花奈様リクエスト




薄桜鬼:平千SS
※花奈様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『芽生え、さわやか』




父様は今頃、どこで何をしているんだろう――

蝉の鳴き声が境内から止むことなく聞こえる。
じわっと体を蝕むような暑さが、先に見える景色を陽炎でぼやかして。
空は青くて、突き抜けるように高い。

稽古の休憩中なのか、隊士さんの声も聞こえなくて。
蝉の鳴き声や、時折吹く風に揺れる葉の音だけが耳に届く。

賑やかな声が聞こえる時は、ここまで陰鬱にはならないのに。
こんな時は本当に一人きりなのだと思ってしまう。
気が付けば、考えてもどうにかなる訳でもないのに・・どうにもならないことばかりを頭に浮かべて。

境内を掃除するから、と理由づけて部屋を後にする。
日差しがさんさんと降り注ぐ中、やっぱり気分は空のようには晴れなくて。
千鶴は体を動かして気を紛らわそうと、竹箒を持つ手だけをひたすらに動かしていた。


「うう〜暑ぃ〜」

手で顔をあおいで見ても、風がそよそよ吹く筈もなく。
それでも少しでも涼を求めようと、手をばたばたと動かして。
巡察帰りの平助は隊服を脱ぎながら、陽の当らない室内へと向かっていた。

その途中、炎天下の日差しの中、不自然なほどポツンと立っている人影に足を止めた。

・・・千鶴?おかしいな、掃除はもう終わった筈じゃ…

この暑さである。日中ではなく、早朝や夕方に掃除をするようにしている筈だった。
今朝、朝稽古の後に同じように竹箒を持って掃除に精を出す千鶴を平助は見ていた。

何か、顔色も悪いような・・・

遠目に見てもわかるほど、何か元気がなくて。
そんな千鶴を目にした平助は、隊服を片付けることも、報告も忘れて、そのまま千鶴の許へと駆けだしたのだった。



一心不乱に掃いていた竹箒が、ふいに動かなくなって。
ぼんやりと見上げた柄の先に、それを掴む手と、心配そうに自分を覗きこむ―

「平助君、もう巡察終わったの?」

おかえりなさい、と笑顔を浮かべる千鶴。
その笑顔に、憂い顔を浮かべながら平助はそのまま、竹箒を千鶴の手から奪った。

「ああ、さっき帰ったばっかでさ・・ってそんなんはどうでもいいんだって!お前、何してんだよ」
「何って・・・掃除を・・」
「それは見たらわかる。けど顔色だって悪ぃし、今にも倒れそうじゃん・・何で無理して掃除する必要があるんだよ」

今朝、掃除しただろ?と、体調が悪い時は素直に寝とけよ。と千鶴を心配して部屋に戻そうとする平助に、千鶴は思わず小さく抵抗した。

「・・・千鶴?」
「・・あ・・・あのね、外にいたくて」
「外に・・そっか。でも、体調悪いんじゃ・・」
「違うの、そんなんじゃなくって・・ただ……心配掛けてごめんね、平助君」

私は大丈夫だから。
そう言って、『おかえりなさい』を告げた時と同じように笑顔を浮かべる千鶴に、平助はあのな、と言葉を重ねた。

「千鶴は・・気を遣いすぎだって。そんな無理して笑うことねえし」
「・・?無理?無理なんか・・」

してない、と言葉を続けようとする前に、千鶴は平助に手を取られて、竹箒も置きっぱなしでそのまま境内を走り抜けた。
静まり返った屯所。
部屋にこもってばかりの千鶴。
そんな千鶴の気持ちを考えれば、外に出たくなるのが当然で。なのに・・自由に動くことに気を遣わなければならない千鶴を・・

連れ出してやりたいと思ったから―

「え・・ちょっとどこ行くの?平助君っ」
「ん〜すぐ近く!行きたい所あるんだ、平気だって!オレも一緒だし。しんどいか?」
「・・ううんっ大丈夫」

走ることで、体にかかる風が、流れていく景色が。
止まっていた思考が急に動き出したような感覚をもたらして。
さっきまでおちていた心を、軽くしていく―

ようやく足を止めて辿着いた先は、屯所と同じように、蝉の声と風に揺れる葉音しかしないけど。
素直にそれを楽しもうと、心がすごく前向きなのはどうしてだろう。

「はあ・・走ったのはいいけど・・オレ巡察帰りでそういや喉が渇いてたんだった・・あ〜水でも飲んでくるんだったかな」
「ふふっ平助君、汗びっしょり」
「そんなこと言うなら千鶴だって!ほら、手が汗ばん、で・・・」

