メルザ様リクエスト




ワンドオブフォーチュン:アルルSS
※メルザ様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『絡まりゆく赤い鎖』




朝から嫌な予感はしていた。

『今日はお昼外で食べようね』

それだけを伝えて、約束ね!と、俺の返事を待たずに言い逃げしたルルの背中を見て。
どうしようか、そのまま言葉に従うのもつまらないかとも頭の隅で思ったのに。
結局今、腕を掴まれて・・・適当な芝生に座らされて。

妙にウキウキした面差のルルとは対象的に、警戒してしまう。

「はいっアルバロ!どうぞ!」
「・・・どうも」

この力作を見て!食べて!とばかりにルルが手作りのお弁当を差し出せば、アルバロはにこっと微笑みを浮かべた。
ああ、これか・・と種がわかればあしらうのは簡単だ、とばかりに弁当を受け取った。
そして嬉しそうな顔を浮かべるルルの期待を見事に裏切って…そのお弁当は仕舞い込まれてしまった。

「・・どうしてしまうの?今食べようと思って作って来たのよ?」
「ルルちゃんが俺の為に一生懸命作ったお弁当だからだよ。寮に戻ったらゆっくり…」
「嘘!食べないで笑うつもりでしょう!」
「よくわかってるじゃないか」

ふっと、鼻で笑われたような気がした。
ルルは子供のように頬を膨らます。

「・・・それ自信作なの!ちゃんと見てよ!」
「じゃあ、見るだけね」
「・・・見るだけじゃなくて、食べて」

アルバロが仕舞い込んだお弁当をわざわざ取り出して、ずいっと目の前に寄せてくる。
正直、お腹が痛くなるほど笑うだけで、食べる気は毛頭ないアルバロの心情をよくわかっているのか。
最近は自分の意思を強気に押し付けてくるルルに、アルバロは、はあ、と深く長い溜息を吐きだした。

「・・・ルルちゃんは俺に押し付けるのが好きだね」
「これは、押し付けじゃなくて・・好意なの!」
「好意の押し付けだよね、これ。…それなら俺は別のことを求めた筈なんだけどね」

弁当をさておき、ルルの顎をくいっと指でひっかけて。
挑発するように目を細めれば…ルルは挑戦的にアルバロを見上げた後。
少し頬を染めつつ、その長い睫毛を伏せた。

・・・その仕草は嫌いじゃない――

羞恥に耐えながら自分のキスを待つルルをじっと見つめてから、キスを一つ、二つ。

・・・いつからだろう?いや、最初からだ。
最初に、こうしてキスをした時から・・・ずっと・・・唇を重ねる時には、ルルに腕を回して抱きしめている。

・・・離れないように?

馬鹿らしいと考えつつ、口唇をゆっくり離せば・・目に入るのはルルらしからぬ艶めいた表情。

・・・これも、嫌いじゃない――

いつの間にか、はちみつ色の瞳に目を奪われながら、体もゆっくり離せば・・小さな違和感。
自分が離れれば、すぐに二人の体が離れる。
別に何てことないことだ。だが…

アルバロがそのまま、意識をよそにおいて立ち上がろうとした時、ルルがあっ!とマントを強引に引っ張った。

「アルバロ!ごまかそうとしてるでしょう!?…ごまかされないんだから!」
「・・・ごまかす?」
「お弁当!もう・・・人が一生懸命作ったのに…」
「・・・ルルちゃんもしぶといよね。諦める方が早いと思うよ」

お弁当をアピールするルルに、アルバロがああ、それ・・と視線を逸らした。
ルルを諭すようにではなく、わざと感情を逆なでさせるように、ゆっくり言葉を伝えるその様子にルルは口を尖らせたのだが。

もう知らない!とでも言わせたいのだろうか?
・・・そんなこと、言ってあげないんだから!

ルルはアルバロの腕を逃げないようにしっかり掴むと、心を落ち着かせるように一息ついてから、同じようにゆっくり言葉を返した。

「私のしつこさは、知っているでしょう?ほら、座って…これ、開けて」
「・・・・・そうだね、本当にしつこいよね…ああ、また胃が痛くなりそうだよ・・意地悪なご主人様のせいで」
「うん、そうね。諦めたのね?じゃあ開けて」
「・・・・・・・・・」

何が何でもここで開けさせて、食べさせようとしているルルに、アルバロは返す言葉なく思わず半眼で視線を返した。

食事は…これでも気を使って食べている。
なのに、訳のわからないものを…

嬉々として、自分に食べさせようとするルルが容易に頭に浮かんで、どうしても漏れる溜息を遠慮なく吐き出しつつ・・蓋を開ければ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねー!!どう?すごいっ!?ちゃんとアルバロでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どう?ね、どう?」

どう言って欲しいのかなんて、バレバレなその単純な頭に。
けれど、どう言えばいいのか…いつものように軽口で返せないあまりの馬鹿バカしさにアルバロの頭が痛くなる。

「・・・・悪趣味だな」
「何で!?すっごくうまく出来てるのに!!ほら、これ・・タリスマンまでつけて・・・」

そう、アルバロのお弁当。
何かのキャラじゃないんだ、勘弁してくれ、と彼が思うのも仕方のないことで。

髪の部分など、わけのわからないもので作られているようにしか見えない。
何となく、目を細くして、遠目で見れば、アルバロだとわからなくもない。

「・・・ちなみに、これ、何で出来ているのか教えてくれないかな」
「それはね、香草をすりつぶして卵に混ぜたの。考えたでしょう?」

何故そんなに得意気なのか。
こんなもの、貰って喜ぶような男ではないことなど知っているだろうに。
新手の嫌がらせかと考えて、ようやく納得する。

「そうだね。お疲れ様」
「・・・何で蓋を閉じるの?食べないとお昼が・・・」
「あれを見て食欲が湧く方が・・俺はすごいと思うよ。ああ、俺の節制に協力してくれてるんだ?それは御礼を言わないとね」
「・・・・・・・・・・・・・・」

