちには思い浮かばない、突拍子もない意見がたまにある。
それが、案外打開策となるのだ。

――本がなくても、あいつは妙に勘のいいところがある。
求めている答えを、ぼんやりと返してくれる…

自分にとっては、本がなくても・・花が大事だった。本はどうでもよかった。
今では、皆が花を必要だと思っている。
馴染むのに早く、それはとてもいいことなのだが・・・自分以外にも重宝されるというのは時に、いや、今まさに困っているのだ。

「花殿は仲謀様と一緒に頑張りたいと・・日々申されて。ああいうしっかりした奥方でよかったですの」
「ま、まだそうじゃない」
「まあ、式はまだですが・・・事実上はそうでしょう。そうなれば今よりも精力的に動きそうですね」

喜ばしいことです、と微笑みを湛える公瑾に、仲謀はしかめっ面を返した。
そうだ、あいつは・・・きっと・・頑張るあまり、交渉とかもしに行く。などと言い出しかねない――

一緒に頑張る、と言うのなら、傍で頑張ればいいんだ。とブツブツ言いながら席に着く仲謀。
その一人言は二人の耳に届くような大きさで。
二人が目を合わせて困ったように笑っていると…

「公瑾〜いるー?さっき仕事終わったって言ってたよね!遊ぼう〜!!」
「大小!!いきなり大声あげて入って来んな!!」

怒りながらも、バッと顔をあげて、その後ろに花の姿がないか探っている様子が丸わかりである。

「仲謀仕事うまくいってないの?イライラしてる〜」
「ねー!!」
「うるさいっ!うまくいってるからお前らも呑気に遊べるんだよ・・・で?」

で?の後に続く言葉。
花は?と聞きたいのだろうな、と皆が理解しつつも…

「公瑾、行こうっ!また声の真似して!!」
「うん、今度はね・・・」
「そうして差し上げたいのは山々ですが、仲謀様の仕事が終わっていらっしゃらないので・・先にそれを―」
「えええ〜!?」
「やだ〜もう待てないっ!!」

無視して素通りする当たり、皆からかっているのかもしれない。
子敬までもほほえましいの〜と笑っている。

・・・・・・・ほほえましいことあるかっ!!!!

仲謀はくそっとそっぽ向きながら、頬杖をついてぶすっとしつつ、皆が無視できないように、はっきりと口にした。

「おい、大小。花は?」
「花ちゃん?お庭でお花にお水あげてたっ!」

仲謀はガッっと勢いよく椅子の音を立てて立ち上がると、「休憩にする」とそれだけ口にした。

「あ〜仲謀・・花ちゃんと逢引?」
「きっとそうだよ、邪魔しないようにあっち行っとく?」
「お二人とも、その辺にしてあげてください」

背中でからかいの言葉が飛び散る中、仲謀は足早にその場を去り。
通路を曲がった途端、花の許へと駆けだした。

花の姿はすぐに目に入った。
大小の言っていた通り、花の前でぼんやりしている。
葉についた水雫がきらきら光って、それを指で掬う様を見て、本当に名前は姿を現すのだと思った。
『花』よりも、かわいい―

そんなことを思って、ふるふると首を振って。
いつものように「花」と声をかけた。
振り返る前から、嬉しそうに笑顔を象ったのがわかる。

「仲謀!仕事終わったの?」
「当然だ・・・と言いたいところだが・・まだだ。当分かかるな」
「そう、大変だね。私も手伝えることがあったら、何でも言ってね」

言わなくても、勝手に色々手伝ってるだろうが。
『ありがとう』じゃなくて、こんなひねくれた考えを持ってしまうのは何故だろう。
ふと、素直にこうしろああしろ言う大小のわめきが頭に浮かぶ。
あんな風に言われるのは困るけど、花は言わな過ぎだと思った。

・・・・そうだ、俺はもっと・・・・

忙しい時期というのを理解してくれるのは助かる。
だけど、ずっと笑顔で支えてくれる、優しい花。
そうじゃなくて、「寂しい」とか、「もっと会いたい」とか・・言って欲しいのだとわかって。

自分勝手な感情ではあるけど。
会えない時間が続くと、花がひょっこり現れるんじゃないかと期待してしまう。
会いたいのは、俺も同じだから。

けど、この国に残って、少しずつ馴染んできた花は、そういうことに遠慮するようになった。
人のことを考える花だからこそ、自分にもっと我が儘でいて欲しいと思った。
きっと、そう思ってるけど、顔に出してないだけなんだ―

