斎藤さんお誕生日おめでとうSS
『飾れません。』
「面倒くせ〜な〜…ったく何で正月からこんなこと・・・・」
「正月だからだろ!たまには書道で心を穏やかにしてろ」
「俺はいつも穏やかだと思うけどな?むしろ土方さんの方が必要なんじゃねえのか?」
「それはオレもそう思う・・・何でオレらばっかり・・・」
「うるせえ!さっさと書け!!」
さっさと書くものじゃないだろう・・・?
新八と左之と平助は心の中で反論しながら、仕方なく目の前にある紙と筆に向き合った。
新年早々騒いでうるさかった三人に、同じく新年早々雷を落とした土方の様子を見ていた近藤が、
『まあまあ、トシもそこまで怒らなくても・・・そうだ、書き初めでもしてはどうだろう!』
それならば騒ぎにはなるまい、とはっはっはと声をあげていい提案をしたと笑う近藤に、誰も文句を言えなかったのは言うまでもなく。
「近藤さん、今、書道にはまってるからなあ・・・それもあるよなあ」
ブツブツ言いながら墨をすりだす三人を余所に、墨をすり終わった総司と斎藤がふと顔をあげた。
「ところで土方さん、お題は何ですか?」
「あ?題?」
「何を書くのか、まだ聞いておりません」
近藤の提案とあって、いつもより大人しくしている総司と、土方のご命令ならば、と従う斎藤に尋ねられて土方は、ああ、そうだったなと一息おいてから…
「好きなこと書けばいいんじゃねえか?」
「・・・・・・・いい加減ですね。近藤さんはきっとそんなこと言いませんよ。ちゃんと聞いてきてください」
「総司、それなら自分で聞きにいくべきだろう」
途端に総司と斎藤の雰囲気が悪くなりそうな中、土方は二人の間に入って。
「近藤さんが、好きなように書くのが一番だって言ってたじゃねえか」
「僕がいない時の話でしょう?それ、ちゃんと最初に言ってくださいよ・・・」
「好きなこと…好きなこと…」
題が決まっていない。好きなことを書けと言われると反って難しいものである。
「はい、出来ました」
悩む斎藤をよそに、総司がさっと紙を土方に見せた。
『斬』
「おまえ…好きなことを書けとは言ったけどな・・俺の部屋に飾るといい、とか言われているんだぞ?もうちっとな…」
「そういえば近藤さんそう言ってましたね…じゃあ・・・」
さらさらっと躊躇なくしたためたものを、総司は土方に掲げる。
それを目に留めた土方はぴきっと青筋を立てた。
「傑作でしょう?」
「おまえ、そりゃ俺の俳句だろ!真面目にやれ!!真面目に!!」
ばっと紙を奪い取る土方に、なあなあと平助の声がかかる。
「土方さん、千鶴は?千鶴は書き初めしてないのか?」
「千鶴?俺は言ってはないが…でも部屋を覗いた時には書き初めの準備してたから・・・してるんじゃないのか?」
どうせだから、千鶴も誘おうと思い部屋に寄れば、何やらもう準備を初めて墨をすっているところだった。
きっと近藤さんが声をかけたのだろうと、邪魔しないようにその場を離れたのだけど。
「へ〜…じゃあ僕ちょっと様子見て来ようっと」
「あっオレも!どうせならここで一緒に書けばいいし!誘おうぜ!」
「千鶴が何書いてるのか、興味はあるよな」
「だな!オレも!千鶴ちゃんの字ってそういや見たことないしな」
ぞろぞろと立ち上がってあっという間にいなくなる。
残された部屋には…こんな時だけ行動が素早い幹部たちに頭を痛める土方と。
千鶴のことが気になるけど、土方の手前行くわけには…それにまだ一枚も書けていないと頭を悩ます斎藤が。
「ふ〜あいつら・・・・何だ斎藤。手が止まってんな」
「いえ、何を書けばいいのか…模索中で」
「おまえくらい・・・あいつらも真面目にしてくれりゃあな」
ブツブツ言いながら、部屋を見渡す。
墨をすっただけでどうしてこんなに散らかるのかわからない。
とりあえず静かになった部屋の中で、俺も一枚くらい何か書くかな。そう思い二人で何を書くか考え出して暫くすると…
「ただいま〜う〜・・・一気にやる気なくした…」
「そういうなって平助・・・ん?新八はどうした?」
「新八さんならとっくに逃げたんじゃないですか?・・・・斎藤君手が止まってるね」
何やら三人がじっと斎藤に視線を集めている。
うらやましそうだったり、何かわかったようににやっとしていたり、不機嫌そうだったり、様々な視線を一身に浴びる。
「題が思いつかない」
「ふうん。ねえ、そういえばさ、千鶴ちゃん何て書いてたと思う?」
「・・・見当もつかないが・・・」
答えが気になり、ちらっと総司を見上げれば、にやっと意地の悪い笑みを浮かべて、教えてなどやるものかというように、そのまま部屋を出てしまう。
その背中に声をかけたのは斎藤ではなく、土方だった。
「おい、総司!書き初めは…」
「え?もう書いたじゃないですか。それでいいでしょう?」
「いい訳あるか!待て!」
ドタドタと総司を追っていく土方の背を見ながら、斎藤は千鶴が何を書いたのか気になって仕方ない。
「・・・平助、左之、千鶴は…何を?」
「え〜何って、『斎藤さん、「平助!おまえそれは言っちゃいけねえだろ?」
平助の言葉は左之によって遮られたけど、でも、確かに聞こえた。
『斎藤さん』
・・・・・・好きなことを書けと言われて、書いたのが自分の名前で。
見て来た三人の様子を見るからに、他の者の名前は書いてはいない?