繋いだ手はお互いに汗ばんで、強く握っていないとほどけそうで。
無意識に離れないように重ねた手は、二人に自覚を促した。
一瞬無言になった二人の間に吹く風が、頬に集まった熱をさらっていく―

「・・あ・・・わ、悪いっあ〜・・手拭いっ・・・持ってねえや」
「わ、私持ってるよ。平助君使って」

慌ててパっと離した手。
そのまま、千鶴が手拭いを差し出せば平助は自分の手と、千鶴の手と、手拭いと、三つに視線を彷わせて。

「・・いや、オレはこのままでいいや」

はにかむような笑顔が向けられた千鶴は、同じようにはにかみながら微笑み返すとそのまま、自分も拭わずに手拭いをしまった。
言葉もなく、微笑み合う時間が優しく流れていく。

「・・・あっ甘酒屋だ!」
「・・え?どこ・・・本当だ、平助君よく見つけたね」
「おし、オレ買って来るから!千鶴、ここで待っとけよ!」
「え?私も一緒に・・」

行く、と言う前にぴょん、と目の前の割と高い段差を一気に飛び下りて、最短で甘酒屋に向かう平助を見て千鶴は笑を浮かべた。

・・平助君、ここがお気に入りなのかな・・?

・・どうして、ここに来たんだろう?

一人で待っていても、さみしくない。
父様のことも考えるけど、さっきまでと違って前向きに考えられる―
どんな理由かはわからないけれど、連れて来てもらえてよかった、と思っていると、甘酒二つを手に平助が戻って来た。

「これ、千鶴の分。ちゃんと全部飲めよ!」
「ありがとう、平助君。・・・・うん、おいしいっすごく元気になれた気がする」
「んなこと言って、まだ一口飲んだだけだろ。・・千鶴が倒れたりでもしたら・・オレは困るんだからな」

言った後に、気恥ずかしそうにゴクゴクっと甘酒を飲み干す平助に、千鶴はうん、と頷いた。

「ありがとう・・私でも少しは役に立っているのかな。すごく嬉しい」
「へ?いや、役に立つとかじゃなくて・・・あ〜まあいいけどさ」
「?」

飲み終わって、合間を持たせられないのか・・地面の草をブチブチ抜いては弄ぶ平助。
ちらっと横目で千鶴を見れば、それに気が付いたのか・・本当の千鶴らしい優しい面差しに思わずほっとする。

「・・・ちゃんとさ、言えよ?」
「・・・・?」
「言いにくいことだって、あるかもしんねえけど。困ったことがあったら・・・オレはいつだってお前の味方だからさ」
「・・・・・・平助君」

すくっと立ち上がって、夏の空に重なった平助の姿がいつもよりも眩しく感じられて。

「千鶴は、一人じゃないんだからさ」

な、と男の人の少し、固くて大きな手で、そっと額を撫でられて。
どういったらいいのかわからない。
温かくて、嬉しくて。
言葉も、平助君の温かさも、優しさも、すごくすごく胸に染みて。

「・・うん」

そう言うのが精一杯だった私。
泣きながら、笑顔で頷く私に、ずっと付き合って頭を撫でてくれた――


「・・・そろそろ夕刻かあ・・このくらいになると外が気持ちいいよな」
「そうだね、でもそろそろ戻らなきゃ・・夕餉の支度手伝わないと・・」
「千鶴は真面目だよなあ。一回くらい気にしなくっていいって!大体いつも千鶴当番じゃないのに手伝ってんだし」

気持ち良さそうに芝の上に寝転がり、気持ち良さそうに空に掌を翳す平助に、同じように寝転んでいた体を起こした千鶴はでも・・・と続けた。

「平助君、私の作る煮物が一番おいしいって言ってくれるでしょう?」
「ああ、うん。それはそうだけどさ・・」
「だから、作りたいの。今日は特に、お世話になったし・・私これくらいしか御礼出来ないから」
「んなこと、気にすることねえのに」

