瀬南様リクエスト 

三国恋戦記:孟花SS
※瀬南様のみお持ち帰り可とさせて頂きます。



『愛しい不自由』



「魏公…?」
「うん。その方向で考えてるんだ」

帝位を巡る論争。
時が過ぎようとも、この問題が自然に片付く筈もなく。
丞相として、自分がしなければいけないことがあるのなら、自分の意思は捨ておいて、出来ることをする。
そう強く語った時の瞳をそのまま、今も宿して花をじっと見つめてる。

不安になどならない。
けれど、花がどう思うだろうか?
そのことが一瞬だけ、その瞳を揺らがせているようで。

「帝位につく、という訳ではないんですか?」
「うん。帝位ではないんだ。俺はあくまで…後漢の丞相だからね」

人差し指をさして、いつものように顔を緩めて説明してくれる様に少しだけ安心する。
大きな事をしようとする前でも、変わらない態度にこの人は丞相なのだ、と実感する。

「え〜と…つまり…どちらも納得させる形に落ちつけようとしたってことですか?」
「そう出来たらいいんだけどね。実際、魏は後漢の帝国の藩国の形をとることになる。だけど実際、この国を背負うことにはなるから…」
「…やっぱり、反対する人もいますよね」

今は権力などない、形だけの皇帝。
孟徳は形式はその臣なれど、これは立派な反逆だ、と声をあげる人達など、数えきれないほど出て来るだろう。

・・・孟徳さんの周りだって。きっと納得してない人もいっぱいいる。
向かう叛意は…孟徳さん一人に向けられるかもしれない、いや、そうなるだろう。

…私は孟徳さんの信じる道を信じる…でも…
どうにか、孟徳さんだけが責められないようにはできないのだろうか?
争いに発展しなければいい、穏やかに国をまとめあげる方法はないのだろうか?

考えても、そんな名案が思いつく筈もない。
今、考え付く位なら、もっと前に思い浮かべている。でも…

つい押し黙る花に、孟徳はじっと視線を寄せて。花を見つめた表情は何かに我慢できないように、顔を綻ばせた。

「――花ちゃん、今、何考えてる?」
「…うまく、この国がまとまるといいなって…そう思ってます」
「それだけ?…本当に?」
「…孟徳さんが傷つくことがありませんようにって…」

逸らすことのない瞳が孟徳を捉えて。
心配そうに揺れる瞳が、この先を祈るように…
自分だけ、ただの孟徳を心配してくれる瞳が、心地よくて、嬉しくて――
孟徳は花の瞼に軽く唇を落とした。

「大丈夫。君が心配することはないよ」
「…はい」
「国も、君も…俺が守ってみせるから」
「…はい」

安心させるつもりで、大丈夫だよ、とおまじないのように瞼に唇を落としていたつもりが、
いつの間にか、自分が縋るように花を抱きしめていた。
そんな自分自身に小さく笑いを零す孟徳に、花は不思議そうに見上げてくる。

「孟徳さん?」
「…最善を…選んだつもりだけど。君が…丞相としてじゃない、俺のことも心配してくれるから・・・」
「・・・はい」
「今までみたいに悩まずに決めるんじゃなくて、悩んで悩んで…決めたことだから・・・」
「はい」

すりっと首に顔を寄せる孟徳がまるで子供のようで。
花は国を背負う丞相ではない、孟徳の背中をぽん、ぽん、と軽くあやすように触れた。

「不安、もあるのかな…不安なんてないって思っていたんだけど」
「不安を抱えていてもいいと思いますよ」
「いや…指導者が迷っていては…民衆は付いてこないよ」
「…だから、今は私のところで…不安を口にしているんですから。いいと思いますよ」

十も離れた少女に、心を落ち着かされて。
それでもその温もりが離し難くて、つい、抱きしめる腕に力を込める。

「・・・傷はもう平気?痛くない?」
「はい。大丈夫です」

だからこのままでいいですよ、と言葉ではなくて、花の腕が教えてくれる。
自分と同じように。抱きしめる男を抱きしめようと腕を絡ませる。

「君がいて・・・よかった――本当に、そう思うよ。川で助けたあの時の自分を褒め称えたいよ」
「そうですね、孟徳さんが助けてくれなかったら…私きっとここにはいないだろうし」

その言葉にピクっと孟徳の肩が揺れた。小さく、花が気付かない程度に。
あのまま溺れて、元の時代でもこの時代で生きることも出来ずに…
花はそう思って答えたのだけど。

「…ああ、そうだね。そうじゃなかったら君は玄徳の許にいたんだろね。俺を目の敵にしてね」
「め、目の敵!?そんなこと…そうじゃなくって…私は…」
「目の敵だよ。玄徳とは理想が違うからね。同じ道は歩まない。相容れないだろうしね」

心なしか、声が硬くなっている。
そんな、もしもの話で苛立っているのだろうか?
花が身じろいで、孟徳の表情を確かめようとすれば、孟徳はそれを嫌ったのかますます身を寄せて、顔を埋めてくる。

「…あの、確かに、玄徳さんのところにいたら…孟徳さんと対立していたかもしれないですけど」
「・・・そうだろうね」
「でも、私が言いたかったのはそうじゃなくて、あの時、孟徳さんが助けてくれなかったら死んでいただろうなっていう・・・」
「それはないよ」