一緒に頑張ると、決めたことに馬鹿なくらい・・真っ直ぐに向き合おうとしているんだと―

「・・・大変なんてもんじゃない。公瑾とちょっと荊州まで出向かわなきゃならなくなった」
「え…そうなの?それなら・・・」

いつの間にそんな事態になっていたんだろう?と花は少し疑問に思いながらも、一緒に行くと口に出そうとしたところで口を閉じる。
一緒に行ってもいいことなら、仲謀は「来いっ!」って言ってくれる。
言わないなら、しっかり留守番して・・そう思ったから。

「・・気をつけて、頑張ってね」
「・・・・・・・一月くらいかかるかもな」
「そう・・・大変だけど、体壊さないでね」
「・・・・・・・・・・・・・・いや、三月、半年くらいかかるかもな」
「そう・・・じゃあ子敬さんにも負担かけるね、きっと。私頑張って手伝うね!」
「そうじゃないだろ!!」

何故か泳いでいた仲謀の目。
不機嫌に変わって。
きょとん、とした花の表情をじれったそうに覗いている。

「お前な、半年会えないって言ってるのに、言うことそれだけか!?」
「え、だって…みんな大変だなって。私にもできる事があるといいんだけど・・・と思って。何かおかしいの?」
「その前に…寂しいとか、…お、思わないのかよ」

三月も半年も、会えなくてたまるか!
俺は毎日会えないと嫌だ。と顔を赤らめながら言い放つ仲謀に、花は顔を泣きそうに歪ませた。

「そんなの、思うに決まってるよ。私だって、毎日会えないと嫌だよ。当たり前でしょ」
「なら、そうやって言えばいいだろ。…泣きそうになるくらい辛いの、俺に隠すな。一緒に歩いていくってそういうことだろ」

その言葉に、花の我慢してた涙がぽろっと頬を伝った。
仲謀は涙に動揺しながら、慌ててその涙を指先で掬い取って。

「・・・お前はもうちょっと、我が儘になれ」
「我が儘に・・?」

我が儘になったら、困るのは仲謀じゃない、と花が小さく笑を零したけど、そんなことはない。と力強く言い切られて。

「お前の我が儘は、大体・・俺様の我が儘にも通じるしな」
「・・そうなの?」
「さっき、思ってたこと同じだっただろ」
「・・・そっか、そうだった」

うん、と頷いた花に笑顔が咲いて。
こんな時間が過ごしたかったんだと、疲れていた体が軽くなる。

「・・・じゃあ、我が儘になってみようかな」
「おお、言ってみろ。俺様が叶えてやる」
「・・二言はなしだからね」

そう言った花は、何故か口を閉ざして。一度仲謀に笑いかけた後・・・
静かに目を瞑って、そのまま、待っているように――

笑いかけた表情そのままに、閉じた瞼が誘うように、薄く微笑んだ顔がかわいくて仕方ない。

「・・・な、何だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「こういうのは、我が儘とは言わないんだよ!あ〜くそ・・・」

きょろっと周りを見渡して、誰もいないか大まかに確認して。
自分こそが焦がれていた、花の蕾に唇を寄せる。

口付けくらいで、どうしてこんなに緊張して心が震えるのかわからないけど。

触れた唇から伝わる熱が愛おしくて、人目の付く場所だということも忘れて、そのまま時を刻む。

二人の、蜜のような時間――







「ねえ、仲謀。それで・・いつ出向かわなきゃいけないの?」
「出向く・・?」
「さっきの話のこと!荊州、行かなきゃいけないんだよね」
「・・・・・・・・ああ、それ、その話な・・・あ〜・・・」
「・・・?」


しどろもどろの仲謀に、花が怪訝そうな顔を寄せていて。
そんな二人をこっそり覗いていた大小は、この後、花にこってり怒られる仲謀の姿を見て大笑いしたらしい。





END







くり様。

リクエストありがとうございました!!
仲花のイラストかSS(ラブラブの)ってことだったんですけど…

今回はSSにさせて頂きました!
ラ、ラブラブ…にはなってないかもですけど(←)
呉の、ED後のほのぼのした様子が出せたらいいなあと。
公瑾さんまで出せて、みんなで賑やかなところを書きたくて。

やっぱりこの二人には大小が欠かせないと思いますし^/^

わかりにくいかもしれませんけど、仲謀は花に「寂しい」って言わせたくて嘘ついてます。
それを最後に怒られたんです。
きっと蜀にいる尚香にも手紙で伝わったと…(笑)

こんなものでよろしければ受け取ってやってください。

楽しんで頂けますように(^^)/