むくっと起き上がった平助。
気にすることはないと言いながらも、千鶴の煮物を思い出して途端に空腹を思い出したのか、お腹の虫まで騒ぎだす。

「・・ふふっやっぱり戻って頑張ってご飯作らないとね」
「・・・オレ、格好悪ぃ〜こんなところで・・でも、千鶴の飯はうまいし!んじゃ戻ろうぜ!」

行きとは違って、千鶴が平助の背中を追いかけながらの帰り道。
千鶴が優しく背中についた草を取ってくれるのがくすぐったくて。

オレも千鶴の取ってあげた方がいいのかな、とそわそわしつつ・・ゆっくり振り向いて。
もう全部取れたよ、と笑いかける千鶴の自由になった手をまた攫って、屯所へ駆けだした。

勢いじゃなくて、気持ちを込めて繋いだ手から、ドキドキが伝わりそうだった。

「平助君、今日は・・本当にありがとう」
「何が?オ、オレは甘酒飲みたかっただけだし…その、付き合ってくれてありがとな!」

甘酒屋は偶然見つけたんじゃ・・と漏れそうになった口に蓋をして。

全部私の為だったんだね―

嬉しさに、ぎゅっと握り返した手は、感謝だけじゃなくて、きっと――






END





花奈様。

このたびはリクエストありがとうございました!!
平千でほのぼの!
ひなたぼっこのような…と言ってくださったのに…

・・・・ひなたぼっこ・・して・・い、一応してます(汗)

ちょっと季節的に春らしくかけなかったので、夏でもほのぼの平千を。と思いまして。
平助君が連れて行ったのは少し小高い丘みたいなところ、と思ってください^^;

あの、それでどうしても括りにギャグ風味が浮かんで。
書きたくて書きたくて仕方なかったので…こっそりおまけ的に下に書いてます。
平千…なのですがほのぼのでは(-_-;)、いろいろ人が出ています。

きっとこうなるだろうなあと思って書いた続きです。
よければお読みになってくださいv

楽しんで頂けると嬉しいですv









おまけ。

「平助っおまえどこ行ってたんだよ!」
「千鶴ちゃんと二人で逢引かよ?それならそれで・・」

左之と新八が何故か、慌てた様子で二人を出迎えた。
逢引という言葉に、二人は声を合わせて違う!と否定していたけれど。

「ああ、んなことはどうでもいい。けどお前・・知らねえぞ〜」
「知らねえって何だよ、左之さ・・「平助!!てめえ・・隊服、報告放って、どこほっつき歩いてやがったんだ!!!」

鬼の副長の怒号が響いたと思えば、すぐに平助は耳たぶをつままれて、引きずられる。
とても痛そうです…

「い、いだだだだっ!!わ、悪かったって!!今からすぐにするから!!」
「うるせえっ!!てめえは夕食抜きだ!たるんでいるにも程がありやがる」
「そ、そんなああ」
「ちょ、ちょっと待ってください、土方さんっ!平助君は私の為に…」

千鶴が一生懸命弁解しようと土方の前に立って、平助の許しを乞い、罰なら私が、と言いましたが。

「千鶴ちゃんの為、ねえ〜意気揚々と甘酒買ってる姿を見たけど」
「げっ総司!余計なこと・・」
「何にしろ、大事な隊服を床に放置して、報告を怠った。これは見逃せるものじゃない。」
「一君・・・いや、わかってるけどさ・・・」
「どっちにしろ、てめえは部屋で謹慎だ、わかったな」

謹慎。

あれは辛い。
今千鶴の煮物を思い浮かべて、腹を空かせているのに…とガクっと肩を落とす平助だったが。

夜にごめんね、ごめんね・・と必死に謝りながら千鶴が持ってきてくれた、おにぎりと待望の煮物。
夜の千鶴との一時を過ごせたことで、平助も多少なりとも…いや、かなり浮上できたようだった。




おしまい。



隊服、報告…放ったら絶対こうなるなあと…^^;
最後はちょっと随想録を思い出しました。
差し入れは平千は多いと思ってます。
二人とも気付かぬ両想いの片想いがかわいいなあと思いますv

こんなものまですみません<m(__)m>