何故なのか、面白くなさそうに自分の言葉は一蹴されてしまった。
そのまま口を閉ざす孟徳の背中をあやしながら、花はう〜んと考える。

…どうして、それはない、なのかな?
本だって流されていたし、元の世界にも戻れなかったし。
意識だって失ってたし…
やっぱり、孟徳さんが助けてくれなかったら、助からなかったと思うのだけど…

「何考えてるの」
「え?やっぱり助からなかったんじゃないかなあって…」
「…君を助ける時にね、玄徳の軍の者もいたよ。もちろん遠目にだけど」
「・・・・・・・・・」
「あれは…残党じゃない。君を探していたんだ。まだうちの兵がいる最中にね。君が大事だったんだ…俺が助けなくても、君は助かってたよ」

そう、なのだろうか。
確かにあの後、子龍くんが迎えに来てくれたし…
探してくれていたのは…きっと事実なのだろう。

「君が今、ここにいるのは…俺の運の良さと…玄徳の甘さだね」
「玄徳さんの…甘さ?」

どうしたって花に最初に出会えて、共に時間を過ごしたことは花の心には残る。
そんなことが、小さなしこりとなってたまに孟徳の胸を疼かせて。
声についとげがでる。

「…もし俺が…玄徳なら…君がここに来て、一度迎えが来たよね?」
「…はい」

迎えに来た子龍を、追い返す形となったあの時。
玄徳軍の、自分を温かく迎えてくれた、みんなの顔を思い浮かべては痛んだ胸。
今でもその時のことを思い出せば、その時の気持ちをありありと思い出せる。

そんな花の様子に気付いてか、孟徳の声は一段低くなっていく。

「君が何と言おうと…俺なら連れ帰らせる。どんなことをしても…だけど玄徳はそれをさせないで…」
「君の意思を尊重するあの男は…甘いってことだよ」

一度繋いだ手を離すようなことは、俺なら絶対にしない…
今離せば…花が離れてしまえば…心がなくなると確信する。
花にしか塞げない傷を作られたなら、花だけを求めてさまよいそうな気がする…

深淵に入り込みそうな思考に、もう…と呆れたような花の言葉。
だけど、声色は呆れたものではなく…優しく孟徳の耳に届いた。

「孟徳さん違いますよ」
「・・・・違う?」
「私がここにいるのは…私が孟徳さんが好きだからです」

いろいろあったけど、孟徳さんを好きだという気持ちがあるから、ここにいられる。
それを心底幸せのように微笑む花に、孟徳は虚を突かれたようにしていて…

「…孟徳さん。」
「うん…そうだね、それと俺の君を想う気持ちとね」
「はいっ」

まだ、時折自分で作る心の檻のようなものに閉じこもる孟徳を、いとも簡単に導いてくれるのは花だけ。
心が瞬く間に温かいもので満たされて――

ごめん…もし、あの時こうだったらって…今はまるで違っただろうなって思ったら…」
「でも、今は…今でしかないです。孟徳さんの傍にいる今が、私には大事です」
「・・・・・・・うん」

花に届くか、届かないかほどの小さい声で返事をすると、孟徳はそのまま顔をそろ〜っとあげる。
まるで悪戯した少年が、何か諌められるのかを気にしているかのような素振りに、今度は花が小さく笑った。

「・・・・・花ちゃん」
「だって…孟徳さん…孟徳さんだから・・・」
「?」
「丞相じゃなくって…完全に孟徳さんですよね。私の傍にいる時は…それが何より嬉しいです」

花の、くすくす笑いを零す唇に、孟徳がそっと蓋をする。
笑わないの、と花の唇を唇で閉じてしまった。

「―――んっ…・」
「――…君は…俺の欲しい言葉をすぐくれるから・・・とっても嬉しいけど、でも…我慢し難いんだよね」
「…な、何言って…も、孟徳さんっ!?」

口付けで、体がふわふわするような甘い感覚に流されそうになった花の体は、本当にふわふわ揺れていた。
いつの間にか、孟徳に抱きかかえられている。

「傷も…平気みたいだし、もう大丈夫だよね」
「あ、あのっ…それは…その…」
「ごめんね。もう我慢できないかな」
「っ!!」

嬉しそうに、顔を緩ませながら。
大事にするよ、と聶きながら花の体を優しく褥に横たえて、合図の口付けを…
花をかき抱く腕の力が強くなった――

求める愛が底なしのように思う。
花のくれる愛情に、不安は消えていくのに。
もっと、もっと、とつい求めてしまう自分の愛欲に溺れそうになりながら。

心を止めることなど、簡単だと思っていた。
でも、できない。
寄せて、寄せられるこの幸せに浸ってしまったこの心は、止めることなど知らず。
不自由な心さえも愛しくなる――





END








瀬南様

このたびはリクエストありがとうございました!
リク第一弾でものすごく緊張しながら書かせて頂きました。
花に執着する孟徳、嫉妬、甘甘…で、できたでしょうか!?

読み直して…ああ、嫉妬というより独占欲の強い子供がいる…とか思ったんですが。
ゲーム中、孟徳は玄徳を気にしてたので…やっぱり花が自分を大好きでもちらっとでも頭を掠めると
不安になっているんじゃないかなと思いました。
とはいえ、ラブラブに最後は…出来たと…
執着っぷりは出したつもりです!

こんなものでよければ…受け取ってやってくださいv
ありがとうございました!