みるみる、機嫌を損ねたのか、ルルの表情が曇っていく。
けれど、怒っているのではなく、悲しそうに歪んでいく。

「・・・何がしたい?お前の嫌がらせに乗れと・・そう言いたいのか?」
「嫌がらせなんかじゃないもの!アルバロが言ったんじゃない・・だから頑張って・・」
「…俺が?悪いが、作って欲しいと言った覚えはない。」
「そうは言ってないけど…」

口籠るルルを放って、もう戻ろうかとも思ったけれど、そのマントをまだルルが掴んだままで。

・・・こういう時ばかりは縋ってくるんだな・・・

舌打ちしたい気になり、そこでふと思う。
では、どういう時に縋って欲しいと言うのか?

黙ったままのアルバロに、ルルはそんなことを考えているなど知らず、あのね、と言葉を連ねた。

「好きって表現を色々してみようと思って」
「・・・・・・・」
「手作りのお弁当なんて、すごくぴったりだと思ったんだけど」
「・・・・・・・これが、表現?」

うん、と頷くルルに、アルバロは言葉なく、ルルを見返す。
本気で言っているのだろうか、とルルを推し量るような視線を向けたが、ルルはそれをいとも簡単に笑顔で返してくる。

「アルバロの言うように、『好き』を態度でって思ったんだけど」
「・・・俺の言った表現は、こんな子供じみたことじゃあないんだけど?」
「・・・わかってるけど!でも、でもね・・・」

真っ直ぐピンクの瞳に物怖じせずに、見つめ返すルル。
その表情は柔らかいまま――

「アルバロに納得してもらう、とかじゃなくて。ただ・・私が好きだからしたかったの!これは私の好きだからしたい・・常識」
「・・・・・・・・・・・・」
「アルバロには違うと思うけど。でも・・視野を広げてみたら新しい常識が見つかるかも!そう・・思わない?
「・・・・・・それで、結局食べろって?」

こうまでしつこく食い下がるルルを振り切るのは、意外に骨が折れるから。
そう自身の行動に理由付けて、アルバロがもう一度蓋を開けた。
途端、ルルが嬉しそうに顔を輝かせる。

「うんっ!全部とは言わないから・・・一口だけでも」
「・・・・・・一口、ね」

何とも言えない見栄えの弁当に、目を彷わせながら仕方ないと、アルバロが口にしたのは・・・顔の横に付けられていたハート型に切り抜かれた何か。

ルルも入れようかどうしようか悩んだのか・・小さいハートの何か、が遠慮がちに置かれていたのだった。
苦心して作っただろうメインよりも、それに目を引かれた。
口にした瞬間、ルルが驚いたように目をパチッと見開いて、アルバロの口元をじっと見つめる。

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・はい、一口。これでいい?」
「うん、・・あのね、それ食べてくれてありがとう」

てっきり、他に調理のしようがないトマトとかを食べるのかと思ったのに。
わざわざ口にしたものが・・・

お弁当を作る時に、ハート型はさすがにまずいかなと思ったけれど。
でも、あった方が気持ちは伝わる気がして…こっそり入れたものだった。

自然に、嬉しさが溢れてくる。

一方アルバロは、ルルが何故そんなに嬉しそうなのか・・わからない。
けれど、胸を急くような感情が沸々と湧いてくる―

「・・俺にはこんなものじゃやっぱり、わからないけどね」
「・・そう?でもこれでわかるようになったら・・もうかなりお墨付きだと思うわ!だから・・今はこれでいいの」

込み上げた胸がいっぱいで、満足そうに微笑みかけるルルに、アルバロが唐突に腕を回した。
求めるサインもないままに、抱きしめてキスをすれば。

いつも、されるがままになっていたルルが、身をすくめるように折り畳まれていた腕が。
アルバロの背中にゆっくり回される。

抱きしめ返してくれる、その小さな力が心地よく。
時折浮かんだ、小さな疑問がその仕草に瞬く間にある答えに導かれそうで。

・・・こうして、キスの時に自分を求めて欲しかったのだと――

辿着きたくもない答えに辿着く自分に目を瞑る。

まだ、好きはわからない。
そんな感情、俺にわかる筈もない。
納得なんて、死が二人を分かつ時までだって、きっと出来ない。

自分自身で、いくつも気持ちを言葉の鎖で縛るように、頭の中で反芻しながら・・・それでも。

背中に回る温かさにその鎖が解けそうになる――





END





メルザ様

素敵なリクエストありがとうございました!!
FD後のアルル!甘め…

どうしても甘めでいいとおっしゃってくださると…
アルバロがこんな風になってしまいます。

ルルを好きになんてならないって思いながら、惚れこんでいそうなアルバロが好きなんです。
お弁当のくだりで、その、ルルが嬉しくてこう・・アルバロになついたというか。
だから腕が回されたような・・そんなお話です。
説明がないとわかりにくくてすみません<m(__)m>

こんなものでよければ受け取ってやってください!
楽しんで頂けますように…!