・・・・・・・・・・・・・・
知らず熱くなる頬を隠すように俯けば、平助のいいよな〜という声が聞こえる。
諦めろと笑って諭す左之の声を聞きながら、斎藤はゆっくりと筆をとった。
「あ、斎藤さん!やっと会えました!」
「千鶴…俺を探していたのか?」
書き初めを終えて自分の部屋に戻ろうとすれば、後ろから呼び止められた。
走って来たのか、肩を上下させて息を切らして見上げる様が小動物のよう。
「あの、これ…」
千鶴が差し出したのは小さな包みと、折りたたまれた文。
「これは…?」
「あの、お誕生日おめでとうございます。・・・な、何か贈り物したかったんですけど、何にもなくて・・・」
それではこれは、誕生日祝いの・・・
「開けてもいいか?」
「え?あ、はい!下手ですけど…御守りで…」
拙く包まれた包みを開ければ、小さなお守り袋が入っていた。
「あの、中身は本物ですよ!?土方さんに許可もらって頂きにいって…外の袋は私の手作りですけど」
「そうか、ありがとう」
ふっと和らいだ表情に、千鶴は安心したように、ほっと胸をなでおろした。
だけど、斎藤が文の方を広げようとすると。ちょ、ちょっと待ってください!とその手を咄嗟に押さえた。
「読んではいけないのか?」
「いえ、あの…出来れば誰もいない時に読んでほしいな、と…あの、部屋に戻った時にでも…」
おめでとうの言葉だけではない、斎藤に対する普段の感謝の気持ちを書いたつもりだけど…それにそれ以上の気持ちが文に出ているかもしれない。
それを目の前で読まれるのはちょっと、いや、かなり恥ずかしい。
千鶴の想いに気づくかどうかはわからないけれど…
「・・・・・それは困る」
「え?何がですか?」
文は迷惑だっただろうか?
千鶴が不安気に視線を寄せると、そんな思いを払拭するような優しい笑顔。
胸がとくっと鳴る。
「すぐに…読ませてもらいたいが、千鶴とはまだ一緒にいたい。だから・・・」
千鶴が自分のことを考えて書いた文。
今すぐにでも読みたいのに、いない時に読めと言う。
でも、今は…離れがたい。傍に…そう思うから・・・
みなまで言わなくても、その気持ちを込めて千鶴を見つめると、通じたように顔を赤らめた。
結局、今読みたいと無言で、じっと見つめられてお願いされれば、千鶴は従うしかなく。
「う〜結局今読むんですか?あの、本当に恥ずかしくて…」
「・・・・・・・・・・」
「あの、ぱっと読んで終わらせてくださいね」
「・・・・・・・・・・」
じっと文を読み進める斎藤に、その場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
悪意がないだけに断りづらいというのも困ったものだと思う。
カサっと文を折りたたむ音がして、千鶴はそっと斎藤を盗み見る。
その視線にすぐに気付き、千鶴に目を向けると斎藤は目を優しく細めて…
言葉はなくても、その表情で喜んでくれたのがわかる。
書いて…よかったと思い、思わず微笑みを返した千鶴に、斎藤は無意識に手を伸ばすと壊れものを扱うように優しく引き寄せた。
おでこを触れ合わせて、手を繋いで、目を見て、
「…ありがとう」
紡がれた言葉の後に、お互いの想い合う気持ちが二人を一層に引き寄せた。
END
おまけ。
「あ〜やっと終わった…書き初めはもうしばらくいいや」
「久々に真面目に書いたな・・・っと、斎藤の書いたのが落ちて・・・・・・っておい、これ」
「ん?何左之さん・・・・っておおっ!?」
「斎藤もやるなあ…こういうこと出来るってなかなかなあ」
「もうやってられねえよ…」
斎藤の書いた書き初めには…
『千鶴』
「これ、土方さんに見せるのか?」
「置いてるってことはそうだろ?しかしこれは飾れないだろうな」
「うん、オレもそう思う」
斎藤さんお誕生日おめでとうございます〜v
え、前半のくだりがいらない?そんな!お正月だし、全員出したかったんです!!(←)
それに…書き初めに「千鶴」って書くんですよ?どんな人だ…本当にすみません<m(__)m>
沖田さん、平助君、左之さんの三人が(新八さん逃亡)が千鶴の部屋で見たものは、斎藤さんにせっせと文を書く千鶴です。
あれ?俺らは誕生日にそんなのもらってないよ?って…千鶴の気持ちに気がついて、ガーンとなったんだと思います。
…お祝いになっているでしょうか??
カラーでの口付けなんてするものじゃないですね。ああ恥ずかしい…^^;