『・・・・・・・・っギュッ!!』



SSL沖千



***

大晦日。除夜の鐘がゴーンとゆったり空気を揺らす中。
神社には人、人、人の波。
鐘の音も人声に紛れ、かき消されることすらある。

そんな人波の中に、総司と千鶴の姿もあった。
ぎゅうぎゅうと押されつつ、前に進んでいるようである。

「すごい人ですね」
「まあ、みんな考えることは同じだよね。でもはぐれないようにしっかり掴まえてるから大丈夫だよ」

総司の言葉通り、二人の手はしっかり繋がれている。
奇妙なことに左手同士が。
つまり――

「あの、いくらすごい人ごみでも、…こんな密着しなくても…」
「何言ってるの?千鶴ちゃんとろいんだから。あっという間にいなくなりそう…狙ってる馬鹿も其処彼処にいそうだし」

総司の右手で千鶴は身体を抱えられるように歩いている。
たまに離れかけると、繋がった左手で引っ張られ、まるで背中から抱き締められているよう。

総司にしたら、知らない輩にベタベタくっつかれるのもたまらない。
はぐれないように、というのもあるけれど…千鶴を他の者からシャットアウトする為というのがその実一番の理由だった。

「・・・(狙ってる馬鹿?)あ、沖田先輩は…願い事、もう決めましたか?もうすぐ新年ですよ」
「僕?…まあ、願いなんて決まりきってるけど…叶えるのは自分だし。神頼みにする気は更々ないけど」

どうせ、願うなら…君にだろうし。と心の中で言葉を続けて。
ついでにキュっと後ろから抱き締めた。
腕の中で慌ててたじろぐ千鶴の髪に、悪戯するように顔をすりすりっと埋めていく。
くすぐったさか、恥ずかしいのか、抵抗する力が少し強くなったけど。

「〜〜〜っも、もう…神様に願わないなら…初詣に来た意味ないじゃないですか」
「あるよ。単純な理由だけど…こうして君と年を越せるよ?」

何とか総司の拘束から抜けて、咎めるような視線を向けられるのと同時に、そう答えれば途端に真っ赤になって。
どうしていいものか、唇をふるふる震わせている。

「それは…私も…嬉しいですけど…でも――」
「僕にとってはそれ以上の理由なんていらないよ。欲しいとも思わないし…あ、千鶴ちゃんカウントダウン始まったよ」
「――本当、…もうそんな時間――」

神社に集まる人が皆自然に声を揃えて、新年へのカウントダウンが始まって。
寒空の中、ライトアップされた境内に、人の吐息が白薄がりとなってかかっていく。

30!!


25!!


20!!


新しい年への希望か、皆の声が高まりゆくなか。
自然一緒にカウントダウンを口にしていた千鶴を、総司はくるっと自分の方に向けて抱き締めた。

「わぷっ」

千鶴を精一杯抱き締めて、自分の腕の中に隔離したあと、皆の声に耳を澄ませる。

5!!
4!!

カウントダウンができないとばかりに、押し付けられて苦しそうな顔を上に上げた千鶴の、空気を求める口唇に自分の口唇を重ねた。

3!!
2!!
1!!



『A Happy New Year!!』

新年を迎え、皆が声をあげる中。
静かに、身じろぐことも許さずに千鶴を抱き締めて、口唇を求めて。

人波が新年の挨拶を交し合って、再び初詣に向けて流れ始めたと同時にようやく解放してあげる。

真っ赤になって、恥ずかしさに怒ってるのか涙目の千鶴に、ちっとも悪びれない極上の笑顔を向けた。


「去年最後の時も、今年最初の時も…君を独占したかったんだ、ごめんね。怒った?」
「・・・・・独占って…あんなことしなくたって、私傍にいるのに…」

まあ、そうだろう。
普通は、普通なら…こうして傍にいるだけでも満足するのかもしれない。

けど、僕は――


「・・・君のぬくもりも、声も、呼吸すら…全部独占したかったって言ったら、わかってくれる?」


冗談じゃない。すごく本気で思ってる。
どれだけ溺れてるんだ、と馬鹿に見えるかもしれないけど…

なんて言われても構わない。これが僕の幸せだから。


「・・・・・・・」

困ったように、俯いた後。
総司に歩くのを促すようにそっと手を引っ張る千鶴の態度に、少しだけ寂しさを覚えて。
我ながら頼りない声を、背中から声をかけた。

「僕と一緒なら…毎年こんな年越しだと思うけど…」
「っ!?…そ、それなら来年は…初詣は日中に行きます…」

千鶴の言葉に、そんなに嫌なのかという思いともう一つ。甘い期待が胸を占める。

「それって…違うところならしてもいいよってこと?」
「〜〜〜〜〜き、聞かないでくださいっ」
「そこは大事なところだから、ちゃんと聞きたいんだけど」


拙く繋がる指先を、固く結び直して。
抱き締める準備をこっそりしつつ、問いかける総司に、千鶴はうらめしそうな顔を振り向けてきた。

「だって、無理ですって言っても…聞いてくれるんですか…?」
「・・・・・・それはどうかな。君が僕の傍にいてくれるなら…聞いてあげられないかも」
「ほら、…先輩の傍にいないのなんて…私には考えられ――っもうっ!先輩!!」


抱き締めようと、ずっと宙ぶらりんの腕をようやく千鶴に絡ませて。

また、甘い甘い一年の始まり――








END






SSLの沖千は書いてて楽しいですね。
お正月は屯所時代、ED後、SSLのどれかで一つは書きたかったのですけど。

やっぱり甘めにどかんと一つ作っておこうと思いました^^

毎年、年越しは千鶴の全部を独占して満足する沖田さん。
本当なら、いつだってそうしたいってさらっと言い足してそうです(笑)